中国ドラマ春花秋月その後番外 落花有意 流水无情3 | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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『……目指しているのは…私は……』


炎輝は言葉を発することができなかった。

何かにつけて持っていた劣等感を持て余していた。


『確かに蝶瑶が言う通りかも知れぬ。炎輝は不足分にばかり目を向け手に持っている充足に気付いていないのだ。』


『葉顔洞主…』


『我々は代々の星主星僕もいれば群れから逸れた者達もいる。私も元はそうだ。正道に於いて秦掌門の親戚筋であったが御家断絶となった。両親を亡くし行く当てのない私を救ったのは掌門の内のどこでもなく魔教と呼ばれた千月教の秋月様だった。特に生き延びたい理由は無かったが微力であれ私が千月の役に立つ事があるならと武芸にも毒の知識にも邁進した。何がどうという事はない、何かを目指すという上昇志向もない。ただ恩に報いたいそれだけだった…だが私にも今のお前のような感情に経験がある…蕭白殿もあるのではないか?』


『……ああ勿論』

白は静かに答えた


『……』


『炎輝…其方は今焦れておるのだ』


『焦れ?焦れとは…どう言う意味ですか?何を私が焦っていると…』


葉顔の言葉を受け入れきれずに声を荒げる


『周りに遅れを取っておるようで、役に立てている実感もない。鍛錬し学び汗を流しながらどこか空虚なのだ。どれだけ強くなっても知識を得ても充足するどころか果てのない戦いに身を投じていく。いつの間にか己の敵は己になりそこからはひたすらに自己との戦いになる。恐らくは力を持て余しておるのだろう』


『………』


『幸せな事だ。恵まれておる故の単なる我儘だ。お前はまだ子供なのだ…』


『………私は自分が子供じみた我儘だとは分かっています。だが…どこかこの晴れぬ気持ちがいくら剣を磨いても全く消えてなくならない…それにこんな気持ちは誰にも知れる訳にはいかない…上官秋月の息子で現鳳鳴山荘盟主の妻が姉です。自分の居場所が分からない、何をすべきかまだ知らぬこんな情けない姿を誰にも知られる訳にはいかぬから…強くなるしか…』


『…炎輝…』


春花には理解できぬ苦しみである。

しかして春花以外の人々は通ってきた道でもある。

秋月はぽつりと呟く


『私には何も無かった……敬うべき父もなく慕うべき母もない。生まれた所も死すべき場所も何も無い。ただ…ただ生き延びるただそれだけだった…この話をすればお前は私をどう思うかとなかなか話す事ができなかったが…生まれて良い存在ではなかったのだろう。私を産んだ人物は心を病み鬼人と化しておったのだろう。凡ゆる戦闘知識、凡ゆる戦略、実践から全てを叩き込まれた。戦闘兵器に心は要らぬ。母を慕うなどそんな感情がある事すら知らなかった』


『……父上?』

炎輝にとれば初めて聞くことだった。


『…気が付いた時にはもう既に毎日生きている事が不思議なほど。段々と私はこの存在自体が忌むべき者なのだと理解した。私が生きるのを続けてこれたのはただただ叩き込まれた復讐心によるものだ…そのたった1つの理由が私を生かしておった』


『……復讐心…』


『炎輝お前は何がしたい?その力で知識で』


『……私は……分かりません…何がしたいのかどうしたいのか…』


『解決策がないわけではないが…それは人それぞれだ。参考になるかは分からぬが…』


『……』


『失って困るものを見つければ良い』


『失って困る?』


『これは答えではない。一つの鍵だ』


『……』

白と葉顔は秋月の言葉の真意に気付き目を合わせた。

『私が今生きている理由は復讐心ではない。』


『はい。それは見て分かります…父上に復讐心の様な渦巻く感情は見受けられない』


『…以前はそうであった。だが今はただ春花と1日1日を共に生きて行きたい。それだけだ』


『……』


『その一つだけだがそれがやがて春花を大切に思うのと同様に春花が大切にしているもの全て私が守りたいと願う様になる。何故ならそうすればきっと春花は喜ぶからだ。私が生きる理由はただ一つ春花だ


『……兄上』


『前も後ろも真っ暗闇で生きてきた私に春花という光が与えられたのだ…』


『そうだな。確かに其方は命を落とした春花殿を救う為に身の危険も顧みず四方八方敵に囲まれた状態で全功力を注いだ』


『……母上が?一体いつの事です?母上が命を落としたとは…』


『ああ、これはお前が生まれるずっと前の話だ…混乱の世にあって食せば永遠に生きられるという長生果を巡り武林は混沌としていた。秋月様は春花様の命を救う為に…長年の願いであった江湖統一を目前にして全てを投げ打ったのだ』




白と葉顔の言葉に炎輝は信じられない表情で秋月を見つめた。


『……』


『…必死だったのだ…。

初めから誰も、自分以外は…いや自分でさえ信じる事が出来ない。そんな私の前に現れた春花はそれまで出会ってきた人間とは違った。兄だと名乗ればそれを信じきり違うと分かった後も私のわがままを聞き【家族】であろうとした。孤独ではないと慰めた…その度に胸の奥に何かが触れて。何であるかを確める為に春花を傍に置きたがった。』


『何であるか…判明したのですか?』


父は息子の問いに頷いてみせた。


『束の間、私の策略通りに事が運び春花と過ごせた。暗い洞窟、あの女に閉じ込められ壁の氷で飢えを凌いだあの千月洞が…春花がいるだけで天上にいる様だった…しかし幸福を感じればそれを失う恐怖が直後に襲う…心を通わせれば同時に全てを裏で操った結果だと罪悪感までもが生まれるのだ…蕭原への復讐に蕭白の婚約者を奪うという一興などどうでも良かった…春花は周りの人間、関わった人間が困れば後先もなく敵陣に飛び込む…春花が一目置く程信用する鳳鳴山荘の若盟主を憎くもあった…』


秋月は白に目を向ける。

白は懐かしいとばかりに思わず笑んだ。

『あの頃は私も未熟すぎた。義にばかり気を取られ、春花殿の優しさや思いやりを仇で返した…その逆に秋月殿は永遠の命など目もくれずひたすら春花殿の心を欲しておったのだな…未熟者の私には何も理解できていなかった。見当違いも甚だしい正義感を振り翳し…愛に生きた傅楼を死に至らしめた。そればかりか春花殿を利用し上官秋月の居場所を案内させた…何も知らずに其方を想い心中で呼ぶ春花殿を裏切り者のように見せたが…あの時初めて春花殿と其方を引き剥がせたと喜ぶ黒い感情に気付き戸惑った。』


『………』


『確かにあの時は突然現れた冷影と一戦した後、春花がお前達を連れてきた。私を裏切ったと思った…誰かを信じた代償がこの胸の痛みかと怒りが込み上げながら何処かで裏切りを信じぬ己も存在した…そもそも蕭白の元へ戻った事に失望し怒りが勝っておったのだ』




『母上は裏切ったのですか?父上を?』


『炎輝。お前の母にそんな事ができると思うか?千月の毒薬を見ても持ち出せるのは三日酔程度だ』


『……確かに』


『…しかし秋月様は雇晩が春花様に盛った百花刧の毒を解毒する事を諦めてはおりませんでしたね…私はその矛盾を結論付けるのに時間がかかりました。』


『確かに矛盾しておった。縁を切ったなら解毒などせず放っておけば良い…いずれ手を下さずとも死ぬのだから。だが私を裏切った罰だと思えなかった…信じたかった……誰が傷つこうが死のうが何も感じた事のない私が…春花を失う事が恐怖となったなど私自身が驚いた程だ』


『失って困るもの…それで父上は江湖武林の統一ではなく母上を選んだと…言う事ですか?』


『…そんな事もなければ分からぬ程未熟者だったのだ。武林の統一、あの女の恨みなど全て吹き飛んだ…人間1人には1つしか与えられぬのかも知れぬ。古代の者達はよく言ったものだ。兎は二兎追ってはならぬ。一羽のみと決まっておる』


『……そうだな。私は義を追ったがそればかりに傾倒し欲した愛は得られなかった』


春花は白の視線を感じながら気不味く俯いた。


『違った形の愛はある…仲間達から厚い信頼も得ておるではないか…』


『なんと、秋月殿から褒められる日が来ようとは…しかし炎輝。私と其方の父との違いは理解できたか?』


『そなたの父は愛を手にし家族を得た…私は武林を得たが未だ独り身だ』


『ふん、そう言うが若盟主にも当時色々と縁談はあったのを全て蹴散らした事は知っておる。いずれにせよ炎輝、頂点に立たんとする者はいつも孤独だ…そなたもいずれわかる』


『なっ…何故それを…』


『秋月様は春花様に誰も近づけまいと気を配っておられましたね』


やりとりに葉顔は思わず笑った。

春花は初めて聞く話だと目を丸くする。


『……葉顔…洞主になってからお前も言うようになったな』


『はっ申し訳ございません。。』


反射的に頭を下げる葉顔


『葉顔洞主が頭を下げるなんて……』


『なんだ蝶瑶。不思議か?』


『いえ…そうでは…』


『所で炎輝…其方に提案がある…以前から清流に相談されておった事だが…』


『はい…』


『修復し終えた伝奇谷を…其方に頼めぬか?』


4完へつづく



さて、すみません。バタバタあげました。

ゆっくり加筆します。