中国ドラマ春花秋月その後番外 落花有意 流水无情2 | **arcano**・・・秘密ブログ

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春花は、乱暴な口調であれ、それでも己を抱き抱える息子炎輝の力強さに誇らしさを感じた。

と同時に秋月よりも遥かに高く飛ぶ事に気付いた。


『……』


『どうしました?母上…』


『あ、ううん…別に…今日は景色が少し…それに何だか寒くて…』


『あぁ、もしかして…高すぎましたか?』


『え?』


『父上に言われていたのを忘れてました…母上を連れて飛ぶ時は高く飛びすぎるなと…怖がると思ってるんですよ父上は』


『……』


『父上は何に於いても最優先は母上だ…その次は姉上、そして桃雨…』


『そんな事はないわ…みんな同じように接してるもの』


『……姉上は父上に似て優秀だし…それに鳳鳴山荘盟主の妻だ…桃は幼少でありながら底知れぬ可能性が高い…私は凡人も同然だ…母上にそっくりで』


『何よ…あなたもしかして噂の反抗期??』


『……何故笑ってるんです?…はぁぁあもう、力が抜けるなぁ…』

千月閣に到着する。

勝手知ったる場所であるように炎輝は挨拶もなく侵入していく。

『まるで我が家みたいね貴方…葉顔さんの配下の人達も何の不思議もなく貴方を受け入れてる…何だか不思議だわ』


『??何故です?当然ですよ、葉顔先生にも私は教えを頂いておりますから…あ、、』


楼閣から現れた人物はこちらに気付くと驚いた様子で走り寄る

表情を変える炎輝に春花は振り返った。

『春花様!!どうされたんです!?こんな所までおいでとは!』


『まぁ、蝶瑶さん。いえ、貴方に桃を送ってもらうのも申し訳ないし、たまにはと思って炎輝と迎えに来たのよ…』

蝶瑶は風の様に爽やかでそれでいて人懐こい子犬の様な笑顔を見せた。

『そんな!申し訳ないだなんてありません。むしろ楽しみ…あ、いや。えーと、無事に桃を送り届けるまでが私の仕事ですし…今疲れて昼寝をしていますが起きたらお連れしようと思っていました。』


憧れの春花を前に行き過ぎそうな言葉を飲み込み咳払いをしながら何とか体裁を整えた。

『あら、そう?でもいつもは悪いから…白も静養に来てると聞いたし久々に月餅を作ったから皆さんにと思って』

蔓で編まれた籠の中から包まれた月餅を取り出した。色とりどりの月餅に蝶瑶は目を輝かせた。


『わ!月餅!有り難いです…母が生きていた頃はよく作ってくれました。これは…これは千月の皆喜びます。』


『蝶瑶さん、あの…俺もいるんですけど』

炎輝は葉顔の毒、薬知識ばかりか今や蝶瑶を師とし各星主星僕にそれぞれ伝わる体術、弓術、槍術を学んでいた。


『あぁ、炎輝かすまぬ。つい…春花様にびっくりしてな…この千月にいらっしゃるなど珍しいあまり…あ、そうだ、春花様。月餅に気を取られて興奮しました。蕭白様と葉顔洞主は千月閣にて碁盤を囲んでいますよ…丁度秋月様がいらして今お通ししたばかりです…』


『え?』


『父上が?何故ここへ?』


『???さぁ、何やら葉顔洞主に話があると…何か問題でもあったか?』


『……父上はいつもそうだ…何を考えておるか少しも分からぬ』


『炎輝どうしたのだ?…春花様…何かあったのですか?』

蝶瑶は普段と違った炎輝に戸惑いを見せた。

『少しすれ違いがあったみたいで…大丈夫よ…とにかく行きましょう』

蝶瑶の動揺を軽く流すと千月閣の奥へと足を踏み入れた。

久方に訪れたこの冷ややかな空気感は酷く懐かしく春花の全身を包んだ。その後を追うように炎輝と蝶瑶が続いた


『……母上!何処にいるかも分からぬのに勝手に動き回られては困ります』


『あのねぇ、私は一応ここに住んだ事もあるのよ?軟禁?みたいなものだけど…何処に何があって、兄上が何処にいるなんてすぐに分かるもの』


岩回廊を進むと左右にある扉が並ぶ。

腕に付けた氷蚕珠はチカチカと明滅して知らせた。


『あ、ここね。きっとそう!』


『ちょ、春花様っ』


戸を開くとさっさと行ってしまった。


『母上!』


『シッ!…見て…あそこ…いるじゃないの』


『…父上っ!』


秋月と蕭白、そして葉顔を見つけた。


『静かに!何をしに来たか見てみましょう?』


『何をしにきたかってどう言う事です?』

蝶瑶は事態が把握できぬと訝しんだ


『…私との約束を破ってまで此処に来る用事とは何か知りたいのは確かです』


『シッ、、』


3人は丁度窪んだ岩陰に身を潜めると耳を澄ませた。

一緒にいた葉顔は秋月に一礼すると何処かに消え、残された白と秋月が何やら難しい顔をしている。


『で、秋月殿。葉顔洞主が今取りに行った氷蚕とはあの鳳鳴刀にも関わりのある氷蚕糸の原料かい?』


『ああそうだ。あの氷蚕の糸は異常に強くそしてよく伸びる。炎輝にも実際に実物を見て説明をせねば生態は分からぬ…』


『なるほど氷蚕について炎輝に伝えねばならぬと…それで氷蚕を?』


『……ああ』


『それにしても炎輝は益々強くなるな…鳳鳴山荘では冷凝、彩彩の両掌門直伝の技を仕込まれ、千月でも葉顔洞主を師と仰ぐ…春花殿譲りの明るさと機転と度胸は目を見張るものがある…1つ提案があったのだが…なんだ?それにしては浮かない顔だが…』


『いや、別に何もない。だが…炎輝に…息子に氷蚕ばかりではなく千月教引いては前身星月教についても…完全に全てを教えてはおらん。余す事なく全てを伝えて良いものかどうなのか…正しい歴史を学ぶ事は大事だが…そうなれば私自身の事も聞かせねばならん…だが…』


『……兄上…やっぱりそうだったのね』

二人の会話を盗み聞きしていた春花は身を隠しながら呟いた。


『どうしたのだ?秋月殿。其方が珍しく後ろ向きとは…確かに実の母親からの仕打ちとは思えぬ事だがそれを明け透けと話して聞かせなくとも良い気もする…大人になれば炎輝もいずれ理解するだろう』


『……正直…そもそも私は【父】という物がどんなものか未だに分からぬ』


『………』


『蕭白。お前は幼少より父に学び成長しただろう?私はあの女に…母とも口にしたくないあの女に体に刻み込まれて力を得ていった…そんな私が父親として息子に何が教えられるのか?考えても考えても答えが出ぬのだ』


『ああ、なるほど…確かに其方の生い立ちでは父の在り方や親として子の手本などは…難しい事かも知れぬな。しかし、其方は立派に父親として3人の子供達にその背中をみせておる。人を愛し守る事を貫いておるではないか…

私には立派な父親はいたが、蓋を開ければどうだ?上官恵を裏切り、心開いた者達を欺き手に入れた地位だった。私はその事実に傷付き絶望しそれまで信じていた【義】も【心】も脆くも霧散し人間の愚かさを知る事になった。お陰で父への尊敬の念が少々損なわれたのは否めまい』


『……しかし父としては蕭原はお前という息子を立派に導いたではないか…私にそれはできぬ…』


『それでも此処に来た…炎輝に応えようとしたのだろう?』


『………私は父として己がどうなのか分からない…ただ春花が私を父としての役割を促してくれて成り立っておるようだ…子供達が私を父にしてくれている…だが、本当にそれが正解なのかは未だに分からぬ』


『ならば私がもし炎輝の父親だとして立派な父になるかと言えば…分からぬであろう?』


蕭白は秋月に問うた


『父親というものを知っておるだけに良い父にはなるだろう。分かりきった事だ…』


『それはどうだか分からぬぞ?それなら聞くが炎輝が生まれた日を覚えておるか?』


『勿論だ…あの日はうだるような夏の夜だった。夕立が乾いた地面に土煙を作るほど激しく打ち付けたにも関わらず気温は下がらず蒸し暑い中で炎輝は生まれた。春花は全力を出し切り疲弊しきり、傍らでそれを打ち消す様に力強く泣く赤子の姿に感動した…雪が生まれた時とは違って…息子となれば気を引き締め良い父にならねばと誓ったがやはり知らぬものにはなれぬのだ…』


『……立派な父親だ』


『???蕭白、今の話を聞いておったか?』


『ああ、聞いていた。子の誕生の瞬間を忘れる事のない立派な父親だ。』


『………』


『上官秋月は立派な父親よ!自信持って』

堪らず乱入する春花は勢い余って秋月に抱きとめられる。


『!?…春花、ど、どうして此処に』


『春花殿…?』


『月餅作ったからみんなで食べようかと思って…ううん。そんな事は良いの。兄上は立派な父親よ』


『だが……』


『本当は…嫌だったでしょ?氷蚕の事炎輝に教えるの。だって嫌な思い出だものきっと…毎日痛ぶられながら世話をした氷蚕の事なんて見たくもない筈でしょ?なのにここまで氷蚕を取りにきた、、我が子の為に嫌な事を乗り越えようとするなんて、父親じゃなくて何なの?』


『そんな大層な事では…』


『私も春花殿と同じ意見だ…』


『………』


『私もそう思いますよ秋月様…それからこの小鼠達もきっと』


葉顔は蝶瑶と炎輝を連れ現れた。


『な、炎輝、、何をしておった。まさか話を聞いて…春花!』


『………』


『すみません父上…私は…自分を卑下し勝手に自暴自棄に…』


『炎輝…何を卑下する所があるのだ?弟を可愛がり姉を助け、父不在の際は懸命に家族を守る。その為に武芸も知識も会得している其方は誰にも引けを取らぬ自慢の息子だ…だが…この父が父としては未熟者だ…氷蚕の姿を見るのも虫唾が走る…まだまだ良い父にはなれぬ様だ』


『……差し出口を申し訳ありません。よろしいでしょうか?』


『蝶瑶…どうした?申せ』


『はい。炎輝に一言…』


『……』


『しっかりしろ、炎輝。私は其方が羨ましい。父に聞きたい事があってももう父はいぬ。母の手料理が食べたくても母はいぬ。目の前に両親が生きて感情をぶつけ合う事ができる。私にはそんな人はもういぬ。

氷蚕について学びたければ暫くお前に世話を任せれば良い事だ。しかし秋月様は直に伝えようとなさった。嫌な事から逃げずに向き合う姿を見せて下さった。暫く氷蚕の飼育をしてみれば良い繊細な生き物だけに飼育は難しい…お前みたいにな』


『なっ…私は繊細では…』


『其方は足る事を知らなすぎる』


蝶瑶は拳を握り吐き捨てた


『足る事を知らぬ?』


『自分に無い不足した面ばかりに囚われ恵まれておる部分を見ておらん…だから卑下するのだ。お母上に似て明るく、思い切りも良い…お父上譲りの冷淡さと技術の吸収力…怖いものなしで他に何が必要なんだ?何処を目指しておるのだ…』


『……』