中国ドラマ春花秋月その後番外 比昨天多、比明天少1 加筆済み | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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普段は人が訪れる事もない傅楼游絲の花畑は爽やかな風が通り抜けた。


この場所がこれから先も己にとって重要な意味を持つ事になるとは蕭白に別れを告げ鳳鳴山荘を去ったばかりの春花には知る余地もなかった。


ただ此処は何故かあの正邪の争いの絶えない日々でさえも心の晴れる場所で、病弱な妻の為に作らせた今は亡き傅楼の深い愛を改めて実感する。


『ここは…やっぱり気持ちいいわね…』





見渡す限りの花達は吹き抜ける空気に翻弄されるように揺れていた。

春花は来た道を振り返る。

秋月と暮らす邸が霞みに紛れて見え随分と遠くまで歩いてきたのだと帰りの事を憂うと足を動かす気も失せその場に腰を下ろした。


『はぁ…ちょっと散歩するだけと思って出てきたのに…こんなの遠足よ…お腹もすいたし…昨日兄上が嫌味で持ち帰った包子でも持ってくればよかった』


揺れる黄色の花弁を見つめ昨夜の事を思い出していた。目の前の花一輪を手の甲で小突く。


『上官秋月…本当に意地悪…』


溜息を吐きながらその辺りに体を横たえた


『あーあ。このまま目を閉じれば眠ってしまいそう…大体兄上のせいでいつもあまり眠れないし…寝ちゃおうかしら』


上空では雲が流れている。

白い雲は秋月の長い白髪を思い出させた。


酷く胸が軋みチクチクと痛む。その痛みは不快ではないがやがて不安に苛まれる。


『今はまだ外に出るのは危険だって…ばかよ。なら私だってやってやるわ!』


おもむろに立ち上がると霞の向こうの邸を眺め、意を決した春花は秋月と暮らす邸とは反対方向に歩き始めた。


『……とは言え…私には帰る場所もない。夫と喧嘩した妻は実家に帰るって昔のドラマで見たけど…何処にも帰る家が無い妻はどうするの?』


何やらぶつくさと不満を口にしながら花畑を抜け、林道に分け入る。道という道は獣が付けたであろうものしかない。


『…でもこのまま町に出たとして私を知ってる人に襲われたら?だってあの戦いの中にはいつも私がいたんだもの……誰かの恨みを買っている可能性もある』


先の戦いで秋月は百花刧の毒で消えかけた春花の命の火を再び呼び戻すように自らの功力を注いだ。

江湖武林を恐怖に脅かしていた魔教の長が1人の女子を救うために消滅したのだ。


『悪魔の囁きに踊らされた人は悪いけど…犠牲になったその家族は…兄上に恨みを持ってるわよね…例え強欲さ故でも、家族はやっぱり人間だもの悪魔の囁きをした兄上を憎むし、そしたら私も無関係ではない』


自分の置かれた状況を冷静に考える。

間接的にでも誰かの恨みを買うのは常に後ろめたさの波が寄せては返す。秋月の行動に影響を与えなかったとは言い難い。

むしろ自分を取り戻す為に強引な行動やとある町の宿屋の人間を消す事もあったのだ。


不安定な立場に身震いがした。


『…なによ。怖くないわ別に。兄上がいなくたって全然大丈夫だし私は籠の鳥じゃないわ』


進むにつれ鬱蒼と暗くなりゆく森に内心慄きながらも春花は心を奮い立たせ立ち止まる事はなかった。


目の前に大樹に絡み付いたツタがしな垂れ、行手を阻む。それを手で払い、更には地面に張り出した根に足を掴まれようとも尚もどんどんと深淵に入り込んでいく。


腹立たしさを動力に自棄を起こし腹立ち紛れに進み、森の奥をどちらに向かって歩いていたかも分からなくなる。


『ん?…あれ?…』


元に戻らんと振り向くが、来た道すら記憶にない。

足元の草は水気を含み、歩く度に春花の足を濡らした。


『……なんなの?この草!邪魔ばっかり!』


葉を引き抜くと断面から溢れるように水滴がこぼれ落ちた


『え?何凄い…この葉っぱ!』


葉を幾つか集めながら木々の葉の重なる隙間から差し込む日差しに幻想を見つけた。


『兄上に見せたら何の葉か分かるかも』


葉を手に取ると光に翳してみつめた。


『春花様?』


何の気配もなく背後からかけられた声に驚く


『わっ、ビックリした。葉顔さん!』


振り向いた春花は声の主がよく見知った葉顔でこの上なく安堵し、それと同時に如何に心細かったのかを知った。


『どうされました?こんな場所で…尊主…あ、いえ秋月様とここまで?』


『……いいえ?私1人でここまで来たの』


『お1人で?何故です?ここはもう千月洞の境界付近ですよ…獣にしては妙な気配がすると見に参りましたがまさか…春花様とは…秋月様と何かあったのですか?』


『……何かって…別に。ただ、色々考えてたらむしゃくしゃして家出しても帰る家もなくて…えーと、あそうだ。八仙府にある酒楼の包子を買いに…兄上ばかり出歩いてるのも癪だし』


『……』


葉顔は静かに見つめた


『なによ…疑うの?』


『いえ、ただこの森を抜けるのにまさかその様な出立ちとは…準備もなく闇雲に歩き…水玉草を踏みしだいて足元も水浸しではありませんか…』


『……』


『さ、春花様…では参りましょう』


『え?私は帰らないわよ!』


『……はい…大丈夫です。私も八仙に行く用事があるので。お送りしますよ…帰りもお任せください。して秋月様はこの事はご存知でしょうか?』


『……勿論よ』


『……分かりました。では参りましょう』


葉顔は春花の腰を引き寄せると高く舞い上がった。


2へつづく



後から加筆しゃーすニヤニヤ