中国ドラマ 春花秋月その後番外聖夜の誓い 加筆済み | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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春花の命が尽きかけたあの瞬間、秋月は迷いなく我が命よりも春花を優先した。
秋月の持つ三陰の気全てを使って、例え無力になった己が誰に命を奪われても、そんな事はどうでも良かった。
江湖武林の統一の夢が潰えても、それすら目の前の武芸もできぬ家柄や後ろ盾も今や全てを失った春花の命の方が遥かに秋月の中で大切な事であった。

春花に全ての力を注ぎ、無力になった秋月を現れた葉顔に救われた。

葉顔は秋月を氷谷へ送り、這々の体で横たわる秋月も又春花と同じく深い眠りについたまま目覚める事はなかった。

春花が目覚めるより少し前に覚醒した秋月は己の中にはもう何もない功力も内力も消え去った空虚なただの人であると知った。
葉顔は洞主となり千月洞の乱れを抑え、秋月は伝奇谷にある邸に移った。此処は、傅楼が妻の命を救うため寝ずに長生果を探し、束の間休むために簡易で造設した邸である。游絲が花見に疲れた折休む為にも使っていた。

『尊主…何か困った事はありませんか?』

時折秋月を見舞う葉顔。

『もう尊主ではない。それに、此処へはもう来ぬが良い…千月洞を守る事に専念しろ』

『はっ…しかし…』

『まだまだ不穏分子は0ではない。この機にお前の力を持って反乱を収め、千月洞洞主葉顔の名を知らしめるが良い』

『……残党がまだ追ってくるやも知れませんので』

『その時はその時だ…私の持つ三陰の気は枯渇したのだ。なんの力も持たぬ今何者が来ても危険には変わりない。甘んじて死を受け入れる』

『……それは…』

『葉顔、1つ…聞いても良いか』

『はい』

『春花は…無事であるか…それだけが知りたい』

『……』

『お前はあの秦流風とは従兄弟の間柄だ。何か情報はないか?』

『……未だ目覚めはしていないようですが…気は安定してきたようだと、八仙の李漁が申していたようです』

『そうか…ならば良い。春花が目覚めるのも時間の問題であろう…』

秋月の心は何故か晴れていた。


『会いに行かれますか?もし行きたければ私がお連れして…』

『要らぬ。この世に春花が生きている。ただそれだけで良いのだ…他には何も要らぬ』

持てる力の限りを尽くし愛する者の命を救った。力の放出で秋月は負の感情をも解放した気分であった。

『しかしもし春花殿が会いにきた時は…』

『私はもう何も持たない。力も、洞主でもない…そんな私に春花が会いに来ると?それよりはあの蕭白の元で暮らすのが良いと思うのが当然と思うが…』

『…いいえ。それはあまりにも春花殿を理解していらっしゃいません。私は必ずや春花殿は此処に、秋月様に会いに来ると思います…』

『……来ても…追い返すだけだ…武芸もできぬ利用価値もない女子などなんの助けにもならぬ。それに何よりあの蕭白が春花を手放す訳がない』

『蕭白には春花殿を縛る権利はないかと思いますあの男は春花殿より武林の平和を、江湖統一を選択したのです』

『だからこそだ…』

『?』

『春花は平穏を望んでおる…蕭白の傍で暮らせば平和で安全であろう…』


『尊…いえ、秋月様。では、もし春花殿が此処を探し当て、秋月様の御前に現れたその時は是非追い返して下さい…』

『追い返せぬとでも?』

『あの方を見くびり過ぎかと…』

『ほう、流石洞主だ。言うようになったな』

『も、申し訳ありません…つい出過ぎた発言を…』

『気にするな…それに…正直な話本音を言えばこの姿を春花に見られたくはないのだ。春花は情が深い。私が春花を救う為にこうなったと思えば…傍にいようとするだろう。それは結局春花を縛る事になる。以前はどんな事をしても傍に置きたかったが今は…生きていてくれさえすれば良い…自由に春花らしく』

『…………』

それこそが愛の真髄であるとは葉顔は口に出せなかった。

それから暫くし春花が目覚めた事は千月洞にも知らせが入った。しかし葉顔は秋月にそれを伝えるつもりはなかった。
同じ女性として春花の進む道を見てみたいと興味は抱きつつ、そうであるが故に彼女が選ぶであろう道が容易に想像でき、そして小さな胸の疼きと共に絶望に襲われていく。

それを見届ける勇気も未だ持つ事ができなかった。

葉顔の中に在った秋月への情が足を踏み出す勇気を奪っていた。

何処からともなく吹き始めた新しい風が葉顔の頬を掠めていく。

長い眠りから覚め、鳳鳴山荘を出た春花が秋月の元で暮らし始めた事を耳にした時、例えようもない程の安堵と、絶望とそして心地よい敗北感で葉顔は満たされた。
主従はなくとも此処には来るなと命令されれば従う師弟関係である。それでも伝奇谷と深い魔の森との境界で、時折秋月達を見守る。

『あら?葉顔さん!!』

前谷主の花畑は今日も目も覚めるほどの黄色い花で埋め尽くされている。よくよく見ると花の種類は様々でそれを確かめようと一歩足を踏み入れたのが運の尽きだった。

身体が自由に動く様になり、少しばかり足を伸ばした春花と遭遇したのだ。

『し、春花殿…。お久しぶりでございます。め、目を覚まされたと…やはり此方に…』

分かってはいたが此処にいる理由もなにも用意していなかった。

『ええ…貴女は?』

『はい…私は…』

『あ、そうだ。此処に住まわせてくれてるの葉顔さんのおかげだって兄上が…ありがとう』

『いえ…此処は傅楼谷主の花畑です。私は別に…』

『でも、兄上は貴女のおかげだって言ってるから…』

『あの…春花殿は…何故』

『?』

『いえ…以前秋月様が春花殿は平和に過ごす事が望みであると申しておりましたので…鳳鳴山荘にいた方が余程望みに沿うのではありませんか?』

『まぁ、あの人そんな事を覚えていたの?たしかにいつまでも長く平和に暮らしたい。でもそれは愛する人と一緒でなければ意味を成さないわ。だから鳳鳴山荘を出たの…彼処に私の愛する人が居ないのだから…当然よ』

『ですが…秋月様はもう洞主ではありませんし…』

『葉顔さんもあの人と一緒ね。良く似てる』

『え?』

『都合の良さや損得でなく…私はこれから先、共に生きたい人の傍にいたい。そんなに理解するのは難しいかしら?』

『あ、いえ…しかし。確かに秋月様と私は似た思考かも知れません。』

『……似た思考?ちょっと怖いわね』

変わらぬ春花の驚いた声、そして懐かしい柔らかで悪戯な笑顔に唆されつい口が軽くなる葉顔

『私は父母を殺されました。死ぬ事さえ許されず醜く生きながらえた…秋月様に救われた事に感謝しながら又憎しみもある。』

『どう言う事?』

『あの時死なせて貰えればと…』

『そんな悲しい事を言わないで…貴女が生き伸びてくれたから…瀕死のあの人助けてくれたんでしょう?命は大事だわ…1人に一つしか貰えないの。』

『……やはり』

『ん?』

『春花殿は目を開けるのが憚られるほど、眩い方ですね…武芸もなにも持たぬ女子ですが…貴方様には【温かい心】がある。それを秋月様もあの蕭白も欲しがったのでしょう。秋月様は私の中にある感謝と憎悪を感じておられた。信用を得られなかったのも頷けます』

『葉顔さん…私そんなものは持ってないわ。普通よ?』

『春花?春花どこにいる?』

『あ!秋月兄上だわ…内緒で出てきたのにもうバレてしまった!…っと、葉顔さん、お茶でも?』

『あ、いえ…私はこれで…それでお願いなんですが、、今日私がきていた事は内密にして頂きたいのです』

『え?どうして?』

『此処には来るなと命じられましたから』

『それは貴方達2人の関係でしょ?私の客ならば良いじゃない?』

『は、はぁ…ですが命令ですので…では』

段々と秋月が近付いてくるのを感じ、一瞬目を逸らした隙に姿を消す葉顔。

『春花!何故勝手に外へ出た?』

春花を見つけその小さな身体を抱き寄せる秋月。
見上げる春花の瞳が酷く艶かしい。

『春花?』

『なに?』

『そろそろ…春花の全てを兄のものにしたい』

『だ、だめよ!』

『何故だ?』

『まだ、体が本調子じゃないから!』

『……』

『なによ?疑ってるの?』

『疑ってはおらぬが…寂しい』

『寂しいなんて…良く言う』

『何がだ?急に機嫌が悪くなって…どうした?』

『いい?ちょっと此処に座って…私の話をよく聞いて』

『……』

『私…いつか言いたかったの』

『……』

『兄上は私を見捨てたでしょ?あの時私…死ぬ程寂しかったし、裏切られた気分にもなったの』

『見捨ててはおらぬ』

『いいえ。傅楼に捕まった時兄上と呼んだ私に怒って…私はこの世界に頼れる人も居なくて、信用はしてなかったけど兄上がいて少し安心もしてたのに…でもあれは游絲さんを探る為にわざとだった。兄上は私を利用してばかりだった』

『…それは……悪かった』

『扱いがぞんざい過ぎて傷付いたの……あの時の心の傷がまだ癒えないの。だからまだ無理よ……ちゃんと私を大事にしてくれるって信用できないと…』

見つめていた秋月の瞳に翳りが見える

『まだ、信用を得られないのだな。確かに…春花を見捨てたと思われても仕方がない…捨てられる事の悲しみ、寂しさを誰よりも知っている私が…』

背を向けられ拒絶される痛みを思い出し反省する秋月。
子を守護するべき母、恵により酷い幼少期を過ごしてきた秋月を春花は直ぐに抱きしめた。

『兄上…ごめんなさい。悲しい思い出は塗り替えれば良い。そうでしょ?』
慰める。

『塗り替える?何にだ?この不信の兄が悲しい思い出から逃れる権利があるものか…春花を傷付けて…』

『そんな…これから楽しい時間を沢山過ごしましょう?』

『2人で?』

『ええ、そうよ』

『春花…』

『何?』

『これから楽しい時間をこの兄と過ごしてくれるか?春花』

『勿論よ』

『信じられぬ…妹を見捨てる様な兄が幸せを掴むなど夢であろう…?』

『夢じゃない…沢山楽しい思い出を作れば、悲しい思い出は小さくなっていくから。きっと』

『春花…それが本当かどうか試しても?』

『ん?…ち、ちょっと!ん、んんっっっ』

秋月は春花をしっかりと捕獲し、甘く艶やかな唇を奪った。

『な、なにするの。っっんっっ』

『何をするとは?確かめようと思ってな』

秋月は悪戯に笑った

『もう!な、ななな…なんで衣が…はだけて』

乱れた胸元を即座に整えた

『春花の心が分からぬ故不安で…心を取り出そうと思ったのだ』

『うう、嘘よ!ぬ、脱がそうとしたでしょ?』

『悪いか?』

『わ、悪いでしょー!?そりゃ』

『だが楽しい思い出にはなったぞ?』

無邪気に喜ぶ秋月。

『……いいわ。じゃあ…』

『ん?』

『幸せにしてくれるって約束するなら…』

『するなら?』

『だ、大胆な事を…してもいい』

『!!!!春花?!』

『かなぁってちょっと思っただけ』

『では、急いで邸へ戻ろう』

『ん?待って…兄上…』

『なんだ?』

『お母様を想って寂しかったんじゃなかったの?今』

『ああ、そうだ…兄は死ぬ程寂しい』

『…それ、嘘ね!悲しそうにしてたのも嘘でしょ?』

『……』

『そんな悲しい顔しても嘘!』

『だが、今約束した事はどうする?』

『それは…』

『一生幸せにする…』

『うん』

『………』

『邸に…帰らないの?』

『え?』

『足がもう動かないから…兄上。連れて帰ってくれる?』

春花の瞳は秋月を見つめた

『……分かった』

秋月は春花を軽々と抱き上げた。

『なに笑ってるの!やらしい!』

『……楽しみだな』

『…いやだ!何かちょっとやだ!』

『約束は守るものだぞ?春花』

『絶対兄上の言葉じゃないそれ』

2人を取り囲む黄色の花達は甘い香りを放ちながら風に揺れ邸に消える春花と秋月を見送った。


はーいすみません。
長らくお待たせ。クリスマスに何か作ろうと急に思い立って書きました!
秋月は意外と直ぐに春花を我が物にはしません。待てができる子です!

では良いクリスマスをお過ごしください。