ただ朝のひととき、駅までの道。放課後の殆どをかなめと過ごした。雪だるま方式に毎日存在が大きくなる。
好きになりすぎてしまうと失うのは怖いけど、簡単には止められないだからと言って会わない選択はできなくて、2人とも、何かの毒に侵されたように毎日顔を合わせた。
今思うとそれは一種の中毒症なのかも知れない。
要の闇は分からないけど時折見せる何とも不安げな表情には同じ空気を感じていた。だからこそ余計に連帯感までもが生まれたのだろうか。
私の中には子供の頃母や父に守られ愛を注がれた記憶が胸の奥にいつまでも在って、それを見失った今は些細な事で存在を認められた気持ちになった。『会いたい』ただそれだけで私が生まれた事を許された気になって…もっとそう感じたかった。
『それさ、本当に好きなの?ただの承認欲求?ってやつじゃない?』
『なにそれ…』
『必要とされてると思う事でサラは自分の存在価値を見出してるんじゃない?』
『あぁ……』
違うとは言い切れない
『で?相変わらず毎日会って何か変わった?もう【かなめ】のモノになったの?』
『……まだ』
和希は呆れたように溜息混じりに首を振った。
『本当に付き合ってる?』
『…と思う』
『なんで手出ししないの?』
『おいおい、サラにそれ聞いたって分かるわけないだろ?』
屋上から見上げる空には雲が幾つも群れを成している。
傍で聞いていた松田龍太は和希の追及を静止した。
『だって…サラには幸せになって貰いたいからね私は!あんたは良いの?それで』
『……なにが?』
『鈍感野郎!』
2人のやりとりを聞きながらこの空間に安らぎや心地よさを感じていた。
『は?!お前は短気すぎだろ?』
『あんたのんびり過ぎでしょ』
『ちょっと!ちょっともう、2人が喧嘩する事じゃないから。私は要に大事にされてるんだって思うようにしてるから…そりゃ触れたいし…触れても欲しいけど。普通に仲良いし』
『…サラがそれで良いなら良いよ?でもさ、私はさ…もう傷付いて欲しくないから。大体もう言葉に出てるじゃん『大事にされてると思うようにしてる』なんて思い込まなきゃ何かがおかしいって感じてんでしょ?もし孤独を埋めるためだけに一緒にいるなら…【かなめ】じゃなくたって、龍太でも良いって思うんだけど』
『や、俺でも和希でも傍にいるって事だよ。和希はその…ちょっと心配しすぎてんだ』
『心配?』
そっぽ向いていた和希は私を見つめた
『サラ、気をつけた方が良いよ。あの要って男…学校でもかなり遊び人で有名。真面目なフリしてるけど夜遊びとか…。親からの寄付に本人は成績優秀。だから教師たちもなにも言えない。学校では常に女の子をはべらしてるって…』
『え?』
『立志の子に聞いた…北白河って大層な名前だから…分かるかなぁって軽い気持ちで。。良くない噂ばっか聞いた。。1回だけで捨てられた子とかばっかりだって。真面目にしてても、中身はゲスだって!』
『…それは…でも…』
『ねえ、サラ…体許してないなら今の内にやめた方が良いって。なんでそいつが手出ししないかは分からない。派手なお嬢様ばかりだから大人しいサラが珍しいんでしょ。それに高校入って家政婦さん解雇したって言ってたんでしょ?家事ができるサラが毎日ご飯作るんだよね?ねえ、都合良く利用されてるんじゃないの?』
『和希!お前はちょっと飛躍しすぎだろ?実際見てもないただ聞いただけの噂』
『火のないところに煙は立たないでしょ。今の内に引き返した方が良いからね。私は反対だから!サラ、あんたには私絶対幸せになって貰うと決めてるから』
和希は食べたお弁当箱も持たず、わざと音を立て乱暴に出て行った。
屋上に取り残された2人
『ごめんな…和希が』
龍太が困った顔で謝っている。
『ううん。。和希が心配してくれてるのわかるから』
『そっか…』
長い沈黙が続いた。
『サラ…』
『え?』
『って呼んでいい?俺も』
『ど、どうしたの?』
『うん…なんとなくダメかな?』
『い、良いけど…』
『雲がさ…』
『?』
『雲って動かずに変わらずあそこに浮かんでる風に見えるけど…目を離して次に見たらもう形変わってんだよな』
青い空を見上げて呟いた。
『うん…』
『ま、そういう事だ!』
『?うん』
『変わらないでいるなんてない…人も気持ちもな』
なんだかよく分からなくて、ただ心地よい風となかなか動かないじっと雲を見ていた。
私達の関わりも何か変わって行くのだろうか。
空は何も答えてはくれなかった