『あの…君!そのパン多分俺の…』
『え?』
売店を出たところで呼び止められた。
『こっちが多分そっちのやつ…中見てみて多分入ってるから俺の焼きそばパンと焼うどんパンと…』
『え?焼うどんパン?』
『冗談!あるわけ無いそんなの』
その人は見た事ないくらい美しくて、なのに顔をくしゃくしゃにして大声で笑った
何が起きてるか理解できずにただその光景を見ていた。
先輩はどうやら校内でも有名人らしい。まぁそれはそうだろうと納得する。同じ人間と思えないくらいの造形美。だけどあの瞬間の笑顔はそれを遥かに凌駕した。
『笑っても怒っても無表情でも綺麗なんて…ずるくない?』
『どした?』
思わず言葉が口からこぼれた。
『いや、、別に。。あ、ではこれどうぞ』
『あれ?ねえ、、どっかで見たと思ったら…』
『卒業式で1年なのに送辞した?』
『あ、、はい…』
『凄い優秀なんだ…結構有名だよね?』
『いいえ、全然…先輩程じゃ…』
『何それ』
『入学当初から噂されてましたよ超イケメンの遊び人の先輩』
『うわ!酷いそれは…イケメンは認めるけど遊び人ではない!一途すぎて周り引くくらいだし』
それも聞いた。誰かを追いかけてこの学校に来たって。
『まぁ、良いや。。それここで言ってもね…』
『はぁ…じゃあ、優等生のユウちゃんまたね。次会ったらおススメパンあげるね』
『はい、焼きうどんパン楽しみにしてます。あ、それから私ユウちゃんではありません』
先輩はまた大声で笑った。
無防備すぎて罪深い。
それから先輩とは遭遇する度に何かしら接触してくる。案外悪戯好きで待ち伏せして脅かしてきたり。他の先輩達と水風船していたり。案外子供みたいな部分と、時折静かに佇んで明らかに他の人とは別の空気を纏っていたり。
そんな先輩を知るのは私だけかと少しばかりの優越感も真逆に劣等感も感じる。先輩はわたしを何も意識してない。完全な妹扱いだとそう言ってるみたいなものだった。
今もヘラヘラ笑って現れて私の飲みかけのジュースを奪って飲み干した。
何だか我慢ならなくなった。私だけが好きすぎて、私だけが惨めで、私だけが苦しい。
『先輩、好きな人追いかけてこの学校に来たって…』
『…あぁ、知ってるんだ…うんそう。もういないけどねその人。卒業したよ無事に。君が送辞を送ったでしょ?』
『あ…ごめ…すみません。何も知らなくて』
『君が謝る事ないでしょ?優秀な奴が2年にいなかった。1年に飛び抜けた才女がいた。ただそれだけ』
『その人とは……あの…』
『あー、、今も元気にしてるよ。昔から…そんで今も手が届かない…いやもう2度と無理かな』
『………』
『兄貴の彼女だったんだ…元は俺の塾の先輩。兄貴に会わせたら勝手に2人は恋に落ちてそれで今は婚約者。大学卒業したらすぐ結婚するんだってさ…勝ち目ないなもう』
『……ごめ…』
なんだか泣けた。
笑いながら泣いているように見えて…切なくなった
『え?何で?泣いてんの?』
『先輩が泣くの我慢してるから…代わりにね。代理で。』
強がってこう返すしかなかった。
『別にもう…そんな好きじゃないし諦めてるし、忘れようと思って新しい出会いを探そうかな。どう?優等生のユウちゃん』
『わざとらしい…忘れられないんでしょ?その人を…無理やり笑って痛々しい。先輩、ちゃんと気持ち伝えないと…新しい出会いなんて来ないよ。いや、もしかしたらそんなの望んでないの?ずっとぬくぬく未練持ってたいの?かっこ悪い』
ふつふつと怒りが込み上げた。
誰にってわけでもない。いつまでも1人の人を引きずる先輩にも、先輩の心を捕まえたまま離さないその人にも…なによりこんな風にやつ当たる自分に腹が立ってしかたなかった。
先輩は苛立ちを隠さず見た事もない一瞥を向けた。
『優等生は何でも分かってるんだな。。お勉強もだし、人の心の中まで熟知してるんだ恐れ入ったよ…俺がどんな気持ちかまで分かるなんて有り難い。これからはそっとしといてくれると更に有り難いよ』
背を向けた後ろ姿が完全にわたしを拒絶している。
それから先輩とは全くと言って良いくらい遭遇しなくなった。それまでのエンカウント率を不思議に思うほど。
季節が巡り、学園祭の準備に追われ、忙しくなるほど想いが募る。
『……会いたい…』
でも会えない。どうしようもない。自分で壊したんだから。
先輩が待ち伏せしてた階段下で座り込んだ。
『先輩のバカ…』
『俺の事?』
『え?わっ…先輩…』
『今の、俺のこと?バカって』
『……』
目の前の先輩の目を見る事が出来なくて顔を背けた。
『何だよ…優等生のユウちゃんから見たらみんなバカだろ』
『優等生優等生ってうるさい!なんなの?私…そんな名前じゃないし…みんなして優等生のレッテル貼ってきてめんどくさい!私は私なの!先輩に言い過ぎて…謝りたかったけどなかなか会えなくて…ちょっと先輩ばかって言ってみただけなのにそんな時だけ現れて、、嫌がらせ?』
『ごめんごめん…探したんだ…』
あやすように私の頭を撫でた
『え?』
『報告…ちゃんと…気持ち伝えた。兄貴にもその彼女にも。区切りってやつちゃんとな』
『……あ…』
床に座り込む私の隣に先輩も腰を下ろした。
『当然玉砕。でも、思ったより傷は浅くて…思った以上に清々しい…』
『……私が…煽ったから…』
『いや、なんか…色々考えさせられたし…ごめん…ありがとう。。ただこれ言いたくて。あ、もうすぐ学園祭だし、そっちの教室覗いても無視されたくないなって…思ったらなんか…探してた』
『……っ…な…なんで…』
涙が噴き上がる
『実際…多分かなり救われてた…図星突かれてカチンときたのは確かだけど。あれもその通りだったからだし。今は感謝…してる』
『いや感謝とかじゃなくて…先輩…ごめんなさい。八つ当たりだった…いつも先輩にからかわれたり嬉しかったのに…欲張りで…』
『俺さぁ、、なんだかんだいつも探して会いに行ってたんだ…』
『え?』
『可愛い後輩って感じでいじっても真面目に返すし、生真面目かと思ったらそうでもなくて…いつの間にか…楽しみになってた…あの人の事ぬくぬく未練がましく思ってたんだけどさ、案外そうじゃなかった。とっくの昔に…あの人を忘れてたみたいだ』
『……じゃあ、私がもし好きだって言っても…良いかな…』
私にしては意を決した。
『それは…むしろ俺のセリフ…何か…嫌な態度でごめん…ちゃんと区切れたら言おうと思って…』
『なんて?』
『好きだって事…救われたしいつの間にか探すくらい…』
『…。。じゃ先輩…学園祭一緒に回ってくれる?』
『……焼きそばとかイカ焼きとか一緒に食べようか』
『焼うどんも!』
笑い合ってキスをした。
翌日の学園祭。2人で回る姿に皆んな驚いていた。私も驚いた。
『……どした?元気無くない?手繋ぐの嫌だった?』
『嫌じゃない…』
『イカ焼きは俺が食べさせてやるから、ハイ口開けろ』
片手を塞がれてるので不機嫌なんかじゃない。
『…なんだよ…手放す?』
『ううん。離さないで…ただちょっと…悔しくて』
『ん?何が?』
『去年の先輩はお兄さんやあの人といたんでしょ…なんか出遅れた感じがして悔しいし…同じ歳で生まれたかった』
先輩は優しく笑った。
『これからの俺は全部あげるから拗ねるな?』
眩しすぎてそれ以上我儘を言う事が出来なかった。
これまでがあったから今の2人があって、これからは私のものか。悪くない。
『じゃあ、もう一度…キスをお願いしていい?』
『当然!』
2人の影は重なった。
ジヌ先輩。。ごっそーさん!←満腹
さ、実際はですね。ジヌと校内練り歩いた後、何故か電車に乗って、降りる時に手を引いてくれたり(介護じゃねー!)海で遊んだりしました。
いつかそんな話が書けるかな。書けないかな。
ほならまた