初めて出会った日僕は | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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その日は珍しい事ばかりが連続して起きた。
個別に忙しい仲間達が同じ時間に何となく合流するように事務所で合流できた。
一般的にはごく普通。仕事終わりに久々に仲間と食事にいくなんてザラにある。 

でもこの珍しく全員が揃う奇跡に仲間達と妙にはしゃいでしまう。

『俺どうしても行きたいんだよね、マスターのとこ。まだやってるかな…』

1人の発言に驚く事に全員が賛同した。
原点ともいうべき場所。

『あ、そうだ俺1つ打ち合わせ終わらせてから行く』

そう告げながら打ち合わせを早めに切り上げたのは皆には言うまい。久々に仲間との時間にはしゃいでいると悟られたくはない。


仲間達が先に向かっているその店は薄暗くこじんまりして昔よく通ったまま路地裏にある。壁の落書きが下町に回帰した事を告げ、削げ落ちたコンクリートや塵の舞う町並みは巣立った筈の子らの帰還を喜んでいるようだった。

店内に入って奥のカウンター。長年共にやってきた仲間達があの頃と同じに出迎えた。

『いらっしゃい…おー!変わらないなぁ君も。久しぶりに全員で来てくれて嬉しいよ…』

マスターも全く変わらない口髭、伸びた髪を後ろで束ねて照れ臭そうに笑った。

『マスター。変わらないね』

『君達は随分と遠くに行っちゃったな。大人になったし、今やスターだ』

『…そんな事ないよ…結局魂は変わらない。あの時のままだよ』

練習生だった頃から互いを励まし合いながら時を過ごした竹馬の友はマスターに笑顔で答えた。

『そっか。嬉しいな。あの頃此処が溜まり場みたいになってたな。もっともお陰様で昔の君達みたいにスターの卵って言うのかなお忍びの子達が来てくれてさ…助かるよ』

『うちの後輩達も来てる?』

『ああ勿論。事務所が違う子達も来てるよ…ほら』

マスターが顔を向けた方を見ると見知った彼らが目に入る。
声を掛けるまでもなくお楽しみ中の酒の席、男女入り混じった会の様で水を差すのは悪趣味だと見過ごす事にした。

暫く仲間内で楽しんでいると先程のグループから一人近づく。
『こんばんは…ご挨拶遅れてすみません…』
些か緊張した様子で立っていた。

『ああ、いや。こんばんは』

『おー!おまえもいたのか?』
カウンターの2つ隣に座った仲間の一人が立ち上がる。

『ああ、うちの末っ子と友達だったか…』

『そうそう!幼馴染み。。なんだよいるならすぐに言えよ』

『いや、まさかだろ?って目を疑ってたんだよ』

暫くこちらで談笑していた。
ジュークボックスで好きな音楽を流す。かつてと同じに好き勝手に笑い合った。

『お前あっちに戻らなくて良いのか?盛り上がってるぞ』

『いや。こっちの方が滅多にない集まりで勉強になるからな。あっちは見てみろよ…中身のない集まりだ。今が楽しけりゃそれで良いって会なの。今日は無理やり呼び出されてさ…』

『へぇ……』


盛り上がる一団に目を向けた瞬間に背後で扉が開き冷気と共に誰かが入る気配がする。

『いらっしゃい』

マスターの他所行きの声に初めて来た客かと振り返る。

『あれ?…あの子…』

振り向くと、店に入ってきたばかりのその人は店内の誰かを探す様に見回し、そして騒がしい一画に目を止めると呆然と立ち尽くしていた。

『だれアレ…知ってる子?随分綺麗な子だけど…』

この場所に似つかわしくない掃き溜めに現れた一羽の鶴に隣の仲間たちがざわめき始める。

『あぁ、知り合いなんだけど…っていうかアイツ…呼んでたのか?』

自分のグループそっちのけで幼馴染みがいるこちらで話込んでいた青年が立ち上がる。

『あの子知り合い?モデルかなんか?』

『いや、女優さんだよ…うちの一人と…』

『付き合ってる?』

『と思ったんだけど…アレ?…』

一画のグループはお祭り騒ぎで男女入り乱れ悪ノリのそれは見るに耐え難い。
明らかに彼女の登場は分かっているのに一団の中の人間は誰一人として歓迎していなかった。

呆然としたまま立ち尽くしたまま動けないでいるようだった。
ましてやあの中心にいる若者と付き合っていたら嫌な気分になるのは確実だろう。

両手に煌びやかに着飾った女達。
明らかにその場面に居た堪れず佇む彼女は見るに忍びなかった。

『ちょ、お前知り合いなんだろ?声かけてやれよ』

『いやぁ…なんかかけづらい…』

『じゃ、俺が行くよ』

『って、え!!嘘だろ?』

仲間達の驚く声など気にも止めずに、美女救出に乗り出した。

『楽しんでる?』

声をかける

『え?あぁ、、はい楽しんでます』

大方面倒なナンパとでも感じたのかこちらも見ずに彼女は答えた。

『へえ…楽しんでるんだ??』

『まぁ…』

気のない返事。

『あの中に彼氏がいるとか?』

『え?』

『うちの仲間と彼氏の友達?が話してたから…』

仲間?と思わず男を見上げ目を見開いた。

『あ、、え?』

状況に困惑している彼女は明らかに動揺しているようだった。

『もう!彼女びっくりしてるだろ?有名人は引っこんどいてよ。彼女は僕が預かります…さ、こっちどうぞ。』

仲間内の最年少のお調子者が割って入りマスターに合図して、彼女を連れカウンター席に座らせた。

『え、、と…まずは自己紹介から!僕は…』

『まさか…』

『まさかって?え?何で笑ってるの?』

彼女はついさっきまでの暗い表情とは違っていた。

『いえ、、貴方達を知らない人なんていないのに自己紹介とか言うから…ちょっとおかしかっただけ』
絶望から救われた少女の様に笑った。

『大丈夫?』

『いえ、大丈夫じゃないかも…驚きすぎて…』

『やっばー、気を付けないとこの人相当女癖悪いからね…あんまり話さないで良いからね』

後ろから仲間のチャチャが入る。

『お前は良いから!それよりさ、あっちで彼氏女の子達と遊んでるけどイイの?』

店の一角で柱の向こう。こちらからは死角ではあるが微かに独特のハスキーな声が耳に届く。
数名の仲間達と時折若い女性の甲高い笑い声。
楽しげな雰囲気にみるみる翳る表情。

『あぁ、彼氏っていうか…うーん』

答えに詰まる彼女自身がこの状況に困惑している。

『もしかして彼氏じゃないの?』

『…私はそうだと思ってたけど』

目を向けた先ではこちらを一切切り離した空気で相手はまるで無視を決め込んでいた。
集団の笑い声が益々高まり、疎外に拍車をかけた。彼女の目には主に置き去りにされた子犬の様に心細さが滲み出ている。

『…違ったみたい私だけが付き合ってたのかも…』

精一杯明るく振る舞う。

『??喧嘩?』

『喧嘩っていうか…私が他の人と仕事をするのがあまり好きじゃないみたいで、その事でちょっと言い合いには…なったかも』

『ふぅん。気持ちはわかるけどね。。』

『え?』

『独占欲ってやつ』

『私に?』

『試してみる?』

『どうやって??』

興味のある話題に反応するのがイジらしく感じる。
手にしたグラスを傾けアルコールを一気に流し込んだ。

『俺たちが目の前でイチャついたら…彼はどうするかな…』

『いやいやダメですそれは!』

『なんで?』

まるで取り調べのようだった。

『なんでって…貴方は嫌じゃないんですか?』

『なにが?』

『自分の彼女が他の人とイチャイチャとか…』

グラスを持つ手が僅かに震えているように見えた。

『面白くはないかもね…』

『じゃあ辞めときましょう。自分のせいで誰かが悲しむなんて嫌でしょ?』

『別に?女達とあんな風に盛り上がってるの嫌じゃない?』

蛇に睨まれた子兎か?警戒心丸出しで怯えた姿に征服欲が刺激される。


『…嫌だ…けど。そんな事いう立場じゃないかも…』

『でも、彼に会いに来たんだろ?』

彼女は素直に頷いた。

『仕事でも何でも他の男性と絡むのがあんまり好きじゃないみたいで』

『仕事でしょ?』

『うん…そうなんだけど…』

彼女は視線を手の中のグラスに戻した。
背後では仲間達の固唾を飲んだ気配を感じる。 
『なっんか、今日はみんないるし監視付きだから心配しなくて良いよ何でも聞くよ…今なら酔ってるから記憶ないし』

『……うん…でもあんまり…』

目の前の彼女がチラチラと後ろの集団を気にしている事に苛立ちが悪戯心に火を付けたのは言うまでもなかった。

『今日は俺と飲も?送るから』

耳元で囁くと彼女は瞬時に身を竦めた。初々しい反応がまたも胸をざわつかせた。

頭の何処からか警告音が鳴っている。

【深みに嵌る】

そんなヘマをするわけが無いと警告を隅に消し去るように彼女に微笑んだ。

『ん?嫌かな?』

彼女は小さく首を振る。

【厄介な事になるかも】
心の中では葛藤が起きていた。
互いに今夜だけ燃え上がる炎で収まるとは思えなかった。
迂闊に手を出してはならない予感もあった。
そんな事よりこれまで周囲にいなかった可憐な野の花を手折る方に興味があった。雄としての血が体の底から湧き上がり狩を楽しみたい衝動が起きる。

不慣れな夜遊び。
穢れなき魂を穢したくなる。
その反面矛盾する様に保護本能も発生する。
自棄になって慣れた様に振る舞い苦手なアルコールを飲み干したのは彼女の選択。
けれど、自棄になった彼女をどうにか慰めたい傷付いた心を癒して涙を拭ってやりたくもなる。
相反する気持ちの鬩ぎ合いが胸の奥で激しく火花を散らしていた。

『うん。送らなくて大丈夫…です。何だか今日は…1人じゃない事が有り難いし…本当。。ここに来るまで心細かったけど、なんか…』

仄かに頬を紅潮させ、空けたグラスの氷を見つめていた彼女はおもむろにこちらに向き直る

『ありがとうございます…』

笑顔で頭を下げる。

『え?』

『あ、、え?』

顔を上げた彼女の目には涙が溢れていた。

『やだ…あはは。勝手になんか出てきて。し、知らなかった。私泣き上戸だったんだ。』

取り繕う姿が痛々しく見えた。

『……』

彼女から湧き出る信頼の情が悪戯心に制止を掛けた。鬩ぎ合いは保護本能の勝ちとなった。

固唾を飲んで見ていた仲間達もこれでは手出しできないと安心した様に何も聞いてなかったと言う風に別の話を始めた。

『で?そいつ、あそこにいる奴でしょ?あのままだとあの中の女の子お持ち帰りしそうだけど…いいの?それで』

『…自分は線引いてるから大丈夫だって、私は仕事でも隙がありすぎてダメだって見てたらイライラするって、、』

ここ数日の苦悩を語る内込み上げる涙。
それを何とか瞳から零れないように強がる。

『そっか、、でも彼の気持ちも分かるな俺も心配する、、』

『え?』

俯く彼女は思わず顔を上げた。

『どう言う意味です?』
目を丸くする表情が愛らしい。

『こんな可愛い彼女、誰にも見せたくないし他の奴に取られたくないって気持ち。男としたら当たり前だ』

『でもただの仕事なのに』

『仕事でもわかるでしょ?相手の好意っていうか狙ってるかどうかくらい』

『……あんまり…そう言うのは…』

反応に苛立つ。

『で?結局二人は付き合ってんの?』

『……』

再び探るような核心をついた質問に表情は曇り、そして首を振る

『分からないけど多分違う。もう辛いって、、ムカつくし苦しみたくないって言われて。だったらもう付き合えないし今日は約束していたから来ただけだけどあの人はもう忘れてるみたい』

『ふぅんじゃあ今フリー?俺が連れていっても誰も文句言わないね?』

『え?』

『文句言われてもまぁ関係ないけど』

店内の暗照明の下、悪戯に笑った。

『じゃあ、行こうか』

『え!?』

立ち上がり彼女の腕を掴まえると半ば強引に店の外へ消えた。
そこにいた誰しもがどうする事も出来ずに固まっていた。

引き留める者も立ちはだかる者もなくそれほどさして時間もかけずスムーズに扉の向こうに溶けた。

暫く下町の路地裏を歩く。

コンクリートの隙間から根を張り茎を伸ばしたタンポポが目に留まった。

『……』

『タンポポの。。』 

花が終わり綿毛となっていた。

『本当だ、、なんか…生命力感じるな』

『うん。。』

風に揺れるタンポポを2人で眺めていた。
気が付けば手を繋いだままだった。

『風で飛ぶんじゃない?』

『種?』

『うん…』

『そしたらまた何処かで咲くだろうな』

『うん…咲くかな…』

『咲くよ』

『そっか……』

『さ、帰るか。。送るよ』

『え?』

『あそこ。いたくなかったろ?』

『もしかして…連れ出してくれた…とか?』

『いや別に?ただ、あのままいたら又泣きそうだったから…嫌だろ?あんなの見るの』


『………』

『…!?』

彼女は微かに繋いだ手を強く握る。

『ん?』

『ううん…ただ。。何となく有難う』

『どういたしまして』

『あ!』

風に揺れる綿毛がいくつか飛び立った。
新しい旅立ちに喜ぶ彼女は笑った。


いつのまにか花シリーズになってる短編の実は第一話なんです…

雨に揺れ咲く花の名はの前に出会っていた2人なんですねー。実は。

風に飛んだ種が誰の心で咲いたかは…秘密口笛