今、花開く… | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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いつの間にか自然に空気のようにお互いがお互いの領域に溶けていた。

私は彼の書斎にある大量の書物が目的で、でも彼は?…生活も何もかも何でも手にしている人だから、珍しい毛色の猫でも見つけた心境なのか私を気に入ってくれた様で韓国で活動する時の束の間に好きな読書の場を提供までしてくれた。

『言ってくれればいつでも来て良いよ。図書館みたいに』

『ちょっと贅沢すぎない?図書館にしたら…景色も良くて…飲み物出て…無料は申し訳ないし…』

『お金は結構持ってるからいらないね』

『うわ、嫌味。分かってるけど!じゃあ何か私にしてもらいたい事ありますか?あ、変な事はダメよ?』

『なんだ残念…ちょっと思ったのに。先に言われちゃった』

と言って笑った。

『変な事考えてたの?』

『うん。ちょっと』

『絶対嘘!』

『あはは。じゃあ、、、日本語。』

『え?』

『日本語教えてくれない?』

『良いけど…でも、必要ないくらい結構喋れてるけど?』

『……けど、知りたいんだ』
見た事もないくらい優しい顔で微笑んだ。

本来なら独身の男性の暮らす部屋に幾ら何でも軽々しく邪魔するのも不躾すぎる。
けれどそんな風に不用意に警戒していた瞬間にも彼は笑った。
美しく華奢な肩を少し揺らして笑う姿に異性という警戒の糸がすっかりほどけてしまった。

昔見た絵本の中の美しい少年の様に遠い存在であり、どこか現実からかけ離れた人。それも私の警戒心を解くのに一役買っていた。

そもそも疑いを持つこと自体が失礼な程女性に困っていないのが周知の事実だったし、私を迎える時彼はいつもさりげなく紳士的でいた。

生まれついての物かもしれない。物静かで感情的でない。常に一歩引いた姿勢でいる。

本宅かどうかは不明だが彼の住まいは何もかもが調度な物で溢れていた。

初めて天井に届く程の本棚を見た時は感嘆したし、おびただしい書物に心が踊る。隅から隅まで堪能すべくまずは上段にある古く分厚い本へと手を伸ばす

『危ないから、とるよ…どれ?』

頭上の本を軽々と取って渡した。

たったこの一つの些細な事で胸の奥がチクチクと反応していた。
けれど悔しまぎれに敢えて蓋をする。
でないと、この美しい人に心ごと抜き出されてしまいそうで怖かった。
職業柄か互いに人に深入りしない空気が心地よかった。

滞在中に何度か足を運ぶ。
その間も不安がいつも頭にちらついていた、
もし誰かに知られることになれば…大変な騒ぎになるに違いない。
なんの関係でもないただの本の貸し借りでも、世論とはそう捉えない。

日本に戻れば気が楽だった。物理的な問題で連絡が途絶えても不自然でない大義名分がある。自然に足が遠のいたある日、韓国の新事務所から呼び出しがかかる。
向かうと社長室へ呼ばれた。

『本が届いたけど…』

『え?』

『…ある大手の事務所からだ…君、誰か知り合いいるの?念のために開けさせたんだが…』

『???』

すでに開封された段ボールには本が数冊。ただそれだけの味気ない荷物で何か暗号のように不可思議な荷物に一同は困惑していた。
ただ、私だけは送り主に該当する人物を知っている。

『あ、、、』

『誰か知り合い?』

『いえ、まぁ…以前仕事で関わった方かも…本が好きだと言ってるから…要らなくなった本送るって…』

我ながら咄嗟に出た言葉に驚いた。

『見た所ただの本だし…まぁ問題ないだろう』

嘘であれば心苦しい所だが全くの嘘でもない。送られた本を手に取りパラパラと項をめくると何かが足元に転がった。

『?』

拾い上げる

『栞??…!』

金属製の栞には走り書きで貸本屋と記されていてその下に数字の羅列が彫られている。

『電話番号?』

だからといって電話をかけるのは愚かだ…
かと言ってわざわざ本を送ってくれた親切な誰かを無視はできない…

数日考えた末、当たり障りなく番号にメッセージを送った。
ただ簡潔に、沢山の本をありがとうございますとだけで、後は良心の呵責も痛まない。

かと言って、誰からのものかも不明な物を容易に手に取るのも憚られ、暫く放置するつもりでいた。

メッセージを送ってすぐさま携帯がけたたましく鳴り始めた。
記憶にない番号で又もや首を傾げる。

『……?もしもし…?』

『もしもし?』

第一声に胸が大きく震えたのを感じた。

『あ、はい…あの……もしかして』

『あぁ、分かる?』

『え、、っと…多分』

分かるのに分からないふりをしてしまった。

『あはは、多分?』

受話器の向こうからの声が耳をくすぐる。

『これ、メッセージくれたの自分の携帯?』

やはり、本を送ってくれた人物だと確信した。

『はい。。私のです…でもそちらは、、』

『あ、これ事務所用の電話…』

『はぁ、、事務所の……』

『そんな簡単に携帯番号教えちゃだめでしょ?送り主誰かも分からないのに、、』

『あ、、そうだ。私…非通知するの忘れて…え?非通知でメッセージ送れるのかな…』

『ははっ。。分からないけど…危なっかしいから気をつけて…送り主の名前書けばよかったんだけど…』

『いえ、、書かなくて大丈夫です。大変だから色々説明とか。。いや、ありがとうございます。。本!ありがとう。面白そうだなって…』


『一気に喋ってる?…でもさ本当は警戒してまだ読んでないでしょ?』

『え?!』

『当たった?』

『もう少し置いてみて。何もなかったら読もうかって、、』

『本置いたまんま何があるの?』

通信機器を介しての会話はいつもと違っていてどこか気恥ずかしかった。

確かに何があるの??爆発するとか?
いや、中身が本じゃないとか?

もしかしてカメラが仕込んであるとか?

考えあぐねいているこちらをよそに受話器の向こうで何となく笑ってる気がした。


『………意地悪…ですね?』

『…あ、ごめん。。怒った?』

『別にいいんですけど。でも、、本…』

『だってさ、本読みに…来なくなったじゃん?読ませたいなってやつあったりしても感想も聞けないし…』

『あ、だって…その。。迷惑かけるとアレだし…』

『何の迷惑?』

『彼女がいたりしたら本読みに日本の女が周りをうろついてる。なんてやだろうし、それに貴方のファンが知ったら嫌な気分になるでしょ?』

『……そうか。うん、そうだね。ありがとうでも、同好会だし、やましいわけじゃない…』

『同好会?』

『そうだよ。言ってなかったけど』

『分かるわけないし!』

自分勝手な発言に思わず声を立てて笑ってしまう。

『読んだら感想聞かせて欲しいだけだし…またおいでよ…』

『……でも…』

『ハウスキーパーの人もいるし、友人達も出入りしてる。その中の1人だって』

『はぁ、、迷惑でなければ…』

強引とは感じなかったが誘導されるがままに話を進められてしまった。

それから又むこうで仕事の時には時間を見つけては豪華な図書館に顔を出す。
懸念した不安も全くなく、警戒心も緩和され何でもない日常が確かに心の中で煌めき始めていた。

それでも彼は一定の距離をとっていて私が怖がらない様にという配慮で、感謝すべき事なのに、ある時それがもどかしいと感じてしまう。

もどかしさの理由まで追及しないのは今の距離を崩したくないからだった。


『ん?何かあった?ぼんやりして』

窓から見える夕景があまりにも美しく、項を進めるのを止め一息つく。


『ううん。思い出してたの。』

『?何を?』

『この出会いの成り立ち?不思議でしょ?なんで私此処にいるんだろって…』

『あぁ、、』

彼は彼とよく似たしなやかで美しい相棒の猫を肩に乗せて笑った

『誰かさん警戒心の塊だったな』

『そ、そんな事ない』

『一度は足が遠のいたし?』

『確かに…それは…』

『あの時は…あせ、、アセッタ?』

『焦った?どうして?』

『あ、いや…又会いたいって思ってたから?』

冗談めかして悪戯に笑った。

『…もうっ。ふざけてばっかり…』

『ふざけてないけどね』

当初は会話する時は緊張が走ったがそれもいつの間にか柔らかな彼の物腰に融和されていった。

それにしても凄い本の数に毎回驚く。
部屋を見渡す。

『…読む暇あるのかな…』

膨大な書物の数に見上げながら1人呟く程だった。

『あるよ。』

『え、あ。私声に出してた?』

背後からのアンサーに狼狽えた。

『出てた。』

そう返事をくれ静かに笑った。

『ん?読みたいやつ又上の方にある?あるなら取るよ』

『え、ううん…ちょっと暫くここの本読めないなって思って…

『日本に?』

『そう。日本で仕事が入ってるから』

『こっちでの映画はもう撮り終えたの?』

『え?…映画の話しした?』

『記事で見た。』

『あ、そうなんだ。撮影は割と短期間だったの…』

『ハードだった?』

『そうなの!かなり。。でも凄く充実したし楽しかった!』

『そっか、、あのさ、前から思ってた。それ、いい香りだね…何?香水って感じじゃないけど…ハーブっぽい?』

『え?私?香水はあんまりつけなくって、、ハーブじゃないけど。。花屋さんみたいな香りってよく言われ…え?なに?』

後ろから男性らしい腕が伸び引き寄せる。背後からの攻撃に驚く。
嗅覚を研ぎ澄ますように見せかけてその実背後から捕獲する。狡猾で巧妙な罠におめおめと捕まってしまった。

力を入れてない様子に隙を突いて抜け出そうにも意外にもしっかり捕まえられていて私は情けなくもすっぽりと彼の腕の中に入り込んでしまっていた。
長く背にゆれる髪を押し分けて鼻先を埋める。
時折息が首筋の肌を掠めてくすぐったい。
『……あの、、』

『なに?』

『いや、何?じゃなくて!』

『うん…』

『なんでこんな事…本読めない』

そんな事が言いたい訳じゃなかった。
もっと的確に彼を批難したいのに、すればきっと簡単に私を離してくれそうで。要するに離さずにいて欲しかった。
今思えばあの時もう少し…彼の吐息を感じていたかったのかもしれない。

『ん?どうした?』

『や、、何にも…ただちょっと…くすぐったい!』

逃げようとして身体を前に倒す

『もちょっと…このままで…だめ?』

悪戯な笑顔でそれはまるでいつもの常套句だった

『あー、こうやって口説いたりするのね?』

苦し紛れに叫ぶ

『……』

羽交い締めにされたままの姿勢で抵抗する

『ちょっと!重い!ねぇ!…』

『……』

『何してるの?重いでしょ!ねぇ!』

『……寝てる』

背後から私を抱き締めた彼はポツリと呟いた。

『寝!?なんで?』

『気持ちいいから…ゆっくり眠れそう』

『え?』

ようやく私をその腕から解放すると笑った。

『ごめん…怖かった?』

『怖くはないけど…』

『不思議なんだけど、君がいると心底安らいで安心する…眠いんだ…』

目の前の人は改めて私と向き合い、そして手を伸ばした。
優しい笑みを浮かべて髪の束を一つ取り小さく振って揺らした。

『?』

『なんでだろ?』

『……』

窓からの日差しが柔らかく、余りにも美しい笑顔にただ見惚れるしかなかった。
心に咲いた花の蕾がほんの僅かに綻ぶ瞬間を止める事は出来なかった。