センパイ 花火 キス | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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『今帰り?』
背中から届いた声。

振り返って驚いた。

偶然にも帰りの時間が同じになって、あまりにもサプライズで、学校の正門からの階段で転がりそうになった。

『部活…終わったから。センパイは?』

『俺は今日は後輩に喝入れに?そっちは又今日もピープーやってたんだ…』

『ピープーって失礼~私のトランペットはそんなんじゃ…』

私の攻撃を予知していた様に、彼は笑顔で聞いていた。

『あはは…ごめん。文化祭凄かったもんな…一人で立って、あれソロって言うやつ?』

『そう。って言うか文化祭とか恥ずかしいし…』

引退する前は短かった先輩の前髪が、少しだけ伸びて風に揺れる。そんな一瞬に見とれた私を気にも止めず先輩は又笑った。

サッカー部の奴ら羨ましいかも…とか思いながらこのまま同じ道で一緒に歩いていいのかと悩む。

『他のみんなは?一人?』

察した様に聞いてくれた。

『今日は塾組ばっかりと、あとは休み…です』

『じゃあ…途中迄一緒帰るか…』

私の返事を覗きこむように待った

私はただ無言で頷くだけしかできなくて。
心の中で、神様に『誕生日プレゼント有難う~っ』て叫んでた。

ただ、会えただけで嬉しくて。贅沢が言えるなら、センパイからの『おめでとう』が欲しかった。

だけど…言える?

『センパイ。今日は私の誕生日なんだよ。』なんて

言いたいけど言えないし…何が欲しいとかもない。ただ私だけに笑って欲しかった。


『ちょっとさ…時間ある?』

『えっ?!』

耳を疑う。だって今ついたった今「もう少し一緒にいたい」って思った所だったから。

『無理かな…門限とか』


『っ無理じゃない!無理じゃないよ』
慌て過ぎる回答はこれが夢なら醒めない内にっていう打算の表れで、もし夢でも…いや、どうせ夢なら先輩との時間が少しでも長い方がいい。

『あはは…何焦ってんの』
急に声を立てて笑うと見た事もないくらいの優しい瞳で私の頭を軽く撫でた。

『何?何かあるの?時間って…』

『いや、これ』

ポケットから長い棒が3本。

『?』
目の前で3本をぷらぷらと振って見せた。
まだ見当の付かない私に悪ガキみたいに得意な顔をして解答をくれた。

『花火』


『花火??なんで?』

『部室で没収してきた』

『やってみる?』

『うん!!やりたいっっ』

自分でも恥ずかしいくらいのはしゃぎようだった。

『じゃあさちょっと寄り道いい?』

『?うん』

先輩の後をついていく。

一本細い路地に入り、裏通りに出る。慣れている風にさっさと歩く先輩を見失わないように必死でついていく。
もし先輩の上着の裾を掴まえてたら、そんな心配はないのにすぐ目の前にある問題の裾部分は私なんか寄せつけない感じで先輩の後ろで揺れていた。

必死だと悟られないようにする。先輩も何にもない顔で普通に民家の前で立ち止まって振り返った。

『ここ、俺ん家。』

突如目の前に現れた先輩の家に驚く私を置きざりにして家の中に消えて行く。

そしてすぐに玄関の扉が開いて先輩は急ぎ足で転がるように出てきた。

『ごめん。朝玄関に置き忘れてたからさこれ』

手の中のいかにも安物のライターが青色に光る。

『あ、ライター!、、ん?忘れてた?普段ライター持ってるって事?』

『まぁまぁ!お守りみたいなもんだろ?』

何のお守りだろ?って思ったけど、バツが悪そうな先輩を私はすんなり許してしまった。

『深くは追及しませんけど!』

『ありがと』

1つしかない街灯の明かりは先輩の横顔が満面の笑みだって事を分かりやすく教えてくれる。

『……』

笑顔が嬉しくて何にも言えなくてちょっとだけ泣きそうになった。
そして又先輩について歩いていく、緩やかな坂道、頂上付近に小さな公園があってブランコと鉄棒が並ぶ。
少し離れた場所に滑り台がポツンとあった。

『ここ?』

『うん。結構穴場でさ。今は暗いから見えないけど夕方は向こうに夕陽が沈むのが見える小さい頃からここによく来てた』

『へぇ~、けど夜も綺麗だね。遠くにちょっと明かりが密集してる』

私の呟きに先輩は嬉しそうにした。


そんな風な笑顔はこっちが照れるし。少しだけ困った。

『んじゃあ、やりますか?』

『バケツは?』

『そこにある』

指差した方向を見ると明らかにただの水溜まり。

『ちょっダメでしょ?』

『堅いなぁたった3本だぜ?これで十分』

『じゃあいい、……けど、良くないけど…』

嫌われたくないし。又も強く言えなかった。

『分かったわかった。真面目っ子だなぁ。。ほら』

ドラえもんみたいにシャツに隠し持ってきた小さなバケツを出した。

『え?』

『アオちゃんは生真面目ですから。言われると思った』

『あアオ?』

『碧だろ?アオイ矛盾してるよなミドリって書くのにアオイだし。』

『な、なんで知ってるの?』

『そりゃあ当たり前。サッカー部元部長だし』

『そっか。そうだよね』

少しの違和感なんて【名前呼び】されただけで吹っ飛んでいた。
先輩はさっさとしゃがみ込んで花火の一本に火を着ける。

『ほらお前も』

『うん』

先輩の隣で並んで、花火を伸ばす。
花火から花火へと炎が移った。

私の花火がパチパチと音を弾き出す。
白煙と凄まじい七色の光が飛び散り先輩の顔を明るく照らした。

『ついた!』

思わず嬉しくなって顔を上げると、優しい目で、私を見ていた。

『先輩?』

『ああぁ、いい?』

『うん』

今度は私の花火から、先輩へ火が渡された。

又もやしゃがみ込むと地面に何やら刻み始める。

『何?』

『【アオイ参上】』

『やだっやめてよっそれ落書きでしょ?』

本気で怒ってしまう。

『アオちゃん怒った?』

『うん。もう帰る!』

『ちょっ、待ってもうちょっと』

腕時計を一瞬確認して告げた。

『怒るなよ~良いもの見せるから。許してアオちゃん』

覗き込む先輩の顔が公園の街灯にオレンジ色に照らされた。

『……』

本当は怒った訳じゃない。先輩が名前を知っていた奇跡とか、この花火が何でたった3本なんだろう。とか地面に私の名前を刻むなんて嬉しくて儚さに切なくて。
どうすればいいか分からなかった。

『帰らないよ。けど何かあるの?』


『…うん、まぁじゃあ花火はとりあえずバケツに。で、お前はこっち…』

『?』
私の手の中にある生気を無くした花火の残骸を奪い、無造作にバケツに放り込むと滑り台へと歩き出した。

『上…』

『上?滑り台上がるの?』

『訳もわからぬまま躊躇する。遠くでドンドンと地響きと共に轟音が響いた。

『…わ、始まった!急げっ』

『え?』

『いいから!』

追い立てられ階段を駆け上がった。

『何?先輩…』

『ほら、あっち!』

指差す方向には黒い闇に大輪の向日葵みたいな花火が浮かび上がる。

『え?…花火…』

『……』

暫く無言で、止む事なく連続的に上がる花火を眺めた。

ただ、私の中には一つの疑問が生まれていた。
背後に立つ先輩との距離が近くて背中の神経は完全にそちらに集中してしまう。

『先輩?』


『あぁ、今日…誕生日って』

『!!』

『おめでとう…とかって意味…』

『な、何で…?』

『生徒会だし…』

『そ…なんだ』

『いや、んな訳ないだろ?生徒会とかサッカー部部長とか名前とか誕生日とか分かるわけないだろ?ツッコめよ…他の人間のは知らね』

『…それって何で…』

『サッカー引退してさ…急に寂しくなった。アオの変なピーピーが聞けなくなったから』

『ピーピーって、、ロングトーンでしょ』

『…で、、何か知らない内に…結構気になって…つまりようするに…好きっぽい…かも…』

『…先輩…私今日ね、誕生日おめでとうって先輩に言って貰いたかった…』

『え?』

『一緒に帰れるだけでも…奇跡だったけど。それに名前…知っててくれて…泣きそうになって…今も、嬉しい…けど、好きっ【ぽい】てなに?』

『…いや、あぁっ…だから…その多分好き…てか多分じゃなくて…【アオイ】って呼ばせて欲しいってか…』

『本気で言ってる?』

『冗談でこんな話…怖くね?』

『…だって』

『……あ…やっぱ忘れて。何かダセーし』


『やっ…呼んで!呼んで欲しい!特別って事?でしょ?はい。どうぞ』

目を閉じて、先輩の【アオイ】を待った。
時々、打ち上げられた花火の閃光が瞼に降る。

『……あ…ア…アオ?…とかって改めたら呼べねーっっ』


『…早くっ』

『あ…アオイ』

先輩の声は少し低くてハスキーで、心地好く耳にとどいた。

その幸福を噛み締め、花火の轟音と瞼の光りを浴びると、もう胸の奥が締め付けられて苦しくて息ができなくなった。

『……?』

『アオ?』

『……ん?』

『寝てるのか?』

『ううん…先輩の声…味わってる。。』

あれだけ連続していた轟音が一瞬止むと辺りは光もなく闇に戻った。

『……』

瞬間に唇に熱を感じる。

『!?』

閉じていた目を開くと先輩の顔がすぐ近くにあって…確かに二人の唇は重なっていた。

『わ…ごめ…つい』

身体を離してバツが悪そうに俯いた。

『今…キスした?』

『……した』

『初めてのだったのに!』

『俺だって初めてだし』

『何で先輩が怒るの』

『…や、本当はもっと…格好よく…とか…けどあんまりお前が可愛かったから…つい』

『ついって…ひど、じゃあもっかい。ちゃんとして』

『え?な…何を?』

『…キス』

『えーっっ』

狭い滑り台の上で怖じけずく。

『ん…』

こういう時は女の子の方が結構勇気あると思う。
精一杯背伸びして、瞳を閉じた。

『……分かった。いいか?』

『ん…』
答えるのに気配がない。

『行くぞ…』

『ん…もう、早く!』

『!!』

『!』

唇がようやくゆっくりと触れた時、大きな花火が打ち上がった。

後書き
エピソードは実体験も含む。
ではありますけど、甘酸っぱさが伝われば良いなと思って描きました^_^