跡見には、卒業要件の中に学部・学科の枠を越えて学べる「自由選択枠」があります。この制度を戦略的に活用すれば、人文学科で培った「文化の本質を見極める目」に、他学部の「仕組みを動かす力」や「価値を伝える技術」を掛け合わせることが可能です。人文学科で日々向き合っている美術や文学、歴史の深い学び。それは単なる知識の蓄積にとどまりません。いま、社会では「文化・観光・経済の好循環」を生み出せる人材が強く求められています。

 

 

跡見では卒業要件に「自由選択枠」があり、学部・学科を越えた履修も可能です 。専門の学びに別の分野の知識を組み合わせることで、将来の進路や仕事にも役立つ力を身につけることができます 。人文学科で取れる教職や学芸員、司書といった資格とは別に、マネジメント学部や観光コミュニティ学部の科目を戦略的に組み合わせることで、民間企業や自治体で活躍できる「文化観光人材」としての資質を養うことが可能です 。例えば、以下のような3つの人材モデルが考えられます。

 

 

 


1. 文化財コーディネーター(つなぐ人)
【目指す姿】 文化資源が持つ歴史的・芸術的価値を損なうことなく、地域の活性化や観光コンテンツとして再構成し、行政・企業・地域住民の間に立ってプロジェクトを推進する役割。 
想定されるキャリア
鉄道・旅行会社: 歴史や文化をテーマにしたツアー企画・開発。 
地方自治体の文化振興・観光課: 文化財を核としたまちづくり計画の立案。 
広告・イベント企画会社: 文化資源の物語性を活かしたプロモーション。 

2. 文化財マネージャー(守り活かす人)
【目指す姿】 美術館、博物館、歴史的建造物などの施設やプロジェクトを、安定的・持続的に運営するための経営的視点と法的知識(著作権等)を兼ね備えた実務家。 
想定されるキャリア
 公立・私立美術館・博物館の運営スタッフ: 経営管理、広報、外部資金獲得(メセナ等)。 
文化財関連のNPO法人・財団: 保護活動の組織運営や政策提言。 
企業のCSR・広報部門: 文化支援(メセナ)を通じたブランディング。 

3. 文化財ファシリテーター(伝える人)
【目指す姿】 専門的な知見に基づき、来訪者に対して文化財の価値を「体験」や「対話」を通じて深く伝える役割。最新のデジタル技術やメディアを駆使した発信力も備える。 
想定されるキャリア
エデュケーター(教育普及員): 美術館等での対話型鑑賞やワークショップの運営。 
観光メディア・編集者: 取材に基づいた質の高い文化情報のアーカイブ・発信。 
デジタルコンテンツ制作: AR/VR等を活用した文化財の新しい見せ方の提案。

それでは、それぞれの人材に見合った推奨科目として跡見のマネジメント学部や観光コミュニティ学部にはどんなものがあるかをお示ししましょう。


1. 文化財コーディネーター(つなぐ人)
観光コンテンツ:物語性や歴史的舞台を観光資源化する理論を学ぶ 。
ホスピタリティデザイン:接客と文化の関係性を多角的に考察する 。
ニューツーリズム:現代の多様な旅の形態に文化遺産を組み込む視点を得る 。
観光まちづくり実習:実際の現場での課題解決と連携を体験する 。
イベント・コンベンション論:文化財を舞台とした催事や集客の仕組みを理解する 。
観光デザイナー論:地域の魅力を抽出し、観光としてデザインする専門性を学ぶ 。

2. 文化財マネージャー(守り活かす人)
広報マネジメント:組織と社会の双方向コミュニケーションやSNS運営、危機管理を学ぶ 。
アートマネジメント:芸術文化を社会組織の中で維持・運営するための実務を理解する。
文化政策:行政の枠組みや国際的な文化振興の動向を把握する 。
文化経済学:文化資源が持つ経済的価値と社会への影響を分析する 。
芸術文化と著作権:文化資源の活用に不可欠な法的権利関係の基礎を習得する 。
ESG経営:持続可能性の観点から、文化保護と組織経営の両立を考える 。

3. 文化財ファシリテーター(伝える人)
観光メディア論:情報発信の媒体特性を理解し、魅力をどう伝えるかを学ぶ 。
デジタルマーケティング:ICTを活用し、ターゲットに響く情報提供の手法を知る 。
観光デザイン演習:文化資源を魅力的な観光プランやプログラムとして構成する手法を練る 。
取材学:地域の文化や歴史を掘り起こし、言語化・視覚化するための手法を学ぶ 。
マーケティングコミュニケーション:受け手の心理を理解し、効果的な伝達技術を習得する 。
ブランドマネジメント:文化財や地域のアイデンティティを価値として確立させる方法を学ぶ 。

それぞれの人材モデルに6科目ずつ関連科目を上げましたが、そのうち3科目でも取得できれば人文学科で学んだ知識を社会実装するのに大いに役立つはずです。これ以外にもご自分の夢の実現に役立つ様々な自由選択枠の活用があるはずです。また、他の学科、他の学部の方々もそれぞれの自由選択枠の活かし方があることでしょう。プロゼミのアドバイザーの先生に相談してみましょう。きっと良い案を提示してくれるはずです。

 

 

 

 

 

 

 

企画展 「博物館実習生模擬展示(展示室1・2)
・会  場: 跡見学園女子大学新座キャンパス2号館 花蹊記念資料館
・会  期:2026年1月20日(火)~1月30日(金)
・開館時間:10時~16時 ※最終日は14時閉館
・休 館 日:土曜日・日曜日
・入 館 料:無料(事前予約不要)

 

※展示作業中の風景はコチラ

※美術班:ブログインスタグラムX

 

 第2期文化施設部会 博物館ワーキンググループ > 博物館ワーキンググループ(第5回)において、議論が続けられているようです。

 

かなり大幅な改訂が検討されているようで、喜ばしいことです。無事着地してほしいものですね。

 

特に注目されるのは、次の条文です。

 

博物館の設置及び運営上の望ましい基準

 第十四条(職員)

現行(第十三条第1項、第2項)第十三条 博物館に、館長を置くとともに、基本的運営方針に基づき適切に事業を実施するために必要な数の学芸員を置くものとする。2 博物館に、前項に規定する職員のほか、事務及び技能的業務に従事する職員を置くものとする。

改正案(第十四条第1項、第2項)第十四条 博物館に、館長を置き、博物館の経営及び当該博物館の事業に関する識見並びにその活動の充実及び発展を図るために必要な能力を有する者をもって充てるよう努めるものとする。2 博物館に、基本的運営方針に基づきその活動の充実及び発展を図るために必要な数の学芸員並びに事務及び技能的業務に従事する職員を置き、当該博物館の事業に関する知識及び技能を有する常勤の者をもって充てるよう努めるものとする。3 博物館は、基本的運営方針に基づき、その事業を効率的かつ効果的に実施するため、各職員の専門的な能力が適切に培われ又は専門的な能力を有する職員が適切に各業務を担当する者として配置されるよう努めるものとする。 4 博物館は、各業務の分担の在り方、専任の職員の配置の在り方、効果的な複数の業務の兼務の在り方、人材養成の在り方、処遇の在り方等について適宜、適切な見直しを行い、その運営体制の整備と業務の改善に努めるものとする。 5 博物館は、渉外、広報、デジタル化、資金調達等の専門性を有する多様な人材を実情に応じて確保するよう努めるものとする。 

 

十五条(職員)

現行(第十四条第1項、第2項)(職員の研修)第十四条 都道府県の教育委員会は、当該都道府県内の博物館の館長、学芸員その他職員の能力及び資質の向上を図るために、研修の機会の充実に努めるものとする。2 博物館は、その職員を、前項の規定に基づき都道府県教育委員会が修に参加させるよう努めるものとする。

改正案(第十五条第1項~第4項)(人材の養成及び研修)第十五条 主催する研修その他必要な研都道府県及び市町村の教育委員会並びに博物館は、それぞれの役割を踏まえ、博物館の職員が様々な業務を行うことを考慮し、域内の博物館の振興に向け、博物館の館長、学芸員その他の職員の能力及び資質の向上を図るために、人材の養成及び研修の実施に努めるものとする。2 博物館は、その職員が様々な業務を行うことを考慮し、人材の養成及び研修を実施するとともに、国、都道府県若しくは市町村の教育委員会又は博物館が主催する研修その他必要な研修にその職員を、他の博物館の職員との知見や技術の共有に資する博物館相互の交流、学会や現地調査その他の調査研究活動等参加させるよう努めるものとする。3 博物館は、その職員に、当該博物館の事業に係る条約及び法令並びに当該博物館が自ら策定又は選択する倫理規程及び行動規範等を周知するよう努めるものとする。(新設)4 博物館は、大学等と連携し、実習等を希望する学芸員養成課程の学生を積極的に受け入れるなど、学芸員の養成に努めるものとする。(新設)

 

博物館ワーキンググループ(第2期第5回)議事次第(86KB)

資料1 博物館の望ましい基準について(747KB)
資料2 新旧対照表(288KB)  

企画展「吉岡弘昭展 哀しみとおかしみを湛えた不思議な魅力」のお手伝いをしましたので、ご紹介します。お楽しみに。

 

 

展示概要
展覧会名 吉岡弘昭展 哀しみとおかしみを湛えた不思議な魅力
会期 2025年11月15日(土曜日)~12月21日(日曜日)
観覧時間 10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日 月曜日、11月25日(火曜日)
※ただし、11月24日(月・休)は開館
観覧料 一般800円(640円)、高・高専・大学生400円(320円)、中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金。市内在住・在学の高校生、市内在住の65歳以上の方、各種障がい者手帳をお持ちの方と付き添い1名は無料。受付に証明書をご提示ください。
※11月21日(金曜日)はあいちウィーク期間中の「県民の日学校ホリデー」のため観覧無料
主催 碧南市藤井達吉現代美術館、碧南市、碧南市教育委員会
共催 中日新聞社
ゲストキュレーター 栗田秀法(跡見学園女子大学教授)

 

 

記念対談

概要
演題 プリントとペインティングの往還
講師 吉岡弘昭氏(画家)
栗田秀法氏(跡見学園女子大学教授、本展ゲストキュレーター)
司会 木本文平(当館館長)
日時 11月15日(土曜日)14:00~15:30
場所 地下1階・多目的室B
定員 50名 ※要申込

※聴講無料

 

10/18にちょこっとお話をします。


企画展「市橋安治展ーマドリードからの軌跡をたどって」
会期 令和7年10月1日(水曜日)から11月16日(日曜日)まで
会場 不二竹鼻町屋ギャラリー(岐阜県羽島市竹鼻町2765番地)

 

開催記念講演会「市橋安治とスペインの巨匠たち:ゴヤ、ピカソ、サウラとの対決」※事前予約制
講師 栗田秀法氏(跡見学園女子大学文学部教授、名古屋大学名誉教授)
日時 10月18日(土曜日) 13時30分から15時00分まで
会場 福祉ふれあい会館 2階地域ふれあいスペース
定員 50名(要申し込み)
参加費 無料

 

企画展「市橋安治展ーマドリードからの軌跡をたどって」/羽島市公式Webサイト

 

企画展「市橋安治展ーマドリードからの軌跡をたどって」/羽島市公式Webサイト

第2期文化施設部会 博物館ワーキンググループ
では、「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」の検討が進んでいるようで、

現在の進行状況もわかります。コチラ

 

少しだけ気になるのは、先般の博物館法の参議院の付帯決議で「博物館法第八条に定める「博物館の設置及び運営上望ましい基準」を定めるに当たっては、本附帯決議の精神を反映させるよう努めること。」とされていたので、どの程度付帯決議の内容・精神が反映されているかということです。

 

付帯決議を下に引用しておきますので、ぜひ皆さん検討してみてください。

 

○附帯決議(令和四年四月七日) 

政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

 一、本法による新たな博物館登録制度が十分に活用されるよう、登録により各博物館の信用や認知度の向上につながる制度の実現に向けた施策を推進するとともに、新たな登録制度の活用状況や博物館の振興に及ぼす効果等について調査・検証を行い、その結果に基づき必要な措置を講ずること。 二、登録博物館について、その設置主体が民間の法人等に拡充されることから、登録の審査に当たっては、博物館の社会教育施設としての役割を尊重し、過度に利益を求めないという非営利性に配慮の上、公益性及び公共性の確保に十分留意すること。また、登録後の博物館の運営状況について、定期報告等を通じ、博物館が持続的に活動できるよう経営の改善・向上を継続的に図るための支援を行うこと。 

三、博物館の中核的職員である学芸員については、文化審議会の答申においても中長期的な課題とされたことから、学芸員に求められる専門的な能力を再定義するなど学芸員の在り方について制度的な検討を行い、必要な見直しを行うこと。また、学芸員をはじめ、学芸員補など様々な専門的職員の育成・配置が重要であることを踏まえ、その社会的地位の向上及び雇用の安定等の処遇改善や、博物館職員の充実を図るための財政的支援に努めるとともに、研修及び調査研究助成等を充実させることにより、我が国の博物館の活動の基盤を担う人材の育成・確保等に努めること。

 四、博物館の活動や経営の向上においては、責任者として事業や業務に十分な見識を持つ館長の果たす役割が重要であることから、学芸員で高度かつ専門的な知見を有する者の登用や研修等の実施を通じ継続的にその専門性の向上を図るなど、館長としての職責を十分果たすことのできる環境の整備に努めること。また、館長の専門職化に努めること。 

五、これからの博物館には、地方公共団体や民間団体等と連携し、社会的・地域的課題の解決を図ることが期待されることから、国立博物館を中核として設置者の枠を越えた全ての博物館の連携を促進するとともに、地域の多様な主体とのネットワークの形成が円滑に実現するよう、必要な支援を行うこと。 

六、本法による新たな博物館登録制度の下で、都道府県・指定都市の教育委員会における業務負担の増大が想定されることに鑑み、都道府県・指定都市の教育委員会において、博物館に係る知見を有する専門人材の配置及び育成、博物館関連業務に当たる職員の増員等の体制の強化が可能となるよう、必要な支援に努めること。 

七、博物館については、多くの博物館が非常に厳しい財政状況にあり、施設・設備の老朽化への対応も求められる中、従来担ってきた社会教育施設としての機能に加え、文化施設としての新たな役割も担うこととなる。多様な役割を担う博物館の更なる振興を図るため、博物館に対する財政上の措置の拡充や新たな税制上の優遇策の検討などの様々な振興策を講ずるとともに、とりわけ小規模な博物館における経済的・人的資源の不足が深刻であることを念頭に置きつつ、博物館の持続的経営を可能とする新たな運営指針の策定など、各博物館が長期的に安定して資金を確保し得る仕組みの構築に向けた支援を行うこと。また、博物館に対する公的支援の必要性等に関し広く国民の理解が得られるよう、博物館が担う社会的機能の重要性等について広報活動を実施すること。なお、振興策を講ずるに当たっては、社会教育法及び文化芸術基本法の精神に基づき、博物館の多様性を尊重することや、その特性に格段の配慮をすること。 

八、博物館法第八条に定める「博物館の設置及び運営上望ましい基準」を定めるに当たっては、本附帯決議の精神を反映させるよう努めること。

 右決議する。 

※太字は筆者による

 

旧著をAIに評してもらいました(笑)

 

<書評>

栗田秀法 著『プッサンにおける語りと寓意
三元社

 

知的な視覚が拓くプッサン絵画の新境地:
『プッサンにおける語りと寓意』が問い直す意味生成のメカニズム


栗田秀法氏による労作『プッサンにおける語りと寓意』は、17世紀フランス絵画の巨匠ニコラ・プッサンの作品を巡る従来の理解に揺さぶりをかけ、その鑑賞体験の深層に新たな光を当てる画期的な試みである。本書は、オスカー・ベッチュマンの「美術史的解釈学」をその方法論的基盤に据えつつ、マルク・フュマロリやジョナサン・アングローブらの最新研究を踏まえ、さらにその射程を広げている。著者が本書で追求するのは、絵画の表層に織り込まれた「修辞的技巧」が、いかにして作品に多層的な寓意的内容を「呼び込み」、鑑賞者の「知性的な視覚」を触発することで、能動的な意味生成のプロセスを駆動させるかという点である。この問いは、美術史や人類学の分野においてアルフレッド・ゲルの「アートとエージェンシー(Art and Agency)」によって近年特に注目されるようになった「生動性(Agency)」、すなわち美術作品自体が「行為主体性」を持ち、人や事象に影響を与える力を持つという概念とも共振し、作品と鑑賞者の間に生まれるダイナミックな関係性を鮮やかに描き出す。

序論:プッサン研究の新たな視座
序論では、まずプッサン研究の成立と展開を概観する。王立絵画彫刻アカデミーを舞台とした素描派(プッサン派)と色彩派(ルーベンス派)の論争、いわゆる色彩論争の中心にいたロジェ・ド・ピールが、プッサンの作品について、自然よりも古代彫刻を重んじる態度を批判した評言に触れる。これは、絵画や芸術の目的が知性を満足させることよりも眼を喜ばすことに次第に重きが置かれる近代美術の展開におけるプッサンの評価を先取りするものであったと指摘する。続けて、近代美術史における「画面構想(invention)」の分野が十分な理解を得られていないという問題意識を提示し、本書の目的がプッサンの画面構想の特質を多角的に探求することにあると明確にする。
次いで、美術史的解釈学とプッサン研究の動向に言及する。ジャック・テュイリエが新資料の発見なくして研究の停滞を指摘したことに対し、オスカー・ベッチュマンが『プッサンの絵画の弁証法』で「作品自身」の意味構造に注目する「表層的」な解釈学を提唱したことを紹介する。さらに、マルク・フュマロリによる修辞学とプッサンの関係、ジョナサン・アングローブによるタッソの芸術論のプッサンへの影響といった近年の研究成果を挙げ、これらの視座を本書の方法論的基盤とする。特に、プッサンの絵画が単なる視覚的記録ではなく、「行為遂行的な」メッセージを持つという点が、本書の独自性を際立たせている。

第1部:寓意を呼び込む修辞的な技巧
第一章:『幼いピュロス王の救出』――詩学と倫理学の交錯をめぐって
第一章では、プッサンのローマ到着後の初期の公的注文の不調と、その後の古典的な作風への転換に着目する。特に『アシドトのペスト』と『フローラの王国』という対作品の分析を通じて、プッサンが官能的な神話画から劇的な感情表現と古典的構図を重視する作風へと移行したことを示す。
本章の中心である『幼いピュロス王の救出』(1634年)の分析では、プッサンがプルタルコスの『英雄伝』を典拠としつつ、単なる物語の再現に留まらない修辞的技巧を駆使していることを明らかにする。特に、画面中央で槍を投げる男たちの群像がレオナルド・ダ・ヴィンチに、幼子ピュロスを取り巻く女性群像がラファエッロに競合していると指摘し、これらの「パトスのイコン」の導入が画面の劇的性格を高めていると論じる。さらに、準備素描段階で前景に描かれていた「絶望してうずくまる女性」のモティーフが完成作では排除され、代わりに劇的な性格を与えられた新たな女性群像が導入された点を「構想の発展」と位置づける。この変化は、物語の劇的転換を際立たせると同時に、新ストア主義的な道徳論(剛毅の美徳)を読み取る余地を残している。この章は、プッサンが画面構想において「ペリペテイア」の手法を意識的に導入し、鑑賞者の感情的・知的な反応を促す「行為遂行性」を追求していたことを示す重要な新知見である。

第二章:『エルサレム落城』――政治的理念の表象
第二章では、プッサンが生涯に二度描いた『エルサレム落城』の主題を扱う。第一作(1625-26年頃)と第二作(1635年)の比較を通じて、特に第二作においてプッサンが典拠からの逸脱と独自のモティーフ導入によって、政治的理念の表象を試みたことを論じる。
著者は、第二作のティトスの視線が、単に神殿の炎上現場に到着した物語叙述の場面に留まらず、ラファエッロ工房の「コンスタンティヌスの幻視」など、古代ローマ皇帝の凱旋入場の図像が交錯している可能性を指摘する。これにより、ティトスの姿に無敵の皇帝像が重ね合わせられ、彼の「恭順」の身振りは、神に選ばれた英雄的な人物が神の預言の成就に立ち会う「ロゴス」に貫かれた存在として描かれていると解釈する。さらに、画面左端に配置された捕虜を差し出すモティーフが、従来の「仁慈(クレメンティア)」の図像に由来するものであり、これが皇帝の優越性を強調する一方で、鑑賞者に向けては世俗の君主が神の代理人であるローマ教皇のしもべであるという政治的寓意を巧みに喚起していると論じる。この章は、プッサンの「新しい配置」が、鑑賞者に多層的な意味生成を促す「行為遂行性」の具体例として、図像学的分析から政治的・神学的理念の表象へと踏み込んだ深みのある議論を展開している。

第Ⅱ部:新ストア主義とプッサン
第三章:『マナの収集』――織り込まれた新ストア的範例
本章は、プッサンの代表作の一つである『マナの収集』(1637-39年)を詳細に分析する。著者は、まず先行作例、特にアゴスティーノ・ヴェネツィアーノによるラファエッロ原画の版画との比較を通じて、プッサンがモーセとアロンを中景に独立して配置し、左右に奇跡の前後の状況を表す人物群を対比させるという「新しい配置」を創出したことを明らかにする。
この「新しい配置」は、単に感情表現の幅を広げるだけでなく、アリストテレスの『詩学』における「ペリペテイア(逆転)」の手法を絵画に導入し、時間表現を可能にしていると論じる。特に、前景左の飢餓の状況を表す群像(「ローマの慈愛」に由来)と、前景右の喜捨の行為を表す群像との対比が、ストア主義的な教訓と結びついていることを指摘する。すなわち、飢える老婆に乳を与える左手の女性は「剛毅」を、手に入れたマナをいまだ危機にある人物に運ぶよう促す右手の女性は「節制」を体現しており、これらが逆境と順境における人間のあるべき行動の指針を示していると解釈する。この分析は、プッサンが宗教主題を倫理的・教訓的なものに変形し、鑑賞者へ「行為遂行的なメッセージ」を伝達しようとしたことを示す新知見であり、イムダールの「イコニーク」的解釈をさらに深めるものとなっている。

第四章:『アルカディアの牧人たち』(ルーヴル美術館蔵)――「知恵」と「恒心」のテーマをめぐって
本章では、プッサンの最もよく知られた作品の一つであるルーヴル美術館所蔵の『アルカディアの牧人たち』(1638-40年頃)を取り上げる。著者は、グエルチーノの同主題作との比較を通じて、この作品における「EGO ARCADIA IN ET」という銘文解釈の問題に深く切り込む。パノフスキーの「われもまたアルカディアにありき」という伝統的解釈を一歩進め、著者は、この銘文が鑑賞者の「知性的な視覚」を触発し、死すべき運命に対する「知恵」と「恒心」というストア主義的テーマへと導く修辞的技巧として機能していると論じる。
特に、画面右端に立つ女性像の役割に焦点を当てる。先行研究で指摘されるチェーザレ・リーパの「歴史」の擬人像やチェージの「ユノ」に由来するという見解を踏まえつつ、著者は、この女性像が、牧人たちに銘文の内容を教え諭し、鑑賞者にも「恒心を保つ」というメッセージを伝達する「知恵」の擬人像として機能していると解釈し、作品の寓意的次元を鮮やかに前景化する。この章は、作品が単なる寓意画としてではなく、鑑賞者との間に能動的な思索のプロセスを構築する「行為遂行性」を持つことを、細部の図像分析から説得力を持って提示している。

第Ⅲ部:フロンドの乱の時代における恩寵、運命、知恵
第五章:『エリエゼルとリベカ』――象徴的次元の前景化
本章では、プッサンの画業における重要な転換点である1648年に制作された『エリエゼルとリベカ』を分析する。まず、1640年代半ばから制作された第二の「七つの秘蹟」連作において、プッサンが古代考証を踏まえた「適切さ(convenevolezza)」と壮重な作風を確立したことを確認する。
『エリエゼルとリベカ』の分析では、特に画面からラクダが「排除」されている点に注目する。これは、従来の図像類型からの逸脱であるが、著者は、レオン・ダヴァンによる版画など先行例の存在を指摘しつつ、プッサンがこの排除によってリベカに「受胎告知」の図像類型である「思慮」のポーズを付与することで、主題の象徴的意味を視覚的に喚起する独創的な試みであると看破する。この変更は、主題が持つ「受胎告知」の予型としての意味を、観念の次元ではなく、画面上で可視的に暗示することを可能にした新知見である。この章は、プッサンが物語叙述の「プロット化」を通じて、作品に「悲劇」的な性格と象徴的次元を前景化し、鑑賞者への「行為遂行的な」メッセージを強めていたことを実証する。

第六章:「英雄的風景画」の成立と物語画――フロンドの乱への応答
本章では、プッサンの画業において1648年頃から集中して制作された「英雄的風景画」の成立を、同時代のフランスを揺るがした「フロンドの乱」という政治的文脈と結びつけて考察する。
特に、『フォキオン伝連作』(『フォキオンの葬送のある風景』と『フォキオンの遺灰の収集のある風景』)を対作品として分析する。著者は、前景の悲劇的な物語と対照的な背景の平和な風景、そして豪華な墓碑と遺体の追放という視覚的対比が、「忘恩」の寓意を浮かび上がらせると論じる。さらに、この対比が「真実は時の娘」というストア的寓意を表し、フロンドの乱という政治的混乱の中で、プッサンが鑑賞者に「運命のいたずら」への「堪忍」を促すメッセージを込めていたことを看破する。この章は、風景画というジャンルが、当時の政治的状況に対する画家自身の応答と、教訓的なメッセージを観者に「行為遂行的に」伝達する手段として機能していたという、プッサン研究における新たな視座を提示している。
また、本章の終盤では『ソロモンの審判』(1649年)も分析対象となる。この作品は、プッサンの物語画が、単なる物語叙述から教訓的な寓意の内容へと比重を移していることを検証する作品として位置づけられる。著者は、従来の図像類型を巧みに改変し、ソロモン王が「叡智と謹厳さにあふれ」、「情念に囚われることなく神の言葉(ロゴス)を聞き取り身振りでそれを伝えるものとして、不動の威厳のある姿で描かれ、正義の観念を体現している」と論じる。激情に駆られた偽りの母親(「怒り」の情念を体現)と対比されることで、ソロモンの「賢者としての苦吟」をはらみつつも、情念を超越した存在として描かれ、偽りに対する正義の勝利という寓意を視覚的に提示している。この分析は、プッサンが鑑賞者に「あわれみとおそれ」を喚起しつつも、より高次の知恵と正義の寓意を「行為遂行的に」読み取らせることを意図していたという新知見である。

第七章:『コリオラヌス』――戦争と平和の寓意
本章では、プッサンの「行為遂行性」の視座を最も鮮やかに示す作品の一つである『コリオラヌス』(1652-53年頃)を詳細に分析する。著者は、コリオラヌスが母ウェトゥリアの懇願によって怒りを収める瞬間を描いた本作品において、プッサンが典拠からの逸脱と図像学的な創造性を発揮していることを明らかにする。
特に、コリオラヌスが剣を手にしながらも、その表情が「怒り」と「驚き」の中間にあることを指摘し、ル・ブランの情念表現との比較を通じて、彼が感情の暴走から理性の平静へと回帰する「逆転」の瞬間にあると解釈する。プッサンは、コリオラヌスと、他の人物には見えないローマの女神を対置させることで、作品に「平和」と「戦争」の寓意を織り込んでいる。この女神は、ミネルヴァの属性(盾)を持ち、智慧と勇気、剛毅の象徴として、コリオラヌスとの対決を通じて「節制」の美徳を暗示している。この読み解きは、単なる歴史的再現に留まらず、フロンドの乱という同時代の政治的混乱に対するプッサンのメッセージ、すなわち、個人の感情を抑制し、理性に基づいた判断を下すことの重要性を強調している。古代の典拠や図像を巧みに改変し、新たな寓意的内容を生み出すこの手法は、プッサンの「新しい配置」が、鑑賞者をして多層的な意味の生成へと誘う「行為遂行性」の極致を示している。

第八章:1650年代の聖書物語画における語りと寓意
本章では、プッサンの晩年に近い1650年代の聖書物語画、特に『キリストと姦淫の女』、『サフィラの死』、『足萎えの男を癒す聖ペトロと聖ヨハネ』の三作品が分析される。これらの作品は、古典主義的な石造建築が立ち並ぶ「都市風景画」として一つのグループを形成している。
著者は、『キリストと姦淫の女』において、キリストが地面に文字を書く場面におけるファリサイ派の人々の動揺と、キリストの威厳ある静謐な姿との対比に注目。フュマロリが指摘するように、神の言葉(ロゴス)が身振りを介して伝達される様が表現されていると論じる。
また、『サフィラの死』では、従来の図像類型(ラファエッロのタピスリー版など)に多くを負いながらも、フィリップ・ハレの版画(『使徒言行録』連作中の『サフィラの死』)に示唆を得て、聖ペトロとサフィラの位置関係を画面中央に平行に配している。特に、前景にサフィラの「吝嗇」という悪徳に対する「天罰」を、中景には「喜捨」という美徳あるいは慈愛の行為を対比させる「新しい配置」を創出している。この配置により、欺瞞に対する天罰と慈愛という倫理的メッセージが「行為遂行的に」前景化される。
さらに、『足萎えの男を癒す聖ペトロと聖ヨハネ』においては、デューラーやミケランジェロといった巨匠の作品からの借用を認めつつも、フィリップ・ハレの版画(『聖ペトロと聖ヨハネ伝』連作中の『足萎えの男を癒す聖ペトロと聖ヨハネ』)からの影響を指摘し、この作品の独自性を明らかにしている。特に、階段の象徴的利用により地上の慈善行為と神の奇跡とが上下の階層で対比され、信仰と救済の寓意が強調される点が特筆される。これらの作品に見られる、従来の図像を再構成し、視覚的要素を通じて多層的な意味を観者に提示する手法は、プッサンの晩年の物語画における「行為遂行性」の探求を示す好例となっている。

結論:プッサンの物語画の意味構造
結論では、プッサンの物語画が、単なる視覚的記録ではなく、鑑賞者の知覚と理性に深く働きかけ、多層的な意味を自ら生成していく「生きられた経験」であることを実証する。プッサンが絵画に込めた寓意的内容は、鑑賞者が「知性的な視覚」を働かせ、絵画を詳細に観察する中で、その頭脳において意味が結実していくという、開かれた意味構造を持つ。本書は、美術史研究の最前線に位置づけられるだけでなく、文学、演劇、哲学といった多岐にわたる分野との豊かな対話を促す、学際的な芸術史研究の新たな地平を切り拓く重要な一冊である。