ブラジルのインディペンデントアニメ界の新鋭アレ・アブレウ監督による長編アニメーション作品。

 

 

 

 

 

      

            -  O Menino e o Mundo  -  監督 脚本 アレ・アブレウ

 

 こちらは2013年制作の ブラジル映画 ブラジル です。(80分)

 

 

 

 

  少年は両親とともに幸せに暮らしていましたが、ある日突然父親が列車に乗ってどこかへ出稼ぎに出てしまいます。 少年は父を家に連れ帰ろうと、未知の世界へ出発します。

 

 

 

 

やがて少年は、酷使される農村や虚飾に満ちた暮らし、戦争を画策する独裁政権など矛盾や問題を目にします。それでも少年は、旅路で出会った様々な人や、かつて父が奏でたフルートのメロディの記憶を頼りに、歩を進めていくのですが、、。

 

 

 

 

ちょっと意外な感じがするこちらのブラジル産アニメーション映画ですが、2014年のアヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞にあたるクリスタルと観客賞のダブル受賞を果たし、第88回アカデミー賞長編アニメーション部門に南米作品として初めてノミネートもされた作品です。

 

 

 

 

ポスターアートを見る通り、その絵はとってもポップでカラフルな色彩に溢れています。 主人公や人物はまるで子供がクレヨンで描いたような単純な線のままで、その見た目はNHKで放送されていたイモ虫のクレイアニメ 「ニャッキ!」 を連想させる可愛い絵柄。

 

 

 

 

そんな可愛らしく描かれた少年が、父親を探して冒険に旅立つという夢に溢れたファンタジックなお話を想像していたのですが、映画の内容はとってもシビアで現実的な物語になっていました。

 

 

 

 

家族3人で幸せに暮らしていた父親が、ある日出稼ぎの為に電車で何処かへ旅立ってしまいます。 寂しくなった少年は父親の姿を探して旅立ちます。 農園で働く気のいい老人や繊維工場で働く青年に出会いながら父親の影を追う少年。 

 

 

 

 

少年がそこで見るものは過酷な労働を強いられている貧しい人々、彼等から搾取したもので繁栄する別の島のお金持ち。 工場でのリストラや買収で職を失い彷徨う老人、そのすぐそばに迫る軍隊と戦争の暗い影。 ごみの中に暮らす身寄りのない子供達。

 

 

 

 

この映画の背景には移民国家であるブラジルの風土や社会、政治、環境、経済、貧困といった大人の問題がテーマになっていて、まだその意味すらも理解出来ない無垢な少年の目から見た格差社会や消費社会の恐ろしさを見せられる事になります。

 

 

 

 

こういった重いテーマのお話ながら映像はとっても華やかで、クレヨン、色鉛筆、切り絵油絵具やコラージュなどを自在に使い分けた美しい映像は、まるで絵本がそのまま動き出す魔法がかけられたかのような錯覚になる程の自然な質感と滑らかな動きです。

 

 

 

 

他にもこの作品には一切のセリフもテロップもなく、言葉を発する場面こそありますが、その言葉は架空の言語が使われ、それに意味はありません。 言葉を必要とせず音楽だけがストーリーを導いていくのです。

 

 

 

 

そして最も重要な所は物語の主人公達が背景とは違い、単純化された線で描かれている事ではないでしょうか。 言葉も発せず特別ではない無個性な存在の彼等に自分自身を投影し、特別な何処の国でもない誰にでも当てはまる存在である事で、自分の物語として受け止められるようになっているのではないでしょうか?

 

 

 

 

驚くほど美しい絵と色が溢れる映像の中を旅した少年がたどり着いたその先には、なんとも言葉に出来ない悲しみや寂しさ、刹那さや虚しさを感じますが、同時に愛おしさや優しさ、そして良く分からないのですが愛という感情が押し寄せて来て、自分にも整理できない不思議な余韻がしばらく残ったままになりました。

 

 

 

 

人は何故働くのか、その意味と代償はあまりに辛くて悲しくて、でもそれは愛のためだと色々気づかされ、触発され、それでいて愛おしくなる作品です。

 

 

 


アニメーションの面白さは絵が動くこと。 色鮮やかな絵画をたっぷり使ったアニメーションと素敵な音楽で綴られたこの贅沢な時間と感情を、この機会にぜひ味わってみてはいかがでしょうか、です。

 

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

 

映画のエンディングソングです。 宜しければお聞きくださいです。 音譜