終結後、約100年たった第1次世界大戦の記録映像を、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズなどのピーター・ジャクソン監督が再構築したドキュメンタリー

 

 

 

 

 

 

       -  THEY SHALL NOT GROW OLD  -    監督 ピーター・ジャクソン

 

 こちらは2018年制作の ニュージーランド  イギリス イギリス 

                                                                 による合作映画です。(99分)

 

 

  イギリスの帝国戦争博物館が所蔵する2200時間以上に及ぶモノクロ、無音、経年劣化が激しく不鮮明だった100年前の記録映像に、修復、着色、3D化という3段階の作業を実施。 修復作業にはバラバラのスピードで撮影されていた古い映像を現代の24フレームに修正するため、足りないフレームを作成するなど、今までにない最新のデジタル加工を施した。 

 

 

 

 

また、当時は録音技術がなかったため、BBCが所有していた600時間以上に及ぶ退役軍人たちのインタビューのほか、兵士たちが話す口の動きを読唇術のプロが解析した言葉や効果音を用いて、元々無音だった映像に音声を追加。 まるで魔法をかけられ、命を吹き込まれたかのように1本の映画として蘇った。 

 

 

 

 

映し出されるのは、戦車の突撃、爆撃の迫力、塹壕から飛び出す歩兵たちなど、過酷な戦場風景ばかりではない。 リラックスした表情で食事や休息を取る日常の様子など、徹底的に兵士の日々に寄り添い、死と隣り合わせの状況でも笑顔を見せる兵士の姿が印象に残る。これまで遠い過去の話としてしか捉えられていなかった第一次世界大戦。 その戦場が鮮やかにスクリーンに蘇り、普通の青年たちが目にした戦場に、見る者を誘う、、。

 

 

 

 

第一次世界大戦の終結から100年が経ち制作された本作は、イギリス軍で記録されていた生の戦場の様子をデジタル技術によって修復、カラー化したものです。この作品の面白い所は、開戦から終戦までの様子を一般市民側の視点から戦争という狂乱の出来事に巻き込まれていく姿が、時代の流れや空気と共に描かれている点です

 

 

 

 

開戦が近いと色めき立つ当時の町の様子、その空気感によって愛国心から戦争へ志願する若者の心理とその高揚感。 戦地へ赴くまでの厳しい訓練によって兵士に作り変えられる軍隊の恐ろしさと集団心理。 戦地に就いて目の当たりにする現実離れした光景と恐怖。 塹壕の中の劣悪な日常と労働、戦闘が始まった瞬間の地獄絵図。

 

 

 

 

隣にいた友人が次の瞬間に遺体に変わっていく戦場の狂気と、次第に朽ちていく多くの死体を見ても何も感じなくなっていく感情の麻痺。 そんな中でも時折見せる笑顔やジョークを言い合う姿に、これが日常化している戦争というものの狂気を生々しく感じます。いざ捕虜にしたドイツ人も面と向かえば普通の良い人間だったという言葉が戦争の不条理さを伝えます。 

 

 

 

 

終戦になり、奇跡的に帰還した兵士達に町の人は無関心で、就職するにも求人には「復員兵お断り」の文字が付けられていたリという現実。 戦争前の市民の高揚感は終戦と共に消え、国の為に死と隣り合わせで戦った兵士が、仕事に復帰した時に客から「ずっとどこに行ってたの?」と声をかけられたというナレーションに胸が痛みました。 

 

 

 

 

開戦前と終戦後はこれまで通りもカクカクしたモノクロ映像で、戦地へ就いた瞬間からカラーの映像とワイドな画面に変化する事でリアルな戦場を体験するような構成がされています。 そのドキュメンタリー映像にこの戦争に参加した多くの元兵士の方々のインタビューが流れる作りになっているのですが、字幕でしか理解出来ない私なんかはその文字の多さを追う事を優先させてしまうと映像に集中出来ないという問題が発生してしまいます。 その為、映像と文字の見方とその配分を個々で工夫しながら鑑賞する必要がある作品で、その点を注意してくださいね。 

 

 

 

 

そしてありのままの戦場を映している本作は他のドキュメント映像よりも戦死して足元に朽ち果て、倒れている生々しい遺体の映像が多く映されています。 これがリアルな戦場の光景だと言わんばかりの映像です。

 

 

 

 

今さらながら戦争というものの狂気についてどうこう言うのも気が引けますが、モノクロによって遠い過去のものだった戦争が、色を帯びた事によって正に現在に蘇ったように感じる新たな映像体験のドキュメンタリー作品で、CG技術を作品に上手く使ったピーター・ジャクソンだからこそ可能にした未知の映像作品です。 言葉よりもまずご自身でこの映像をご覧になって、戦争、そして個人について色々と考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか?といった感じです。

 

では、また次回ですよ~! パー