ミステリーの女王 アガサ・クリスティ が1962年に発表した小説「鏡は横にひび割

れて」を原作に、ミス・マープルが邸宅でおきた殺人事件に挑むサスペンス映画。

 

 

 

 

 

 

           -  THE MIRROR CRACK'D  - 監督 ガイ・ハミルトン

 

 出演 アンジェラ・ランズベリー、エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン 他

 

こちらは1980年制作の イギリス映画 イギリス です。(105分)  

 

 

 

 

  1953年、ミス・ジェーン・マープルの住むイングランドの片田舎セント・メアリ・ミードは、いつもの静けさが嘘のように賑わっていました。 のどかな田舎町に来客が訪れたのです。 その一行とは、久しぶりに映画に復帰する往年の大女優マリーナ・クレッグや、映画監督である夫のジェイソン・ラッドら、ハリウッドの撮影隊がゴシントン荘に長期滞在し、大作映画 「スコットランドの女王メアリー」 の撮影が行われるからでした。

村をあげての歓迎ムードの中、ゴシントン荘ではマリーナがホステスとなって村の人々を招待し、盛大な交歓パーティーが催されようとしていました。 ミス・マープルもパーティーに参加しようと出かけましたが、子供が離した犬のリードに足をすくわれて転倒してしまいます。 それがもとで足首を痛めてしまい、やむなく帰宅するはめになってしまいます。

 

 

 

 

そんな中、今回の映画のプロデューサー、マーティが妻である女優ローラを伴って現れます。 しかし、マリーナとローラは犬猿の仲で、二人の共演はトラブルを引き起こすと懸念されていたのです。 そんなパーティーの真っ最中、戦時中にマリーナの慰問公演を見て感動したという村の女性、ヘザー・バブコックが突然倒れ、急死してしまいます。 パーティーで手伝いをしていたミス・マープルの家政婦チェリーによると、ローラらが現れた際、ヘザーはマリーナに一方的に退屈な思い出話をまくしたてていて、その話を聞いていたマリーナは、突然階段に飾られていた聖母子像を見つめて「凍りついたよう」になっていたとマープルに語ります。

 

 

 

 

検死の結果、ヘザーの死因はカクテルに混入された毒によるものと判明します。 しかもその毒入りのカクテルは、ジェイソンが作り、もともとマリーナが飲むはずのものだったこともわかりました。そんな中、映画の撮影が開始されますが、ローラとマリーナの不仲がやはり障害になって一向にはかどりません。 マリーナは撮影中の休憩に出されたただのコーヒーに毒が入っていると騒ぐなど、心配されていた精神状態は次第に不安定なになっていきます。

ミス・マープルの甥であるロンドン警視庁のクラドック警部が事件を担当する事になり、関係者たちに事情聴取を始めますが、思うように捜査は進みません。 やっと会えたマリーナからは、自分に脅迫状が届いていた事を明かされます。 そんな折、ジェイソンの助手のエラ・ジリンスキーが、自身の吸入機に入れられた毒によって殺されてしまう、、。

 

 

 

 

公開年に日本で流行った小説から取ったのではと思われるタイトルが一番の謎の本作

「オリエント急行殺人事件」 「ナイル殺人事件」 の同ープロデューサーによるアガサ・クリスティ映画の3本目となる本作。 今回の特色は前2作とは違って推理するのはミス・マープルというお婆ちゃん。 場所も彼女が住む田舎の町にある豪邸が舞台になり、観光的な面白味はダウンしています。 しかし、名物となった感のある俳優陣は今回も豪華エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、キム・ノヴァク、エドワード・フォックス、トニー・カーティスといった、皮肉っぽく言うと往年のスター俳優が名を連ねています。

 

 

 

 

本作はモノクロの劇中劇の映画から始まります。 アガサ・クリスティ作品のパロディとも思える推理劇がそこで展開されていて、容疑者達に探偵が動機を説明していきます。さて、犯人が明かされるという瞬間。 映写機が故障して上映が中止となった時、観客の中に居たのがミス・マープル。 その場を立ち去りながら観客達の推理を論破し、犯人を言い当てて出て行きます。 映画の導入とキャラクターの紹介を実に見事にやってのけたオープニングです。 私的にはここが映画のピークでしたが、、。

 

 

 

 

パーティーの最中、マリーナが飲むはずだった毒入りのお酒を誤って飲んでしまった女性が亡くなった事で捜査が始まる訳ですが、それを推理するミス・マープルはその現場に居らず、ほとんどの捜査と証言は甥のクラドック警部が代行するような形で進んでいくのが今回の特徴です。彼が映画好きという設定が愉快でした。当のミス・マープルと言えばお家で編み物をしたり、庭いじりをしたりと、とってものどかその為、捜査や事件そのものもあまり切迫感を感じないものになっています。その分、二人の女優のバトルやマリーナと夫の夫婦愛の描写の方にスポットが当てられています。 これはある種意図的なもので、それによってこの事件で明るみにされる結末が、より感情に訴えるものになっています。 あの瞬間の顔は忘れられません。

 

 

 

 

本編のドラマより撮影している映画の方がエレガントで魅力的だったり、ミスリード感満載の女性カメラマンの怪しさ、「めまい」のイメージとは打って変わったキム・ノヴァクに向かって「スイスで美容整形中かと思ってたのに」 とエリザベス・テイラーに言わせる恐ろしさと二人のザ・女優な美貌、意外に大きいミス・マープルの身長と、それを遥かに超えるロック・ハドソンの大きさ。 そうそうここでミス・マープルを演じているアンジェラ・ランズベリーは前作の「ナイル殺人事件」で殺されていたのを思い出しました。映画のエンディングは横溝映画を思わせる悲しいものになっていたのですが、今回はポアロとは違い容疑者を集めた前での犯人披露がないパターンですが、そんな事もあってか終わり方があまりにもあっけなく感じられるものです。 観客の感情的にはもうワンシーン位のクッションが欲しかったのですが、余韻に浸る隙を与えてはくれない終わり方と、俳優陣の豪華さに反したこじんまりに何故か 「火サス」 を連想してしまった私でした

 

 

 

 

とはいえ安定のアガサ・クリスティ原作の面白さとミス・マープルのイギリスカントリー的なインテリア、紅茶と庭いじり、お手伝いさん。 これでネコでもいれば最高の老後だな~とうらやましくなる生活等、それぞれの作品に見所があります。アガサ・クリスティの映画化作品の中でも最もリアルに悲しみの感情に訴える作品です。一人の人間がとった悪意のない行動によって、女性の人生を大きく変えてしまう不幸な悲しい物語。 それは女性であるが故のあまりに大きな悲劇のお話でした。機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー