渓谷で外の世界と隔絶されたイタリアの小さな村。 小作制度が廃止されていることを知らない村人たちは、領主の侯爵夫人によって小作人として搾取され続けながらも、それを疑問に思うことさえなく貧しい生活を送っていた。 そんな村人の中に、ラザロという若い男がいた。 何も欲しがらず、疑うことも怒ることもないお人好しのラザロは、村人たちから都合良く扱われ、様々な仕事を押しつけられていた。 そんなある日、侯爵夫人の息子タンクレディが町からやって来る、、。

 

 

 

 

 

 

こちらは2018年制作の イタリア映画 イタリア です。 (127分)

 

1980年代初頭にイタリアで実際にあった詐欺事件を基に構想された寓話的物語で

 

この年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞しています。 ベル

 

 

 

 

  20世紀後半のイタリアの小さな村。 大洪水の影響で外の社会から隔絶された

 

渓谷にあるその村では、すでに政府によって廃止された小作制度による搾取が、事実

 

を隠蔽する侯爵夫人によって続いていました。純朴な村人たちは毎日たばこ農園で過

 

酷な労働を強いらていて、その中に孤独な青年ラザロもいました。彼は、誰の言うこ

 

とも素直な心で受け止め、頼まれればどんなことでも引き受けてしまうため、村人た

 

ちからもいいように使われていました。

 

 

 

 

ある日、侯爵夫人とその息子タンクレディの一行が静養の為に村へやってきます。 

 

退屈な村の生活に暇を持て余しているタンクレディの相手を自ら買って出たラザロ

 

は、彼を自分の秘密の隠れ家に連れて行きます。そこでタンクレディは、母親に反抗

 

するため、自身の狂言誘拐をラザロに持ちかけ、隠れ家に身を潜める事にします。し

 

かし侯爵夫人には誘拐が狂言である事は見破られていました。

 

 

 

 

隠れ家に身を潜めるタンクレディの元に食べ物を運び続け、暇の相手も務めるラザロ

 

境遇の全く違う二人の絆は深まっていきました。そんなある日、高熱を出してしまっ

 

たラザロはまだ熱が引かない身体に鞭打って隠れ家に駆けつけようとしますが、その

 

道すがら不意に足を滑らせ谷底へ落ちてしまいます。

 

 

 

 

同じ頃、タンクレディの誘拐を信じる友人の通報で警察のヘリが村に訪れます。そこ

 

で禁止されていた村人への搾取が明るみになり、何も知らない村人達は、住み慣れた

 

村から見た事もない都会へと連れていかれる事になります。谷に落ちたラザロは目を

 

覚まします。 村に戻りますが、もうそこには誰も居ません。

 

 

 

 

古びた侯爵夫人の家で家財道具を運び出そうとしている泥棒に手を貸したラザロは、

 

村人達が町へ移住した事を聞き、歩いて彼等の後を追う事にします。町へ着いたラザ

 

ロは再び泥棒と再会します。 彼等と一緒に居たのは侯爵家でメイドをしていたアント

 

ニアでした。 村に居た時より年齢を重ねているアントニア、数年前に行方知れずと

 

なった時と全く変わらないラザロの姿を見たアントニアは 聖人ラザロ を連想し、彼に

 

ひざまづくのでした。 

 

 

 

 

行くあてのないラザロはアントニアと行動を共にしますがそこは貧しいスラムで、同

 

じような境遇の人々が身を寄せ合い、その日暮らしの生活を凌ぐ、村の生活以上に貧

 

しく厳しい日々を送っていました、、。

 

 

 

 

映画は大きく前半の村と後半の都市の2構成に分かれています。 前半の現代社会から

 

隔離されたような村の生活の美しさとリアリズムが素晴らしく印象的です。しかし、

 

後半のラザロが蘇生してからの展開に戸惑いを感じてしまう人も多いのではないでし

 

ょうか? 映画を観ていると、どうやらラザロが谷に落ちて目覚めるまでに数十年と

 

いう時間が経過している事が分かります。 まるで日本の昔話、浦島太郎のようです。

 

 

 

 

このラザロとは、キリスト教に登場する人物で、キリストの奇跡によって死後4日目に

 

蘇生する聖人で、蘇生や復活を象徴する名称でもあるようです。 本 十字架

 

その聖人で無垢な存在のラザロが現在の人間社会、文明社会に現われたら、、。

 

 

 

 

ラザロの澄んだ瞳を通して格差社会、貧富の差、そして現代の人間の営みの不自由さ

 

を改めて傍観者として見せてくれます。何者にも属さないラザロという無垢な存在は

 

今の社会生活をおくる私達から見ると、その姿はある意味衝撃的です。

 

 

 

 

村の生活は不幸だったのか? 都会へ出て近代的な暮らしを知った彼等は幸せになっ

 

たのか? 侯爵夫人はただの搾取者の悪人なのか? 現在の物差しでは測る事の出来

 

ないそれぞれの価値観と常識に疑問が湧いてきます。

 

その無垢さによって起こるラストの展開にはかなり皮肉が込められていますが、、。

 

 

 

 

キリスト教に詳しい方がご覧になると、狼等の象徴も、もっと深い意味を知る事が出

 

来るのでしょうが、その知識が無い私が観てもラザロの存在によって心の何処かが浄

 

化されたような気になる不思議な作品に仕上がっています。 キラキラ  

 

 

 

 

リアリズムとファンタジーが入り交じる寓話世界。 文明や利便性を優先させた事の代

 

償として失った イノセンスや無垢な心 の儚さをラザロの瞳に見た私なのでした。

 

 

 

 

何か高尚で難しそうな映画に思われそうですが、難しく考えず、素直な気持ちである

 

がままをご覧になれば、すんなりと心に染みてくるような作品ですのでこの機会にで

 

もご覧になってみてはいかがでしょうか?です。  目

 

では、また次回ですよ~!  パー