故郷トコピージャから首都サンティアゴへ移住したホドロフスキー一家。 さまざまな悩みや葛藤を抱えたアレハンドロ青年は、後に世界的な詩人となる エンリケ・リンや ニカノール・パラら、若きアーティストとの出会いにより、自分が囚われていた現実から解放される、、。
こちらは2016年制作の フランス チリ 日本 の合作映画です。
(128分)
言わずと知れた アンドレイ・ホドロフスキー 監督作品で、以前こちらでもご紹介した
映画 「リアリティのダンス」 の続編にあたります。
幼少期から少年時代を描いた前作でしたが、本作は故郷トコピージャから首都サンテ
ィアゴへ移住し、少年期から青年期に於ける自己の探求と、旅立ちまでが描かれてい
ます。
前作をご覧になった方が理解しやすい部分もありますが、単体作品としてご覧になっ
ても問題ない?かと思います。 何せ ホドロフスキー作品なのですもの。
年齢的な事もあるのでしょうが、自身のこれまでの波乱に満ちた人生と、特種な時代
の空気感を、映画という映像に収めておきたかった事は理解に難くありません。
多くの人がホドロフスキー作品に期待するもの。 幻想的な映像美やシュールレアリス
ムを具現化したような世界といった部分が大きいかと思いますが、本作は前作よりも
デフォルメされた映像表現は抑えめになっています。
他の監督作に比べれば、十分にアートしていますが、やはり彼の作品には より期待し
てしまうのは宿命なのでありました。
映画前半では 「よっ!流石 ホドロフスキー!」 という実験的な映像演出が見られま
す。
現在では寂れてしまった町の情景に、黒子( 日本が出資してるから?) が登場し、
書き割りや幕に描かれた当時の町で覆っていくという映像演出で過去にタイムスリッ
プ。
無表情の仮面を被った群衆、デフォルメされた人々、お金が全てでオカマを毛嫌いす
る父親と、言葉が歌になる母親。 そんな父親に反撥するように、詩人になろうと夢
見る ホドロフスキー青年。 そこで出会う不思議な芸術家達。( バレエの子の衣装と
ルックスは本作で唯一キュートでした ) 一瞬のカットでホドロフスキーは青年から
大人の役者に変身。
老人がウェイターをしている無機質なバーで出会う、真ピンクの髪をした詩人のステ
ラとの出会い ( ピンクフラミンゴ感 ) 。 ホドロフスキー作品ではお馴染みの、小
人症の人間や男性器のオブジェ、ボカシ必至の男女のオールヌード、バリカンを使っ
ての散髪も登場。
実際のホドロフスキーの人生をそのままなぞったものではありませんが、彼の芸術家
として確立するまでが、詩的に描かれた作品です。
ただ、これまでの作品に比べ、メッセージや伝えたい事が前提にある為か、中盤辺り
は同じ場所でのお話がつづく為に、少なからず 退屈に感じてしまった所はありました
原色上等、シュール上等 なこの作品は、ホドロフスキーによるホドロフスキーの為の
劇中、ホドロフスキー自身が登場し、彼を演じる人物と会話します。
「死ぬのが怖い」 「生きるのが怖いんだ」 「人を失望させるのが怖い」 「自分を生
きるのは罪じゃない 他人の期待どおりに生きるほうが罪だ」 「人生の意味は?」
「頭は質問するが心は答えを知っている 」 「意味などない 生きるだけだ」 「 生き
ろ 生きるんだ!」
抽象的ではありますが、これこそが ホドロフスキーの真のメッセージなのかも知れま
せん。 ある意味ホドロフスキー監督の集大成でもある本作ですが、結局の所、彼の
作って来た作品のそれら多くは、ホドロフスキー自身を表現したものだった事がよく
分かりました。
非常に詩的でありながら、時代の影を反映させた内容の本作ですが、映画にとどまら
ず、芸術を愛する人と芸術家を志す人。そして、多くの芸術というものを肯定してい
る作品でもありますので、機会があればご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ~!