セバスティアン・レリオ監督が、自分らしさを守るため差別や偏見に闘いを挑んだトランスジェンダーの女性を描き、第90回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した作品

 

 

 

 

 

 

        -  Una Mujer Fantastica  -  監督  セバスティアン・レリオ

 

 出演 ダニエラ・ベガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ 他

 

 こちらは2017年制作の チリ チリ国旗 ドイツ ドイツ スペイン スペイン国旗 アメリカ  アメリカ

                                                                      の合作映画です。(104分)

 

 

 

 

  映画の舞台はチリです。 イグアスの滝の壮大な映像で始まる本作 物語のテーマともリンクしたオープニングです   ​トランスジェンダーでナイトクラブのシンガーのマリーナは、父親程 歳の離れたボーイフレンドの オルランド と暮らしていました。 マリーナの誕生日を祝った夜、自宅に戻ると突然オルランドの意識がもうろうとなり、慌てて車で病院へと向かいますが、彼は亡くなってしまいます。 

 

 

 

 

最愛の人を失った悲しみの最中にあるにも関わらず、オルランドの遺体から痣が見つかったり、アルコールやマリファナを摂取したことが警察に疑われ、疑念を向けられます。 翌日には、オルランドの息子が二人で暮らしていたアパートに訪れ 「父親は頭がおかしくなった」 という皮肉と偏見的な言葉を浴びせられ、アパートから早く出ていけと、追い出しを迫られます。 

 

 

 

 

再び警察で念のためと、裸の写真を撮られ、屈辱を味わいます。 オルランドの妻には冷淡に「化け物」 呼ばわりされ、お葬式に出席することも許されないなど不躾で容赦のない差別や偏見が浴びせられます。 

 

 

 

 

それでもマリーナは 愛する人との別れ の為、仕打ちを覚悟で葬儀に駆けつけます 本人の希望で火葬となるオルランドの遺体を一人見送ったマリーナは、それまでの幸せと、差別、屈辱、を全て胸に抱え込み、舞台上で ヘンデル作曲の 「オンブラ・マイ・フ」 を美しく歌い上げるのでした 、、。

 

 

 

 

チリ代表作としては初めてのアカデミー外国語映画賞を受賞した作品です。 いわゆる、​トランスジェンダー の映画としての目新しさはありませんが、他の作品と大きく異なる面としては、マリーナ目線のリアリティーです。 特別奇をてらっていない彼女の微妙な立ち位置。 オルランドの身内にも、マリーナを女性として普通に扱っている人も居れば、「普通」ではない存在として、忌み嫌っている人もいます。

 

 

 

 

「普通」 とはどういう事なのか?男性とは?女性とは? そして人間とは?という現在ではある意味普遍的なテーマにもなっている個人のアイデンティティの居場所、置き場所を問いかけられる映画でもあります。 そんな彼女の心を映すように、鏡やガラスに反射する姿が男性の身体で産まれた自分と、女性の心を持つ自身のズレを強調し、二つの世界を持つ違和感の葛藤が映像として画面に映されます。

 

 

 

 

ですが、本作ではそれらがとても静かで公平な視点で描かれています。 時折、映画的な映像表現が出てきますが、非常に洗練された画と色彩が使かわれ、マリーナの心拍数と映画がシンクロしている事で、観ていてとても自然に彼女とその世界を受け入れてしまいます。

 

 

 

 

劇中、オルランドが残した謎の鍵が登場します。 観客はその鍵を開けた先に 「あるもの」 が残されている事を知っていますが、やっと見つけた鍵で開いたそこには、、一筋縄ではいかない、不思議な余韻の生まれる瞬間が待っていたのでした。

 

 

 

 

日本では、毎日のように ゲイや女装家 の人達をテレビ等で見る機会があります。 テレビという画面のバリアを通した世界には寛容ですが、実際画面のこちら側だったらどうでしょう? ましてお隣さんや身内だったとしたら、、。 

 

 

 

 

そういった先入観や、偏見 認識と寛容それは個人個人違うものですが、一番の悪はやはり 「差別」 のような気がしてしまいます。そんな事を、少し考えるきっかけになる映画かも知れません。

 

 

 

 

それぞれが細い川のように様々な生き方をしても、最後はイグアスの滝に流れ込む水のように、全ては一つに溶け込むのだといわれているような気持になるのでした、、。 

 

 

 

 

マリーナを演じる ダニエラ・ヴェガ は実際の トランスジェンダー の方で、本作には当初 トランスジェンダーのコンサルタントとして関わったそうですが、そこから急遽主役のマリーナに抜擢されたそうです。 

 

 

 

 

そんな偶然から始まったヴェガの映画出演ですが、作品の中では圧倒的な存在感と、彼女こそがマリーナと思ってしまう程の素晴らしい演技を見せてくれています。 演者のヴェガと役のマリーナが完全に同化して、正に彼女自身のドラマになっているような作品で、そこにはトランスジェンダーとして生きる女性の強い人生と意志が映されています。 

 

 

 

 

それと同時に、映画は普通の恋愛映画としても楽しめる作品になっていますので、この映画で様々な視点から愛について考えてみるのも良いかも知れません。 という事で機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストのコンサート場面です ご本人が歌っておられます 宜しければお聞き下さい  音譜