1930年代のハンガリーを舞台に、人間以下の扱いで暮らす孤児の少女と老人の出会いによって人間の温かみを知るドラマ。徹底的なリアリズムで人権問題を見つめた作品


 

 

 

 

 

   -  ARVACSKA  -    監督 ラースロー・ラノ―ディ

 

 出演 ジュジャ・ツィンコーツィ、ヨージェフ・ビハリ、アンナ・ナジ  他

 

こちらは1976年制作の ハンガリー映画 ハンガリー です (90分)

 

 

 

 

  1930年代のハンガリーの農村 ホルティ独裁政権下では、民衆は貧しく、人権も保障されていませんでした。 両親の愛情を知らないみなし児の チェレは、野原で牛を追っていましたが、衣服も身につけていない有様でした。 当時の国家は、孤児院に収容された子どもたちを養育費つきで養子に出し、富農たちは、労働力として争って孤児たちをひきとっていたのでした。 チェレも富農に引き取られてきたみなし児のひとりでしたが、チェレの養い親たちはチェレをこき使っていたのです。 目を覆うまでの虐待にも耐えていたチェレは、ついに家を出ますが、、。

 

 

 

 

ハンガリーの作家 ジグモンド・モーリツ が、1940年発表の中篇小説 「Árvácska」 (みなしご) を ラースロー・ラノーディ 監督が映画化した作品で、原作は、1936年の夏に投身自殺をしようとした19歳の少女からモーリツが話を聞き、その少女が語った事実に沿って小説化したもので、映画もその原作小説をほぼ忠実に踏襲している内容となっていますが、ラストの展開のみは映画用にオリジナルの脚色がされています。

 

 

 

 

映画は ハンガリーの広大な大地に登る太陽の画で始まります。 まだ朝も明けきらない草原に、牛と一人の子供の影が映し出されます。 カメラが子供に近づくと、ある事に気付きます。 子供は裸で下着すら着けていない有様です。 その姿で自分よりも何倍も大きな牛を手なずけている姿は実に手慣れています。 その途中で出会った男に性的虐待を受けますが、チェレは誰にも言いません。 家に帰るとチェレの姿の違和感が露呈します。 その家にはチェレの他に5人の子供が居ますが、皆 服を着ています そこでチェレの本当の身分が観客に分かる事になります。 

 

 

 

 

チェレはみなしごで、その上女の子でした 当時、世間ではみなしごが溢れ、政府は対応しきれずに、みなしごを預かった家には援助金が出る為、そのお金と 無償の労働力 が得られる事から、農家には多くの チェレ のような子が存在していました。

あまりの辛さにチェレはその家を飛び出しますが、再び孤児院に入る事になり、再びペットショップの動物のように、新しい引き取り手に引き取られて行きます。 しかし新たな家でも同じような扱いを受け、女主人には イライラのはけ口 のように、暴力まで振るわれます。 

 

 

 

 

たった一つの救いは、そこで下男として働く 老人ヴェンとの牛小屋での生活でした。 

ヴェンはチェレに優しく接し、教会にも連れて行ってくれました。 しかし、その帰り道 ヴェンが顔見知りの憲兵と立ち話をしている場面を養母ジャバマーリに目撃されます。​​​​​ジャバマーリは過去に ヴァンの持ち家だった家を騙し取った自分の所業を、告げ

口したと誤解し、ヴェンに 「告げ口をしなくなる薬」 と告げ、ミルクに入れた薬で毒殺してしまいます。 

 

 

 

 

さらにその後 チェレも毒殺しようと、薬入りのミルクを渡します。しかしチェレがそうとは知らずに、毒の入ったミルクを泣いている ジャバマリの赤ん坊に飲ませてあげようとします。 その姿を見たジャバマリは、慌てて 「殺す気?毒を盛ったミルクを飲ませて、この子を殺す気だったのよ!」 と、チェレに向かって言い放つのでした、、

 

 

 

 

クリスマスの夜、多くの親類を招きテーブルを囲む家族。 チェレはその部屋にも入

れてもらえません。 チェレは一人 馬小屋の中で、自分が作った天使を木にぶら下げ ロウソクに火を灯しながら祈ります 「お母さん キリストに伝えて 私にも贈り物を届けてって」「誰も私にプレゼントをくれないの」 「母さんが死んでから 父さん 神様 無名の兵士」 「どうか あなたの国に 私を迎え入れて」 そう願い、辺りを見渡すと炎が広がっていました。 深い夜に燃え上がる炎と、焼け落ちる家。 全てが灰になって行きます そこにまた、広大な地平線に朝日が映り、映画は幕を閉じます。

 

 

 

 

劇中、カメラはチェレに寄り添うように、時に客観的に彼女の心を写し撮ります。7歳の女の子のチェレは とうもろこしの葉で作った人形で遊んだり、鳥の亡骸で遊んだりしています。 動物の世話は得意で、働き者です。 そんなチェレはしきりに母親が迎えに来る事を信じていました。 しかし、ある日 川岸で溺死した女性を運ぶ村人を見て、自分の母親とだぶらせ、もう母親は迎えに来ない事を悟ります。 唯一優しかったヴェンは、毒入りだと知っていたであろうミルクを飲んで最期を迎えます。 ヴェンはある意味自ら尊厳死を選んだのかもしれません。

 

 

 

 

大人達の犠牲によって、過酷な生活を強いられた チェレ  キリストの受難のような人生のこの先を考えれば、このチェレの最期は救いにも感じられます。

まるで フランダースの犬 を彷彿とさせるような悲し過ぎるエンディングですが、このような事が現実に起こっていた歴史で、これが 救済 なんて、、、

広大な自然の描写と、チェレの対比が 過酷さと強さを際立たせています。 美しい映像ゆえに悲しく、深い余韻を残します。  様々な感情に訴えかける少女チェレの物語。

鑑賞する時を選ぶ作品かも知れませんが、機会があればご覧になってみてください。

 

では、また次回ですよ~! パー