人間とその肉体を侵蝕する金属の細胞との戦いを描く。脚本・監督「野火」の塚本晋

也 16ミリモノクロ作品。 ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。

 

 

 

 

 

 

                        -  鉄男  - 監督 ・ 脚本 ・ 編集  塚本晋也

 

 出演 田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、六平直政、石橋蓮司

 

こちらは1989年制作の 日本映画  日本  です。(67分)

 

 

 

 

   金属へのフェティシズムに憑かれた"やつ"は、金属による肉体改造を行った直後に自動車と激突し、メタルサイキストとなります。ある朝、サラリーマンの"男"が目を覚ますと、頬に金属のトゲのようなニキビができているのに気づきます。 その男がプラットホームで電車を待っていると、隣のOL風の女が金属で膨張した腕を振りかざして襲ってきます。 男は逃げますが、無意識のうちに女を殴り殺していました。 やがて自分の体も次第に鉄と化していくのに困惑する男。全ては数日前に男が車で轢いてしまい、山林に捨てた"やつ"の復讐だったのです。 やがて全身が鉄に覆われたとき、男はやつと対峙する事となるが、、。

 

 

 

 

以前ご紹介した 「野火」 の 塚本晋也 監督を一躍有名にした カルト作品です。

いつかは観ねば!映画リストの1本に入れていた作品でしたので 、今回お取り寄せでレンタルしてみました。 67分という、短め上映時間だったのですが、いや~正直観るのには体力を使いました、、はい。その疲労感の一番の原因は、映像の密度がメチャメチャ濃い~ので,それについて行くのに疲れる頭と 目 と、音でしょうか? 主だった3人の人物がほぼ 「ウォーー!」 や 「ギヤァ~~!」 という叫び声を出しっぱなしの状態で、その上 BGM は サイバーパンク的な爆音が、ガンガンと流れるのであります。 多分 67分 という時間が個人的にちゃんと鑑賞できる ギリギリマックス の時間でした。 あくまで私のですけれど、、。

 

 

 

 

本作には固有名詞はありませんし、お話自体もかなり飛躍したストーリーです。

肉体改造の為、足に金属を埋め込んだ ヤツ 部屋から走り出し車に轢かれます。  車に乗っていたカップルは、ヤツ を山道に捨て、その前でセッ〇スを始めます。ヤツ には 特殊能力 が芽生えたのか、自分を捨てたカップルの男の身体に変化が起こり始めます。 最初は男の顔にニキビのような金属のできものが現われ、取ろうとすると血が噴き出します。 その日から段々と身体に変化が起こり、女と部屋に居る時に遂に大きな身体の変化が訪れ、顔や、腕、そして男性器がまるで 大きなドリル のようになってしまい、それで女を殺してしまいます。  このシーンはちょっとブラックコメディ風です。

 

 

 

 

それから男は部屋でどんどん身体と金属が融合してゆきます そこへ、満を持してヤツがやって来ます。 男 と ヤツ は対決しますが、戦いの果てに二人は 融合した金属と人間の融合体の塊になり 「よ~し、こうなったら世界中を鋼鉄の塊にしちまおうか」「そして世界中を錆び腐らせて、宇宙の藻屑に帰してやろうか~!」 最後は 「やりまくるぞ~!」と叫び街へと消えて行くのでありました、、。 (この塊のバックショットはまるで 男性器 のようにも見えます) もう私の頭の中はカオス状態です。

 

 

 

 

この映画の製作費は1000万円程で、16ミリフィルムで撮影されています。

長めのシーンはあまり無いのですが、少ない製作費で最大限の創意工夫が施されています。 短いショットをこれでもか!とつなぎ合わせ、混沌とした男の世界がモノクロの映像の中に表現されています。 ストップモーションアニメの手法で、人物が街を疾走したりする映像表現が多様されているのですがちょっと多様し過ぎの感もあって、そういった面で視覚的に少々疲れる部分があるのは否めません。 好きな方はハマるのでしょうが私には正直しんどさが勝ってしまいました。

 

 

 

 

個人的に少し残念なのは 金属と肉体が融合して行く時のデザインにあまり美しさを感じませんでした。 作品のテーマとして、あえてそうしているのかも知れませんが、ラストの合体した二人の形も、子供が砂場で作ったただの山のような形でちょっと残念でした。廃墟や廃材、ゴミ等から作るようなジャンクアートから醸し出される退廃的な美意識や、H・R・ギーガーのようなエロスがもう少し見えていたらもっとカッコイイ映画になったのにな~と、ちょっと残念な気になってしまいましたが、ただそれが監督の意図なのかも知れませんね。

 

 

 

 

金属と人間の融合を描いた本作は、ある種 「都市生活」 「現代社会」 を皮肉った作品と、高尚にも受け取れますし、「ウルトラQ」 のような現代の怪奇話にも観れます。「イレイザーヘッド」 が76年作品、「ビデオドローム」 が82年作品、こちらが89年作品と、微妙に遅いタイムラグではありますが、監督のこういう映画を作りたい!という熱意と情熱が画面の隅々から溢れてくるような作品です。 日本映画が退屈、と思われる方には良い刺激になる事請け合いの本作。お金の問題もあるのでしょうが、塚本晋也さんて、結構ナルシスト? と、つい思ってしまった私なのでした。 そんな訳で、今 劇場で絶賛上映されている日本映画と、このインディペンデント映画のどちらに興味を惹かれますでしょうか? ちょっと風変わりな作品やインパクトのある映画をご覧になりたい方にはもってこいの作品だと思いますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー