旧約聖書の「ヤコブの梯子」のエピソードをモチーフに、夢と現実の間をさまよう男
の不思議な体験を描いたサスペンススリラー。
- JACOB'S LADDER - 監督 エイドリアン・ライン
出演 ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ、ダニー・アイエロ、
マット・クレイヴン 他
こちらは１９９０年制作の アメリカ 映画になります 
（１１５分）
ニューヨークの郵便局員であるジェイコブは最近夢と現実の区別がつかなくなるほど奇妙な出来事に遭遇していた。疾走する地下鉄に乗る得体の知れない人々。掛かりつけの医者の死亡。自分を轢き殺そうとした車に乗る異様な人物。
そしてベトナムの悪夢や幻覚までもが見え始め、徐々に現実への違和感を覚えるジェイコブ。ある日、ベトナムでの戦友ポールが現れ、ベトナムからの帰還以来、誰かに追われていると語る。ジェイコブは「1971年のあの日に何かが起こり、軍は何かを隠している」と弁護士のギャリーに相談を持ちかけるが、、。
ビデオ化された際、何度か観返していた作品で、今回ちょっと懐かしくなり DVD で再見してみました 何故、当時そんなに魅力を感じていたのか自分でも謎なのですが、、、「エンゼルハート」 も好きで、そちらは アランパーカー 監督が好きという事もあるのですが、描いているテーマが似ているというか、カメラや撮影のトーンや世界観も非常に似ている作品です。
どこか不穏な空気が常に漂い、霧がかかっているようなソフトフォーカスの画面は、ある種主人公の現実の世界と、心象風景の境を曖昧なものに見せ、観客までをも不確かな空間へと引き込んでくれます。 本作の監督さんは 「ナインハーフ」や「危険な情事」を撮った エイドリアン・ライン でありまして、リドリー・スコット同様にライティング 等 凝った映像表現を得意とする監督です。
この映画のタイトルは 旧約聖書 の ヤコブのはしご が元になっているようで、キリスト教に詳しい方ならおおよその ストーリーはタイトルから理解出来るのかも知れません。（ヤコブは英語で ジェイコブ となるようです） ジェイコブのはしご（階段） ヤコブが夢見た、天使が上り下りしている、天から地までつながっているはしごがこの作品ではどのような意味を持つものかが、ある意味テーマの一つにもなっています。
映画はベトナム戦争中の前線で従軍しているジェイコブの部隊の描写から始まります彼等は密林の中で突然敵に急襲されます。 ジェイコブ の部隊は全滅か！と思った次瞬間、目が覚めるジェイコブ。 どうやら地下鉄の電車の中で眠り込んでしまっていたようです。
しかし、その夢を見た日から何かがおかしく、不思議な現象や、悪夢を度々見るようになって行きます。 日常の中でも度々幻覚を見るようになり、その姿はまるで画家のフランシス・ベーコンが描く、歪んだ肖像のような不気味な顔をもつ人間の姿でした。
ベトナムでの体験、昔の家族、亡くなってしまった末っ子の事、そして悪魔のような姿をした人間。 自分が見ているものは現実なのか、悪夢なのか。 いったいどちらが現実世界で幻覚なのかの区別がつかなくなって行くジェイコブ 。
キリスト教に精通していれば、様々な場面に 啓示的 な モチーフ が散りばめられているのが理解出来るのでしょうが、聖書に疎い日本人にはすんなりと受け止めるには少し難しい部分もあるかも知れません。 かといってストーリーを理解するには、さほど問題はなく、ちゃんとラストではそれらの意味が理解できるようになっています。
幼くして亡くなったジェイコブの息子が、幻想として度々登場し、ジェイコブ を悲しませたり、癒したりするのですが、彼の名前が ゲイブといい、旧約聖書では ガブリエルを指し三大天使の一人を意味し、それによって彼の役割が 何 であるのかが、ある程度理解出来る存在になっています。 この ゲイブ をまだ可愛かった頃の マコーレ カルキン が演じていて、正に天使のような存在感で物語に光を差し込んでいます。
この映画をジャンル分けしようとするには非常に難しい作品で、ホラーであり、ミステリーであり、スリラーであり、サスペンスでありと、どれをとってもピンときません。 何故ならホラー的な恐怖を煽る演出や要素を、極力 排除した見せ方が意図的になされているからで、DVD の特典映像にはカットされた多くのホラー映像が撮影されていまいた。その中にはかなり大掛かりな撮影場面もありましたが、それらを監督はバッサリとカットしています。
そんな意図からしてこの作品での監督の狙いは、本作をただのホラー映画では無く 、ジェイコブ という一人の男の 魂の旅と救済。 それと同時に、彼の体験を通じて戦争というもの自体の残酷性と狂気を同時に描いた物語になっているように感じました。
それを強調するようにエンドクレジットでは、ベトナム戦争において、軍が、化学兵器を使用した疑いがある事に触れていて、化学兵器への警鐘と、ベトナムで亡くなった兵士達への、僅かながらの魂の救済も含まれるという構造の映画になっていたのだと、あらためて感じる作品でありました。
ほぼ出ずっぱりでジェイコブ を演じるティム・ロビンス が、主人公の不安定な心の動きを見事に演じています。 普通にホラー映画としても十分観れる映画でもあり、トラウマ級に脳裏に焼き付く不気味な映像も登場する本作。 全編に漂う不穏な空気感と不気味な緊張感がこの映画を他にない特別なものにしていますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ～！ 
