敗戦(B29ヨリ東京上空ニマカレタル宣伝ビラ)
万歳
ト
それだけいつて万歳と
万歳と
それだけいつて眼をつぶれ
眼をつぶれ 幾千の
幾万の
この焼原に蠢く(蟲、蟲、蟲)
万歳と
せめて口のうごくうち
せめて
わらへるうち(わらへ わらへ)
何を考へることもない
(昔から考へることのないおまへたちだ)
焼原に充満する
焼原にわき上る、蠢く(蟲、蟲、蟲)
めをつぶれ
手をあげろ
万歳と
かすかに唱へろ
日本人
日本人 もうゐない
日本人。おまへ。たち。
(中井英夫戦中日記『彼方より』から、昭和20年6月(頃?)の記述)