2021年も残すところ僅か11ヶ月。緊急事態下という状況もあり、自重していたもののさすがに精神衛生上の限界が来たようで(もちろんマスク二枚重ね等、可能な限りの感染予防対策をしたうえで)、今年最初の神保町詣でに行ってきた。


この現状で都心に出るのはやはり緊張もするが、最近のドラマでも言われていたように


醜女しかいない街なら密になることもあるまい。





小売業については万事厳しい昨今、神保町入口に新たな古書店が出現したのは喜ばしい。中は漢籍・和本らしいので完全にお呼びでないのだが、外売りワゴンは文庫・新書の山でこれも好ましい。

しかし、ぼんやり歩いていても疫病流行が齎らした傷口が嫌でも目に入る。大手旅行代理店、有名飲食チェーンが軒並み閉業に追いやられた後の物件が、そのうすら寒い空洞を大通りに平然と晒している。八階建てのビルでも上半分のフロアがすべて空室になっていたりもする。



看板広告も白紙が埋まらないまま。



来たる日曜日、千代田区では区長・区議会議員選挙があるらしく、スピーカーがあちこちからやけにうるさく響く。靖国通りの一等地に(撤退したテナントの後に入った)選挙事務所が目立つ。それらは決まって、この一年間我々国民を死と窮乏に追いやりつづけてなお、恥じることを知らない与党の候補者たちのものだ。なるほど、まったくもってこの国は今も未だ市民革命以前の旧体制に他ならないのだ、と思い知る。




「店内二割引」の看板が出ている「一誠堂書店」に入り、西脇順三郎『ボードレールと私』(講談社文芸文庫)を610円で買う。創業から百年を超える超老舗、店構えも重厚だが従業員の皆さんは実に腰が低く丁寧な接客で心地よい。臆することなくもっと前から気軽に入っておくべきだった。

あとは「長島書店」の店頭棚から『現代東欧文学全集』(恒文社)の一巻(ポーランド篇)を300円で入手。この叢書、イヴォ・アンドリッチ「ドリナの橋」が収まる巻だけがなぜか異様に高い。



御茶ノ水駅に戻ってみると、工事の進んだ駅は旧「聖橋口」が完全に消滅していた。何事も変わらぬように見える風景も、確実に傷を負い、深い穴が穿たれている。そこを一月の冷たい風が吹き抜けている。