コロナ禍による稀な幸運(と言っては不謹慎か?)、「風の谷のナウシカ」を(再上映というイレギュラーな形ではあれ)映画館で観るという長年の(もはや不可能と思っていた)宿願が叶った。

公開当時小学生だった自分の狭いアンテナにはこの作品、そして宮崎駿という稀代の才能の名は掴みきれず、リアルタイムでの鑑賞という一代の機会を逃したことが我が生涯に於ける痛恨事であっただけに尚更、今回の再上映は僥倖としか呼びようが無い。

テレビ放送、VHS、DVDと繰り返し観続け、展開も台詞も熟知していたはずだったが、スクリーンで今日目撃したのはまるで別物だった。
ナウシカやユパ、クシャナたちの肉声はそれまで聴いたことが無い程に生々しく響き、漂う腐海の胞子の美しさ、風を切るメーヴェやガンシップの疾走感など、今まで自分は何を観ていたのだろうかと思うほど眼に映る全てが、新たなものとしてこの身を震わせて止まない。

銀幕の中のナウシカたち同様、顔をマスクで覆い隠しながらの鑑賞を余儀なくされている現状は、まるで腐海の瘴気が現実を浸食しつつある錯覚に陥りそうな悲喜劇であり、軍事大国トルメキアの侵攻を耐え忍ぶ風の谷の民の姿に、ここ数日の間に自由を急速に圧殺され始めている香港市民の苦闘を重ね合わせたりもしたり、と、36年を経てなお不吉なまでにアクチュアルであり続けるこの傑作の異様な力を再確認した次第。
「風の谷のナウシカ」はこれからも、常に我々にとって新たな作品であり続けるだろう、人間と時代の愚かな業が繰り返されるかぎり。

観終わって、携帯を起動してみたら本日の東京の新規感染者、100人超えというニュースが目に入った。