① いがらしゆみこ・(原作)水木杏子『キャンディ♡キャンディ』(中公文庫コミック版)全6巻 地元ブックオフで各108円

誰もが知る国民的漫画(?)でありながら、いわゆる「大人の事情」で絶版になってから早20年は経ったかと思われ、通常こんな値段では入手不可能なレア品になってしまった不幸な傑作。
表紙はヨレ、小口も手垢で黒ずんでおり状態はかなり悪い。前の所有者がどれだけ熱心に読み浸っていたかが想像できる。かつての愛読者たちからこの思い出の作品を奪ったのは誰なのか。



② 横溝正史『死仮面』(春陽文庫) 西荻窪・盛林堂書店にて1000円

昭和20年代、金田一耕助シリーズで人気作家となった著者の中篇。後年、角川文庫に収める際には初出掲載誌の途中の巻号が所在不明で、苦肉の策として監修者某氏による「代筆」で欠落部分を穴埋めする形で刊行された。
その後、不明の掲載誌が発見され横溝正史本人の筆による「完全版」として再刊行されたのがこの春陽文庫版だが、瞬く間に絶版となり入手困難に。適正価格での復刊を切に期待する。


③ フョードル・ソログープ著・青山太郎訳『小悪魔』(河出書房新社)  神保町・田村書店にて400円

20世紀初頭のロシア文学界でデカダン派の代表として名を馳せた作家の代表作。死、破滅への願望を甘美に謳いあげた(が故に革命後のソ連に於いては徹底的に冷遇された)このマイナーポエットについては、晩年の中井英夫がエッセイの中でオマージュを捧げていたはず。
河出書房のこの「モダン・クラシックス」という叢書は、20世紀の未邦訳海外文学を集中的に世に問うた名企画。バロウズ『裸のランチ』やダレル「アレキサンドリア四重奏」、デュラスやケルアックをこの版で読んだ世代も多いだろう。この『小悪魔』を買った日は同シリーズが他にも大量に放出されていて、ピランデルロやデーブリーン、ヘルマン・ブロッホなどを一冊数百円〜千円で大人げ無くも一気買いしてしまった。


④ 『松本瑠樹コレクション ユートピアを求めてーポスターに見るロシア・アヴァンギャルドとソヴィエト・モダニズム』展図録(東京新聞社発行) 地元ブックオフで200円

ブランド・デザイナーの膨大な海外ポスター・コレクションから、タイトル通り革命ロシアの映画ポスターを中心にした展覧会の図録。関係書の中での紹介では古びて見える「ロスタの窓」や「レフ」のデザインが、このように鮮明な天然色で改めて提示されるや否や、あの時代の息吹き、息づかいまで感じられるような生々しさを帯びてくるのが不思議(でも何でもないのだけど実は)。


⑤ 『ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏』展図録(東京新聞社) 地元ブックオフで300円

卓上の静物ばかりを飽くことなく描き続けた画家の、一見何の特徴も無い数々の絵画に我々が惹かれて飽くことが無いのは何故か。それを説明し得る言葉が予め失われた地点からしかこの作品世界が立ち上がらないのだとしたら。
ブックオフ巡回を止められないのは、たまにこうした図録が格安で手に入ってしまうからだ。


⑥ 馬場あき子『歌集 地下にともる灯』(新星書房) 水道橋・有文堂で200円

こんな逸品を捨て値の棚にうっかり見つけてしまう、そんな有り得ない快楽を知ってしまったがばかりにどんなに貧乏になっても古本漁りは止められ無い。ましてや署名入りだったりしたら。




⑦ 大江健三郎『夜よゆるやかに歩め』(講談社、ロマンブックス) 神保町・古書会館地下にて300円

この作品、まさかの二冊目入手。初版は中央公論社で、その後この講談社の新書に入ったようだ。あの幻の封印作「政治少年死す」ですら全集入りを果たして尚、この女性誌に掲載された大江唯一の?直球な恋愛小説は封印が解かれていない(この新書版、昭和38年発行で41年には版を重ねていて、売れてはいたことが想像できる)。


講談社「ロマン・ブックス」の謳い文句。後のノーベル賞作家に相応しい、と言えるか否か。



⑧ クロポトキン著・中山啓訳述『田園・工場・仕事場』(新潮社) 神保町・アカシヤ書店にて100円

「新學説大系」というシリーズ中の「第4巻」。他の巻にはカウツキー、ラファルグ、ベルクソンなど。あの新潮社が⁇と首を傾げるほどに固い名前が並ぶが、たぶん大正時代にはこういう「学問」が「商品」として価値があったのだろう。
カバー無し、前所有者の署名印の押されているこんなボロボロの一冊に100円の価値があるのか、判断はしかねたが表紙をめくってみた次の瞬間には、店内のレジに迷うことなく向かっていた。こんなものを見つけてしまったからには。


「南天堂書房」「東京本郷白山上」…林芙美子や辻潤らアナーキスト連中が日夜集っていたという、あの伝説の書店兼喫茶店「南天堂」で売られていたのだろうか。真偽はともかく、自分にとってはこの値札だけで100円の価値は十分にあったのだ。



⑨ 復刻版『コンサイス 東京都35區區分地圖帖 戦災焼失區域表示』(日地出版株式会社) 神保町・書肆ひぐらしにて200円

敗戦から一年後、昭和21年に発行された、東京都旧35区の戦災焼失地域を赤色で詳しく表示した地図の、戦後40年を記念しての復刻版。調べてみると本来は函入らしいが、これは裸本だったので安かったのか。中を見ると、やはり下町地域の被害の大きさが尋常ではない。この一冊を手に30年前、バブル経済に浮かれる首都を歩き通した西井一夫が作り上げたのがあの『「昭和二十年」東京地図』(筑摩書房)だ。