誰も来ない廃園より-CA3G157400010001.jpg


昨夜の「ふしぎの海のナディア」は、派手なアクションはなかったもののしみじみと感動できる回だった。
前々回、前回でノーチラス号乗組員が死に、そして主人公ジャンの父もガーゴイルに殺されていたことが判明するヘヴィな展開(ノーチラス号を守るために犠牲になったフェイトさんたちが埋葬されるのが、海底の巨大な墓所「沈める寺院」。同名のドビュッシーのピアノ曲があったはず)。
こうした悲劇を受け止め、それでもノーチラス号に残る決意を固めるジャンの心の成長が、主にサンソン・ハンソンたちとの会話を通して丁寧に描写されている良回だった。
だが、どうやら今月は「ナディア」の放送は無いらしい。言うまでもなく「特別編成」というやつのせいで、民放のアニメも同様に延期になってる番組があるようで、せっかくの夏休みなのにアニメ好きの小さな&大きなお友達には寂しい夏である。こういうことがあるから、昔からスポーツ中継は嫌いだ。

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で、「先月の収穫」記事で挙げるのを忘れてたけど、ユングやウスペンスキーといっしょにこんなのも買っていたわけで(笑)。
「フィルム・コミック」てのは、要するに元のアニメをコマ割りし、セリフは吹き出しにしてマンガのように読めるようにしたもの。気になるのは「THE MOVIE~劇場オリジナル版」と銘打ってある部分。
ご存知の方には今さらな話だが、「ナディア」にもテレビ放送終了後に映画館で上映された劇場版が存在する。だが、この作品、現状ではほぼ「幻の」作品と言っていいくらい、観ることが難しい。過去にVHSで販売されたものの、どうやらDVD化はされてないようだ。
描写やセリフに、現在では使うとマズい表現があって「封印」されてしまったのか、と思いきや、さにあらず。ただただ純粋に「作品としてのクオリティが低い」がゆえに、往年のファンからは悪評しか聞こえてこない代物であるらしい。
Amazonに同作の中古VHSソフトが出品されていて、6000円を超えるちょっとしたレアアイテム扱いなのだが、肝心の内容についてのレビューは全て最低の評価という状態。他の場所でも「ファンなら見ないほうがいい」「商業作品レベルに達してない」「学生の卒業制作程度の質」……とまあ、泣けてくるほどに多少なりの褒め言葉も見つからない、ボロクソな評価しか受けていない、完全な「黒歴史」扱い。

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確かに見てみると、このコミック版の表紙のナディアとジャン、本編と画風がだいぶ違う。なんというか、同人誌テイストというかパチモン臭(笑)漂う絵柄と言おうか。

ファンの誰もが記憶から消去してしまうほどの駄作が作られることになった経緯を知りたい、とあれこれ探していると、その裏事情を解説しているサイトを発見できた。相変わらず直にリンクできないので、アドレスだけ移しておく。興味ある方は読まれたし(その1~3まである長文だが、要領よく纏められていて読みやすい)。

http://blog.m.livedoor.jp/thx_2005/article/51803823?guid=ON

驚くのは、NHK→東映→グループ・タック→ガイナックスという凄まじい下請け構造。今でこそガイナックスと言えば名高い企業だが、この当時は単なる超末端の弱小制作会社でしかなかったのだ。このあたり、塩山芳明御大の『出版業界最底辺日記』(ちくま文庫)なんかを彷彿とさせますね。アニメも雑誌も、日本ではこういう中間搾取やり放題、孫請け曾孫請け当たり前の産業構造なのだ(いな、この国の基幹産業全体の濃厚なる縮図、とすら呼べるかも)。

つまり、最終回目前にして制作資金が完全に底をついたガイナックスがタックから借りた金は、最初から「劇場版を作る」という条件を織り込んだ上でやっと貰えた資金だったのだ。
しかし、テレビ本編で庵野秀明監督は完全に燃え尽き、他のガイナのスタッフも誰ひとりこの劇場版制作には関わらなかった。つまり事実的にも名義的にも、この劇場版「ナディア」は“ガイナックス作品"ではないことになる。

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この事情を知ってしまうと、現在のガイナックス、そしてそこから庵野監督が独立して設立したスタジオ・カラーが、どうしてやたらにキャラクター商品を濫発し、(パチンコやJRAとまで組んで「銭ゲバ」呼ばわりされながらも)他業種とのコラボ宣伝に躍起になっているのかも、なんとなく分かってくるような気がする。要するに、ガイナ、カラーの人たちは「金が無い」ことの辛さ、恐さをそれこそ嫌というほどに味わわされていて、よっぽどのトラウマになってるんだろうな、と。
エヴァとギャンブル業界との密接な関わりを特別に肯定するつもりもないが、エヴァ以前のマンガ・アニメにだってこうした例はある。
やはりパチンコには「銀河鉄道999」の機種もあるし(それに、九州電力の原発PRフィルム! 見てみたいんだけどどこにも転がってない)、「サイボーグ009」なんてどこかの消費者金融のマスコットキャラだった時もあった(いしかわじゅん氏が、そのことをエッセイで批判的に書いていたはず)。
こうした現状のはるか手前で、以前から日曜日朝のアニメや戦隊ものはたいていは巨大玩具メーカー(バンダイとか)がスポンサーで、グッズの売上で制作費を回収するものと決まっている。「鉄腕アトム」の頃からすでにそういうものだったのだ、日本のアニメは。

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この劇場版「ナディア」に登場するオリジナル・キャラクター、少女ファジィを演じていたのは往年の人気アイドル、伊藤つかさ。「少女人形」のあの伊藤つかさだよ、懐かしいね。「金八先生」からも10年以上経ってると思うけど、80年代前半の「アイドル」の代名詞的存在だったんだから、藤子F先生の作品に「伊藤つばさ」として頻繁に登場するくらいに。