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「人は成長と共に庭先や路地裏や砂場から、やがて社会を視界に入れる。世界が広がっていく。しかし、私はどうもいぶかしく思っていた。本当に広がるのだろうか?」

「だが、人は年齢を重ねるにしたがい、超人もシンデレラ姫も遠い存在となり、「オモチャ箱へオモチャを整理しなさい」と、言われ続けているうちにやがて、そういった者達もオモチャ箱の中にしまいこんでしまう気がする。あの勇気や美や愛に満ちた空間の光を浴びて身も心も躍動していたとき、叱られたり、喧嘩したり、くさったり、泣いたり、淋しかったりしても、超人かシンデレラ姫の分身のような気になったりして立ち直れたものではないだろうか。エネルギーの根源(モト)になるような何かがあった。そういうものまでも……」

「あの箱の中には創造的かつ積極的な生き方の秘密が入っている気がする。私は、それを見つけたいがためにもう一度あの箱をのぞきこんで、この作品を描き始めたのだと思う。なぜなら、オモチャ箱の外の世界でもいきいきと生きたいために……」
(新潮社版『石の花』あとがきより)


坂口尚(さかぐち・ひさし)
1946-1995