中井英夫の庭。
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今日、ようやく渡辺啓助『鴉白書』読了。いや、面白かった。
この方、「科学小説」というSF小説の同人誌もやっていた時代があり、その同人に若き星新一がいたのだと。
で、星新一、渡辺の家を訪ねる際、全く挨拶なしに気がつくと既に部屋にいるような人で、すごいのは、そのまま風呂に入ってたことまであるという(笑)。
それすら渡辺は星の「すてきな魅力」と一切の皮肉抜きに褒めている。人間として、器の大きい人だったのだな(体は小柄だったらしいが)。
こんな調子で芸の無い引用を続けていても仕方ないので、最後に、渡辺と中井英夫の縁についてだけ、抜き書きしておこうか。
渡辺は中井について「いったい、どういう存在なのかしら?」と自問した後、「「わからない」と答えるより仕方がないのである」と記している。
その代表作『虚無への供物』も「まことに苦手な作品」と吐露しつつも、この、自分より二十歳も若い作家に畏敬の念を抱いていたらしいことは、その熱のこもった語り口からも窺える。
渡辺が書画展を開いた時、彼は中井の詩「眠るひとへの哀歌」を自己流の書法で書いて出品したという。
「中井英夫は、ひそかなる隠れ家を持っている筈である。……その隠れ家は流薔園とよばれている。そしてその名の門札を書いたのも実は私自身である。古い水車の壊れた木片が手に入ったので…私の筆蹟をそのまま彫ってもらい、流薔園に届けた次第である」
渡辺啓助は、『虚無』の魅力を
「その歪みがもたらす亀裂は彼の誕生石の青いサファイアの光芒だけが照らす幻想回路であり、異次元の突入孔である」
と語る。
時は流れ、今は両者とも「時間外居住者」となって久しい。
だが、その二人の縁者--渡辺啓助の娘、東氏の運営するギャラリーに於いて、中井英夫の晩年を支えた本多正一氏の協力による展覧会が開かれた、というのも何かしら「えにし」としか呼び得ない素敵な力が今なお、生死を超えた域で確かに生きて動いている、としか思えない。
そして、そもそもこれらの方々とは無縁だったはずの自分(ひでを)が、その場所にいたなんて…あれは、夢だったのかしら?
もしかしたら、あの清楚な画廊こそが、渡辺の言う「異次元の突入孔」だったのか?
たしかに、村上芳正画伯の絢爛にして濃厚な作品の並ぶあの空間は、日常とは隔絶した空気に満ちていたが…
でも、ギャラリー・オキュルスは今も確実に高輪に存在してるはずだ…だってほら、こうやって写真だって撮って……
あれ? 嘘? そんなはずは………………………
(暗転)
