~架空廃園の書斎から~-CA3G066100010001.jpg

そう、久しぶりに話してみようか。あの子の思い出を。



以前にも書いたとおり、現在、自分の手元にはかつての「川村かおりのオールナイトニッポン」の録音がまったく残っていない。
なら、記憶の中にどれだけ、当時の内容が残っているかと言えば、寂しいことにこちらもほとんど消えてしまっている。
もちろん、日本ラジオ史上初(で、いいんだっけ?)のモスクワからの生中継や、ゴルバチョフ来日晩餐会への招待など、この番組には特筆すべき事項が幾つかあるのだけど、自分の乏しい記憶に強く今も刻まれているのはそうした大イベントとは無縁な、ごくありふれた彼女の言葉や、会話の断片なのだ。


なぜか今もはっきり覚えている、同番組のひとコマ。
かおりは放送中に、いきなりリスナーの家に電話をかけて会話することが度々あったのだが、その時の相手は恐らく、かおりと同年代の女子。
彼女もかおり同様、punk rock好きだったらしく、まるで昔からの友人のように会話が弾んでいた。
リスナー女子が、かおりに問いかける。
「ねー、こないだP.I.L.来たでしょー。かおり、見に行ったー?」
このP.I.L.というのはもちろん、Sex Pistols脱退後にジョン・ライドンの結成した新たなバンド(PublicImageLimited)。1980年代前半に『Metal Box』や『Flowers of romance』といった名盤をリリースしているが、かおりのオールナイトの当時、1990年頃まで活動は続いていて、この頃に来日していたということ。

リスナー女子からの質問に対するかおりの答えは
「うん、行った行った~。最悪だったよね~(怒)」


当時、punkについての知識がほとんど無かった自分は、ふ~んと受け流してこの会話を聴いていたのだけど(現在に至るも、結局punkにはのめり込めない。70年代の海外rockなら、自分はむしろプログレッシブ・ロックの方が当時も現在も好みである)、なぜかこの会話だけは未だに忘れられないでいるのだ。


活動末期のP.I.L.は作品のレベルが低いという世評があるのを別にしても、かおりの、90年当時のライドンに対するこの一刀両断な評価は何ゆえなのだろう。
恐らく、いちばん単純にして正確な理由は、「かおりはライドンじゃなくてシドが好きだから」だろう(笑)。自作の歌にもあるしね、「♪ナンシー隠して愛しのシドに目覚めのkissをする~」って。


でも、果たしてそれだけのことなんだろうか、と今にして、気になっている。この無邪気で乱暴なかおりの一言こそ、彼女にとっての音楽の存在理由を、実は端的に表しているのではないのかな、と。