韓国の名優、ソン・ガンホが初めて主演するTVドラマだという。

大いに興味をそそられた。

手ごわいドラマだった。

題名の”おじさん”から連想する何か親しみやすい様な感じとは全く違う内容のドラマ。

 

主人公の2人、サムシクおじさんとアメリカ留学帰りで高い理想を持った優秀な青年、キム・サンは架空の人物だが背景となっている事件は歴史的な事実にそっている。

 

当時の政権による不正選挙(このやりかたがとても原始的なんだけどこれも事実なのかな?)、それを知り反発 する学生・市民たちによる大規模なデモがやがて革命(4月革命)となり政権は崩壊。

その後に軍が分裂して一部の軍が起こしたクーデター は失敗、もう片方の軍に鎮圧される。

 

時代は朝鮮戦争後(1960年代)、韓国はいまだ、混とんとしていた。

国民は皆貧しく食べるものも思うようにはならなかった。

 

しかし、新しい時代が始まる機運のようなものが満ちていたのではないだろうか。

だから、男たちはそれぞれの立場で新しい国を作ろうと夢をかけたのではないか。

 

前半はそれをこの主人公の二人のみならず、いろいろな立場の人物のそれぞれの思惑が描かれていくので、理解しなければならないことが広範囲にわたり、韓国の歴史に疎い門外漢の外国人にはなかなか難しかった。

 

登場人物が多くて名前がなかなか頭に入らない。

これが日本人の名前だったら、と思うところだが、実は最近ではそれも怪しくて、本を読んでいてもあまり登場人物が多いと、この人は誰だっけなどと前のページに戻って確認したりするトホホな有様。

ましてや、韓国の名前ではなおさらだ。

そして登場人物が多いので、尺が足らないのか、その人が何をしたのか会話だけで語られたりして、それが結構重要な事らしいのに、ちょっとすぐにはピンとこない。

エッ、このナントカって誰なんだっけ?何をしたって?

などと確認作業がはいったりしてまどろっこしいことこの上ない。

また、ストーリーの描き方で時代が前後するので、それも初めのうちは、いきなり何?ととまどった。

しかし、この過去を描くことは重要で、その人物が何故、現在、そう考え、憎しみを燃やし、そういう行動にいたるのかがわかって人間ドラマの部分がグッと 深みを増す。

 

苦労しつつも、辛抱強く見続けたのは、主人公二人はもちろん、他の気になる登場人物たちがこの激動の時代でどうなっていくのか、全く先が読めず、見届けたかったからだった。

わからない、と思いつつどっぷりハマっていたのだろう。

 

わたしはドラマを見ながら、どうしてこうも簡単に人の命を奪うのか、なにも殺さなくてもいいじゃないの・・・と何度か思った。

戦争直後のことで人々の気持ちにはそういうムードが残っていて、実際に韓国はそういう時代だったのかもしれないけど。

 

俳優さんたちの演技が素晴らしい。

この脚本に魅かれて出演したいと思ったという人が多くいたらしい。

韓国の人にとっては4月革命というのはそういう存在なのかもしれない。

 

登場人物の中で私が感情移入することができたのは主役の一人、キム・サン。

彼だけが、いろいろ巻き込まれ、あるいは、ある組織に利用されようとも、自国民を豊にしたいという信念を見失う事がなく、考えていることがわかりやすかった。

 

なのでこの役を演じた俳優、ピョン・ヨハンもお気に入りになった。

彼がこれまで出演した作品は「ミセン」と「ミスター・サンシャイン」を見ている。

「ミセン」は名作の誉れ高い。

わたしも毎回、夢中で見ていた。とてもいいドラマだった。

「ミスター・サンシャイン」はもしかして韓国が反日バリバリのころに制作されたのか、日本人としてはなかなか見るのがしんどかったけれど、ドラマとしては名作なのだと思う。

いいドラマに出演している、と思う。

彼が選んでいるのかどうかわからないけど、これからも注目したい。

 

サムシクおじさんは結局”おじさん”という呼び名にふさわしい人だったのかもしれない、などと思ってしまう。

いろいろ裏の汚れ仕事を引き受け、殺人や、その手助けまでしている。

しかし、彼が自分の権力欲のためにしていたようには描かれていない。

あくまでも影のフィクサーなのだ。

お金儲けは考えていたかもしれないが、それも自国民が飢えに苦しむことなく、豊かな国になるように策を弄するためだった…と思いたい。

その夢をかなえてくれそうな若者のために動いていたのだ・・・と思える。

彼にとっては3食きちんと美味しいものが食べられる事が一番大切な事なのだ。

やったことはとんでもなく、恐ろしいことばかりなのに、なぜかその人柄には暖かさや、なつかしさを感じてしまうのだ。

これがソン・ガンホの力かなあ。

 

私が韓国ドラマを見はじめたころ、その前の時代に作られた、こういうタッチの長くて重厚なドラマをいくつか見たような記憶がある。

その頃の作品を思い出させるような、ちょっと映画のような骨太な重厚感のあるドラマだ った。

 

 

 

 

 

(画像はおかりしました)