NHKスペシャルで追悼番組「魂のピアニスト フジコ・ヘミング」を見た。

 

今、思うと失礼で浅はかな考え方だったと思うんだけど、お元気なうちに是非有名な「カンパネラ」を聴いておきたいと思い、ソロコンサートに行った。

もう8年ほど前だと思う。

私でも知っているような有名なピアノ曲を何曲か弾いてくれて、最後が「ラ・カンパネラ」だった。

最初の1音を聴いただけで、どうしてブームになったのかたちまち分かった。

それから、自分が行けるチャンスがあればコンサートに出かけて行った。

 

最後に行ったのは去年の6月だ。

開幕時間になって場内は暗くなり、前方の客席から、拍手が起こった。

でも照明はつかない。

暗いままだ。

どういうことか私には察しがついたが、後方の席で、初めてのお客さんだったらちょっと???だっただろうと思う。

少ししてライトがつくとフジコさんはピアノの前に座っていた。

その前のコンサートの時は足の調子が良くならないと言って手押し車の様なものを押しながら登場されていたのだった。

 

1曲目の演奏が始まった。

まったくのしろうとのくせに私は少し心配になった。

テンポがゆっくりすぎないかしら。

しかし2曲目の演奏がそんなことを忘れさせた。

そのあとはいつも通り。

ラストの「ラ・カンパネラ」は初めて聴いたときとは違っていた。

 

退場の際はライトのついた明るい中を車いすで退場された。

舞台の裾で、車いすから立ち上がり、お辞儀をして退場された。

その姿を見て私の隣に並び席の若い女性二人が「かわいいー」と歓声をあげた。

本当にかわいかった。

わたしは初めてコンサートに行った時の威厳あるオーラに包まれていたフジコさんを思い出していた。

そして感激していた。

あーこの人は手押し車を押そうが、車いすに乗ろうが、弾ける限り、ピアニストとしての人生を全うするんだな、と思ったのだ。

それなら、私もできる限りコンサートに行こう!と思った。

 

私はフジコさんのファッションも好きだった。

ご自分で仕立てのだろうか。

ガウンなような物を羽織っていられたが、美しいレースや刺繍、リボンなどが使われていて、フジコさんに良く似合っ ていた。髪飾りも素敵だった。

 

番組の中でのフジコさんの言葉。

(だいたいです。)

「私のカンパネラが一番うまいとかそういうことじゃなくて、私は自分の弾くカンパネラが一番気に入っていて他の人の弾き方嫌いなのよ。」

子供のころ、お母さまから厳しく教えられたそうで

「(楽譜通りに弾けば)コンクールで優勝するかもしれない、でも、それは違うでしょ、機械じゃないんだから」…そんなことを言った。

番組の最後に流れたフジコさんの言葉、少し笑いながら

「天国にいって(大好きな)ショパンやモーツアルトに会ってわたしの(演奏)はあれでよかったですか?と聞いてみますよ」

「きっとあれで良かったです、素晴らしいですと言ってくれると思うよ」

 楽しげだった。

死後にこんな楽しみがあるなんて、なんて素敵なんだろう。

 

先日、辻井伸行さんのコンサートに行った。

昼の時間帯の公演、しかも、地元のホール。

これは、行くしかない、とチケットを取った。

チケットを取ったのは半年も前のことだ。

素晴らしかった。最後の曲が終わった時、拍手がすごすぎて辻井さんのご挨拶がなかなか聞こえないほどだった。

でも、本当に観客が狂喜するほど興奮したのはこの後のアンコールだった。

アンコール一曲目、

ショパン ノクターン第20番「遺作」

何とも繊細で美しい演奏だった。しかしこれで終わりではなかった。

再び登場し2曲目、

あまり演奏されない曲なんですが・・・とことわりをいれて

ベートヴェン作曲リスト編曲 遥かな恋人に。

ほー、確かに聞いたことないなぁと思った。

これは、あくまでも、ど素人の私個人の考えなんだけど辻井伸行さんはなかなか挑戦的なプログラムを選ぶなぁと思っている。

そこそこの長さのある曲だった。

拍手をしながらも、さぁ、これで終わりかな、と思っていた。

ちらほら席を立って帰る人も現れた。

ところが辻井さん三たび登場。

わたしの後ろの席の男性が「お、まだ、やるのか」といったのが聞こえた。

3曲目、無言で弾きだしたが、さすがに、わたしにもこれはすぐに分かった。

リスト 「ラ・カンパネラ」だ。

 

そんなにたくさんコンサートに行ってるわけでもないけど、正直言って、こんなに熱情あふれる辻井伸行さんの演奏を聴いたのはわたしは初めてだった。

終わったときはとても座ってはいられなかった。立ち上がって拍手する。

気が付くとほぼ総立ちである。私の隣の女性は何度も「ブラボー!!」と叫んでいた。

興奮冷めやらぬ拍手の中、4度めに登場した辻井さんは客席全方向に向かってお辞儀をして、ピアノに近づいて、そっとふたを閉めた。

それがかわいらしくユーモラスで一部の客席から小さな笑い声が上がった。

 

天国のフジコさん、辻井さんのこの「カンパネラ」はどうですか?

と聴いてみたいような気持。

 

それにしてもピアニストって、なんとなく、私とは違う人種なのかも思った。