今年の全米選手権 女子のSPとフリーが終わりました。

昨年末に見たロシア選手権の女子よりはるかに見ごたえがあって面白かったです。

ロシア選手権女子を見終わった時の私の感想。

「すさまじいっ!!」の一言でした。

 

もし、今、世界大会、世界選手権やオリンピックなどがあればロシアの選手の方が

上位の成績を収めるだろうことは事は間違いありません。

クワドジャンプやトリプルアクセルなどの大技を跳べる選手が多いからです。

今の採点傾向から言ってジャンプが高得点をもたらすことは確かです。

ロシアの選手に割って入れるのは日本の紀平選手ぐらいでしょうか。

 

全米とくらべると全体のレベルから言ってもロシアの方が高い。

それでも、アメリカの大会の方が私には面白かった。

何故かな?と思い、すぐに思い当たりました。

 

・高難度のジャンプを取り入れる選手がいない。

(アンバーグレン選手が3AにSPで挑戦しましたがフリーに入れませんでした。それが、

結果的に成功したと思います)

・全体のレベルにバラつきがある。

 

正に、この二つが見ごたえがあったという事に大きな役割を果たしていました。

高難度ジャンプがプログラムに入らないという事は、容易に特定の選手が勝つという事は

想定できません。

事実、SPで70点台を出したトップ5人のフリーは大変楽しみでした。

ちなみに、女子SPで70点台と言うのはとても高い得点です。

全日本では2人しかいなかったと番組では紹介されていましたが、紀平選手と坂本選手かな。

まぁ国内選手権なのでこれは全く参考にしなくていいともいます。

 

しかし、全米選手権のSP70点台のトップ5人、それぞれに個性的で、高難度のジャンプは

入っていなくとも高いレベルで、実力的に拮抗していて、これは誰が勝ってもおかしくない、

と思えました。

こういう状況はワクワクします。

 

また、全体のレベルのバラつき。

全米選手権ですからこの舞台に出る事は大変な事だろうと思います。

それでも、下位の選手とトップ選手には大きな開きがあります。

上手な選手ばかりを見るのが楽しいか、というとそうでは無いんですね。

ロシアはレベルが高すぎて何故この選手がこんな順位に?と思う様な選手ばかりです。

皆、一様にある程度のレベルに達している。

結果、こういう言い方が妥当かどうかはわかりませんが、やや多様性に乏しい。

 

全米選手権の下位の選手はこれからの伸びしろを期待する、という様な選手たち。

ジャンプやスピンなどエレメンツをきっちりこなす事に精いっぱいで音楽表現なんて

とても及ばない。

そんな事を言ったって氷の上でジャンプしたりクルクル高スピードで回ったりする事が

どんだけ凄い事なのか、なんてことを、こういうクラスの選手を見る事で考えたりできるん

ですね。

不思議な事に。

トップ選手はアタリマエのように、こなしてしまうからでしょうか。

 

女性ボーカルの哀切に満ちたドラマチックなボーカル曲で、振り付けもそれにふさわしい動き

があるのに、終始、笑顔で演技する若い選手。

かわいいけどこの曲の意味わかってないだろうなぁーと思われる演技に、解説の岡部さんは

「もう少し曲の表現について、周りの大人が教えてあげると良いですね」なんてやんわりと

指摘。

また、別の選手に手足が長くスタイルが良いので、止まっている時の姿勢はとても美しいけど、

何もせずに移動する時のスケートも「力強く進めるだけでなく曲のイメージを考えて

エレガントに滑るともっと魅力的なプログラムになりますね」とか。

こういったアドバイスはトップ選手の演技ばかり見ているとめったに聞けない。

トップ選手はもう、それができてしまっているから。

そうして、こういうアドバイスは私のように見る側にも「なるほどねー」と参考になります。

 

フリーでグループ1の選手たちのこうした演技が終わってグループ2のトップに登場してきた

のはオードリー・シン選手。

去年のGPSのアメリカ大会で3位に食い込み清新な印象を残しました。

SPでは緊張して固くなっていたのか、ミスが続き、思わぬ順位に。

しかし、フリーではこれまでの選手たちにはない締まった演技で、最後に転倒して

しまったけど、その実力を「やはり」、と感じさせました。

こういうバラエティーに富んだ試合運びが見ている方には楽しいわけです。

 

トップ5人の選手のフリー演技で私が一番印象に残ったのがアンバー・グレン選手。

お茶の間で思わずスタンディングオベーションしそうでした。

アンバー・グレン選手はこれまでSPでは情感のこもったとても良い演技を見せてくれる

のに、フリーではジャンプに失敗し、グダグダに崩れていくというのが常でした。

しかし、SPであんな良い演技ができるのだからフリーでもきっとできるはず、と思っていました。

ロシアシングルの選手では最近は、あまり見かけないしっかりした大人っぽい体格、

力強いスケートと大きなジャンプ、それでいて細やかな情感も表現する演技。

魅力的です。

 

2年前に3Aを引っ提げてすい星のごとく現れたアリサ・リュウ選手。

3Aやクワドジャンプを跳ばなくても十分、勝負できる、という演技を見せてくれました。

SPは非常に可愛かった(もう一度見たい!)。

フリーも何もしないで滑っているところはなかったのではないか、というような

トランジション満載のプログラムを見せてくれました。

リュウ選手の個性にも合っていたと思います。

思ったより点数が伸びなかったなぁという印象です。

いくつかのジャンプの回転が足りていなかったようだと言われていました。

これからの課題ですね。

そこはしっかり強化して、アメリカを代表する選手になっていってほしいと思います。

 

優勝はブレイディ・テネル選手。

とても個性的な楽曲を選びます。

ミスなく難しいエレメンツを着々と笑顔を浮かべながら確実に積み上げていく。

見ているうちにずんずんと引き込まれ、迫力に浸されたまま、気づくとラストに近く、

その達成力にわーっ、すごいなー、と圧倒される・・そんな感覚を一度ならず感じさせて

もらいました。

初めて見たプログラムは「シンデレラ」でしたが、今、思うとテネル選手の柄では

無かったんじゃないかなー、と思ったりしています。

派手さや華やかさはないけど、私はあの最後に来るわーっとした感慨に包まれる

感じを期待してしまいます。

 

そしてグレイシー・ゴールド選手。

中々、思う様に上手くいかないのかもしれません。

ちょっと元気のなさそうな様子が気になりました。

楽しそうに滑る姿が見られたら、それだけで良いんですけど。

がんばってねー。アジアの片隅から応援してますよー。

 

書いているうちに思いましたが、結局、これって女子がクワドジャンプを跳び始める

前の状況が良いという事なんでしょううか?

あの頃は浅はかにも男子はドンドン4回転ジャンプを跳んでるのに、女子のTESは頭うちかー、なんて思っていました。

多分そんな事が書かれている記事に影響されたんだと思います。

 

ほとんどの選手がクワドジャンプを跳ぶようになった男子にくらべて、

女子は若く、身体能力に優れた一部の選手しかクワドジャンプを跳ぶのは難しそうです。

女子のクワドジャンプは、フィギュアスケート女子シングルの世界を狭めて、

やや魅力のない方向に引っ張っていく事になってしまったかなぁ、とそんな事も考えて

しまいました。