フィギュアスケート、先シーズンのアイスダンスのリズムダンスのテーマがタンゴだった。

タンゴを何回も聴く(見る)事になって、タンゴ、いいなぁと思うようになっていた。

このコンサートは母がディサービスに通う日の午後に行われ、ホールもいつも行く

近くのホールだったので「おっ!」と思って、チケットを取ったのだった、

 

しかし、おっちょこちょいな私のことである。

ちょっとしたカン違いをしていた。

タンゴにはアルゼンチンタンゴとコンチネンタルタンゴがある、ということを

良くわかってなかった。

まぁ、名前ぐらいは聞いた事があったけど・・・。

この、アルフレッド・ハウゼ タンゴ・オーケストラはコンチネンタルタンゴなのであった。

フィギュアスケートでよく使われるのはピアソラの曲で彼はアルゼンチンタンゴでしょうね。

「ブエノスアイレスの・・・」ですものね。

 

演奏が始まると、やはり抱いていたイメージと違う。

どこまでも明るいのである。

私が抱いていたイメージがこ惑的な夜とすれば、これは青空が広がる

明るい昼なのである。

でも、聴いているうちにこれはこれでいいなぁと思えてきた。

ピアソラの暗い熱情とか哀愁とかそんな雰囲気とは少し違うけれど、

どこか懐かしい。

最近、映画「晩春」の録画を見たせいか、脳内に原節子さんが活躍したあたりの

映画に出てくるような女の人のイメージがしきりと浮かんだ。

何となく幸せな気分につつまれる。

 

観(聴?)客は私よりやや上の世代の人が多かったように思う。

私が子供の頃に日本でタンゴのブームでもあったのだろうか?

皆、熱心なファンという気がした。

 

このコンサートにはプログラムというものがなくて、舞台上のオーケストラの皆さんの

後ろに大きなスクリーンがあり、ヨーロッパの美しい家並みや港や草原や花や

タンゴを踊る男女の写真が曲に合わせて映しだされ、そこに、演奏されている曲名が

浮かび上がるという趣向になっていた。

1部、2部合わせて30曲近くが演奏されるので、この曲なんだっけ?と思ったときに

いちいちプログラムを確認しなくて良くて、とても良かった。

 

それでも後で確認したいという人の為であろう、手書きの今日の演奏予定曲というのが

貼りだされていた。

休憩時間にそれをカメラに収めようとして人だかりができた。

それを横目に「全部、知ってるもんねー。」などと言っている方たちがいた。

すごいわ。

私がわかったのは、多分、誰でも知ってると思われる数曲しかなかった。

「ラ・クパルシータ」「真珠とりのタンゴ」

「黒い瞳」・・・たしか鈴木明子さんのエキシビションナンバーにあった。

「エル・チョクロ」・・・これは小塚崇彦さんがフリーで使ってた。

「ジェラシー」・・・これは荒川静香さんの凄く素敵なショープログラムがあったな。

後はクラシックの「ハンガリー舞曲第5番」と「白鳥の湖」

聞いた事はあるけど題名と結びつかないという曲もあった。

 

また、この世代になると知らない人同士でもこだわりなくおしゃべりできるようである。

二部の始まる前に後ろの席のお二人の会話が聞こえてきた。

やはり私よりは年配の方々のようである。

女性「(タンゴは)お好きなんですか?」

男性「ええ。レコードもたくさん持ってるんですが・・・プレーヤーがなくなっちゃって・・・」

女性「あら、私は探して買いましたのよ。CDは何だか軽くて・・・」

確かに私も初めてCDを聴いた時、クリーンだけど平板だなぁと感じたっけ。

この後、お二人はアルゼンチンタンゴやピアソラや以前来日した楽団の事や

日本のバンドネオン奏者のことなどを話していた。

お二人とも本当にタンゴがお好きなんだなぁと私は思った。

 

第二部ともなると、すっかりこのコンサートに魅了されてきた。

美しいスクリーンの写真の数々を見ながら演奏を聴いていると

なにか、ヨーロッパの国のどこかで、晴れた日の長閑な午後をお茶を飲みながら

ゆっくりとした時間を過ごしているというような心地になった。

いつもとは違う、でも昔は知っていたはずの、ゆったりと流れる時間が

よみがえったように感じた。

 

指揮者は流ちょうな日本語で曲名を紹介してくださり、スマートな体つきで、動きも

キレが良く控えめなユーモアが感じられる動きも見せてくれて素敵だった。

 

観客の治まらない熱い拍手に応えてアンコール曲を2曲、演奏してくれて、最後は

観客の興奮を鎮めるような「ブラームスの子守歌」で閉めてくれた。

 

温かい、幸せな気持ちで帰途についたのだった。