世の中、どんな職種であれ、その職なりの常識や決まり事があるもので、それはその職業の歴史の中で少しづつ作られてきたものであって、蔑ろにできないものが多い。

またジンクスみたいなものも、それなりにあって、験担ぎなのだけど「こういう時はこうしろ」だとか「こういう事はしてはいけない」だとか口伝えで教わるものもある。

このジンクスというのは科学的根拠とかそういうものは全く無いのに関わらず、統計的に見ると怖いくらい良く当たるので馬鹿にしてはいけない。それは、神様が見ているとしか言いようのないほどの効力を持っているのだ。

私の働いている飲食関係にも勿論このジンクスはある。

それは「魔法の言葉」だ。

 

 

ある日のこと。人気の無い道を見渡したS君が欠伸を嚙み殺しながら言った。

「今日はお客さん来ねぇっすよ。おれ、腹減ったんで賄い作っていいっすか?」

その瞬間、お店の扉が開き

「すいません、4名なんですけど。」

 

その日、お店を開ける作業がひと段落ついて、夕日の差す窓辺の席に目を細めながらYちゃんは言った。

「今日ま暇なんでしょうねー。」

その瞬間、お店の扉が開き

「すいません、ちょっと早いんですけどもういいですか?3人です。」

 

この前、お店がひと段落して客もあらかた落ち着いた夜の更けた頃。まだ閉店には幾分か早い頃。私は一息吐きながら言った。

「今日は、もうお客さん来ないっしょ。」

その瞬間、お店の扉が開き

「すいません、2人なんですけど。ラストオーダー?大丈夫です。」

 

 

こういう言葉とか、そういう細かい決まりは無いけれど、この気持ちだけは言葉にしてはいけない、そんな「魔法の言葉」。それは確かに世界にある。