「あんま人をバカにすんなよ」


ニノの計算通りになんてなるかよ。

俺は俺だからちょっとは心を許してくれてんのかななんて自惚れてたのに。

そいつがいたから俺が興味持たれてたとか。

何の罰ゲームよ。なんて屈辱だよ。


「……バカになんてしてねーじゃん」


ニノはぎゅっと拳に力を入れた。


「大体なんだよそっちが聞いてきて答えたらキレるとか意味わかんない」

「そんな出会いとか聞いてねーよ久しぶりに大野さんと会えたからって浮かれてんじゃねーよ」

「浮かれてないし!」


ハタと痴話喧嘩みたいなことに気づき、お互い黙りこんでしまった。


「………浮かれてないし比べてもないしバカにもしてない」

やっとニノがそう呟き、拗ねたように続ける。

「潤くんの顔見たらいいなってのは…今俺が好きなのは潤くんだって確認したかったのと」


「…大野さんに潤くんのこと見せつけてやりたかった」




「…………しょーもな、俺」

耳まで真っ赤にしてそう言うと、ニノはすっと立ち上がって。

「帰る。地図アプリあるから1人で帰れる」

携帯をケツポケットに入れると荷物を掴んで玄関に向かった。


「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待ってよ」

実は今すごいこと言われてた俺!?


慌てて追うとそんなに広くもないからすぐにニノの腕に届く。

細くて、筋肉なんてまるで感じられないニノの腕。


後ろ姿なのにニノが全身で恥ずかしがってるのがわかる。

これすら計算だったらマジで引くけど。


「………もうヤダ。潤くんといると俺が優位に立てない」

「なんで立とうとすんだよ」

「何考えてるか分かんないの怖いんだよ」

「俺ぐらい感情が顔に出るやついないだろ。先輩に金払わせて帰るとか」

「俺が会いに行かなきゃ会ってくれないし」

「俺だって疑り深いんだよ。そもそも陽キャ苦手だし」

「そんなのほんとの俺じゃないし」

「……そうみたいだな」


掴んだ腕を引っ張ると…ゆっくりニノがこっちを向く。

顔は下を向いたままだけどそれがまたすげぇ可愛く見える。……男だけど。男なんだな。うん。


「ニノの質問。答えてなかったね」


背中に手を回して引き寄せると、トンと肩に顎が当たった。


「俺の言う『好き』は、ニノが俺に言った『好き』と同じだと思うよ」

「………だろうね」

「何それ可愛くなっ」


ニノの手が俺の背中にまわってもっと体がくっつく。


「…やっぱ帰らなくていい?」

「帰す気ないし」

「壁薄いの大丈夫?」

「………この流れでするんだ」

「言ったじゃん。潤くんのえっち好きだって」


こいつは…なんでそういうことをサラッと言うんだ。

しかもさっき聞いた『好き』が軽く思えちゃうのもなんだかな。


「さっきの無理やりみたいなの、実は結構燃えた」

「ばーか」


そっとニノが離れて。


「いつも俺から誘ってんじゃん。たまには俺のこと襲ってよ」

「………ばーか」


それだってもうお前から誘ってるからな。