1度顔を知ってしまうとあちこちで『二宮』を見かけることに気付く。

大体いつも5、6人に囲まれてる。
中心にいて笑ってる。
男4女2くらいの割合のグループ。
『二宮』はいつもその中心にいた。

1年の時から実は俺らは色んなところですれ違ったり同じ空間にいたりしたんだろう。

俺はというと特定の友達がいるわけでもなく、どこに属するわけでもない目立たない存在で
だからなんでニノが俺に声を掛けてきたのかその時は本当に分からなかった。



「あ。やべ」
学食に向かう途中で財布を忘れたことに気付いて仕方なく携帯で自販機のコーヒーだけ買った。
まぁ午後の一コマ出れば終わりだし。バイト先ですぐまかない食わせてもらお。
ぼんやりとそんなことを考えていると。
「おっ昼飯それだけ?なんで連絡くれないの?」
人懐っこい笑顔で『二宮』が近づいてきた。
……また5、6人引き連れて。

「あ…やー…財布忘れちゃって」
「サザエさんかよ!てか名前聞いてなかったね?」
「ああ…松本、です」
「松本くんね。知ってたけど」
「へ?なん」
「なんで連絡くれないのよ〜皆お待ちかねよ?」
「え?」
またコイツのペース。
「今日サークル活動あるから。参加してよ」
「や、俺バイトあるし」
「何のバイト?」
「飲み屋のキッチン担当…」
「よしじゃあ今日はその飲み屋で活動するから終わったらそのまま参加で!どこ?近い?」
「いやそもそも俺お宅のサークル入ってない…」
「歓迎会!しよ!」
いいねいいねって取り巻きも騒いでる。
マジこういうノリ無理なんだけど。

「いや俺まだ未成年だから!飲まないし!」
「俺も未成年だよ」
「…は?」
じゃあなんでそんな飲みサー引っ張ってんだよ。
ヘッドハンティングは下っ端の仕事とか?
ていうかだからなんでそもそも俺…

「俺らだけ、ウーロンで乾杯しよ」
「…っ」
なんの魔力かその言葉に色んな疑問は吹っ飛んで。

「どこの店?」
「…新宿の、タイ料理屋…」

操られるみたいに自白してしまった。