「ムカつく」

最初からそうだった。
思えば最初から鼻につくやつだった。

人懐っこくて距離感測るのが上手くて上からは可愛がられて下からは慕われて。
男には面白いやつ女には優しいやつ。
人気者だけど自分だけはその中で一番なのかなって勘違いさせる天才。

「……何がよ」

こんな状況なのに余裕な顔で決して俺から視線を逸らしたりしない。
そういうとこ。
「ムカつくんだよ」
「だから何でよ、説明してよ」

ムカつくなんて感情を揺さぶられていることすらムカつくよ。

俺は他の奴らと同じかよ。

こんな思いしてるの俺だけかよ。



最初から───




俺だけだったのかよ。




「ねぇキミ経済学部の2年だよね?」

初めて会ったとき、ニノはそう言って隣りに座ってきた。

デカいホールの右の方。真ん中よりちょっと前。
教授はまだ来てなくて。
生徒たちもパラパラと席に着いたときだった。

「あ…うん、なに?」
第一印象は『小さいな』。
なのにパッと目を引くオーラというかなんというか、華やかさがあった。
「俺も2年。二宮っていうの。なんかサークル入ってる?」

1年でもない、入学シーズンでもないこの時期になんでサークルの勧誘?しかもなんで俺?

「や…なんか1年とき入ったんだけど飲みサーみたいな感じになってきたから全然行ってない」
「おお、キミが真面目でよかった。未成年なら飲んじゃダメよ」
「あー…ははっ、そもそもね」
「じゃあウチ来ない?」
「……何のサークル?」
「飲みサー」
「ダメじゃん」
「はははっ」
初めてなのにポンポン会話が弾んで。
ずっとダラダラこいつと喋ってたいなーって思わせる空気。
完全にペースは彼のもので、でもそれは不快ではなく寧ろ委ねたいと思ってしまう。

「とりあえずここ。気になったら連絡して」
もっと話してみたいのに。
一瞬よぎったそんな願望はまたも彼のペースで奪われて。
雑なデザインのチラシをぴら、と置くと『二宮』は軽く手を振ってホールを出て行った。

「にのみや…かずや?」
語呂がいいんだか悪いんだか分からない名前だな、と思った。