少女漫画かよ。
いや一昔前のトレンディドラマか。
どっちにしろベタ過ぎて、せっかく買ったスイーツも落とすことなく冷静に見送ることが出来た。
───ふたり、を。
さすがにこんな時間にやってるケーキ屋なんてなかったからタクシーで智んちの近くのコンビニまで行って智が好きそうなチョコケーキ買って。
(俺はもちろん水だけだけど)
俺が突然押しかけたらどんな反応すんのかなーなんて想像しながらそこからは歩いて。
『どしたの急に』って驚いてからすぐ俺の好きな笑顔で家に入れてくれてさ、『電話してよ』って言いながら部屋をざっくり片付けてさ。
『この時間にケーキかよ』って言いながら1口俺にくれたりして、そんなことしてる間になんで喧嘩してたのかなんて忘れちゃう。
そんなことを想像しながら歩いてた。
………なのに。
マンションの前にタクシーが1台。
見覚えのある人たちがそっちに歩いてくのが見えて思わず身を隠した。
なんで俺が隠れてんだろ。
普通に「あれ?どうしたの2人で飲んでたの?」って声掛ければよかったのかもしんない。
普通に「なんでよ俺も呼んでよ」って笑えばよかったのかもしんない。
…でも俺は呼ばれなくて当然だったのかもしんない。
タクシーに乗った相葉くんは窓から手を伸ばすと智を呼んで。
顔を近付けると小さく何かを囁いた。
智は少し困ったような、なんとも言えない表情で離れた。
タクシーが静かに走り出して…智は暫く動かずにそれを見てた。
そんな智を俺は見てた。
タクシーが完全に見えなくなる頃には智は嬉しそうな顔になってた。
そんな智をもう見たくなかった。
……んだよ。
なんだよ。
俺じゃなくてもいいんじゃん。
俺とは会えなくて、俺に会う気なんてさらさらなくて。
相葉くんじゃん。
相葉くんがいいんじゃん。
そうだよ昼間も相葉くんとコソコソなんか喋ってさ。
あれがアピールかよ。
何俺だけ浮かれてケーキなんて買ってのこのこ来てんだよ。
俺があなたのこと考えてた数時間、あなたは相葉くんと家で何してたのよ。
最後に何を言われたのよ。
なんで困った顔したの。
なんで嬉しそうな顔したの。
『ボタンのかけ違いは最初に直しておかないとね』
いつからかけ違えてたの?
この喧嘩とも言えない喧嘩はただのきっかけに過ぎなかったの?
『日曜以外ムリ』
───あなたは日曜以外何をしてるの。