日曜の打ち合わせに必要な書類にざっと目を通して…疑問点や質問事項を書き加えてみたものの
最近おざなりになっていたインスタ用のネタがふと気になって携帯に手を伸ばした。

だいぶ溜まってんな、写真。

プライベートの友達とか憧れの芸能人とのツーショとか。
立てると思ってなかった会場の、お客さんの入ってない風景とか誰かの舞台の打ち上げとか。
5人とか、………2人とか。

「…変な顔」
大抵ふざけて写ってる。
照れてるのかなんなのか、俺が頬でもくっつけようものなら変に口を開けたりどっか見てたり。
「俺らまともな写真ないのかよ」

反対に隠し撮りした智は難しそうな顔してるのがほとんど。
台本読んでたり振付考えてたり。
でもたまにめっちゃ酔ってる智がいてそれは笑える。

「あ…これ一昨年の誕生日だ」
俺んちのリビング。
色んな現場や色んな人にもらった花束に囲まれて、まるで自分の誕生日みたいにその中心で笑ってる智。
超いい笑顔。

このあとどうしたんだっけ。
飲み過ぎて智寝ちゃったんだっけ。
俺自分の誕生日なのにそのあと自分で皿とか片付けて───


キスだけして、隣で寝たんだっけ。

……なんかそういうの、すげぇ幸せだったな。
誕生日だからって特別えっちなことしたい訳じゃないし。
主役扱いでチヤホヤされたい訳でもないし。
なんか「普通」ぽくて良かったんだよな。

───今年も、そんな風に過ごしたかったな。


「………やっぱ連絡、しようか…な」

ホーム画面に戻って受話器のマークをタップする。
『よく使う項目』の、俺の大事な人の名前をスクロールして…
「!っ、わ」
その瞬間画面が着信を知らせて。
反射的にそのまま通話ボタンを押してしまった。

『出るの早っ』
声の主はさっきも楽屋にいた、人。

「翔くんか…どしたの」
『なにガッカリしてるのそれ?』

智だったら以心伝心、やっぱ俺のことちゃんと考えてくれてたんだなーって思えたんだけど。
違ったみたい。

『いやさ、そろそろまた何か動画配信的な企画をっていう相談と』
「精力的ですな」
『あと…智くんと何かあったの?的な』
「…えぇ?何かあった風に見えた?」

さすが翔くん。
よく見てらっしゃる。
『今日ひとっことも喋ってないでしょ貴方たち。すげぇ不自然だったよ』
…俺らが分かりやすいだけか。

「ふははっバレた?あの人頑固なんだもん」
『そこが魅力だったわけでしょ』
「…ノロケさせたいの?」
『ゴメンそれは聞きたくない』

確かに頑固はいい時はいいんだよ。
男の拘りみたいな。譲れない誇りみたいな。
でも喧嘩って違うだろ。
そこおおらかに許容するのが大人ってもんだろ。
あの人俺より歳上だよねぇ?
あ、なんかまた腹立ってきた。

『何があったか知らないけどもうすぐ誕生日でしょ。36歳最後の数日と37歳の始まり、悔いのないようにしなさいよ』

悔い、ねぇ…
別にこれがきっかけで別れるとかそんな大事になるとは思ってないけど…
けど。

けど…え、もしかして?
まじ?可能性なくはないのか?

『貴方も智くんもモテるでしょうから。ボタンのかけ違いは最初に直しておかないとね』

何それ意味深発言?
翔くんなんか知ってて電話してきたの?

「ちょ」
『あ。でさ、本題の仕事の方ね』

ちょっと翔くん!
心配してくれてんじゃなくて煽りたかったわけ!?