ちょこちょこ携帯を見ても既読すらついてなくて焦ってくる。
寝続けてるだけならいいんだけど。
…てか今日の俺のスケジュール……
「カズトイレ大丈夫?なんか道混んでるから早めに言ってね」
「あ、じゃあ次のサービスエリアで一応」
「目立つから別々にいこっか。先カズいいよ」
サングラス…は、ニノはしなかったな。
マスクをしてキャップを目深に被ってから車を降りた。
トイレを過ぎてすぐの柱の影に隠れる。
…LINEじゃ埒があかない。
直電だ。
俺のことをなんて登録してるかわかんないからキーパッドで電話番号を打ち込むと『しょさん 携帯電話』だって。普通。
そんなことを考えてたら意外とすぐに繋がってドキリとした。
『もしもしニノ?どしたの』
電話の向こうの「俺」はそう言った。
…「俺」、なのか。
「俺」が2人いるのか。
なんなんだもう訳が分からない。
「俺」ってなんだ「俺」の身体の「俺」が本物じゃないか
じゃあ今こうして思考してる「俺」は誰なんだ「ニノ」なのか?
「あの、突然だけど俺はニノじゃなくて櫻井なんだけど今朝起きたら」
『…俺はスケジュール通りにラジオ体操してからピアノ練習してましたよ』
「………っ!」
偽者じゃないか。
確信犯じゃないか。
「……アンタ誰?」
俺のスケジュールに合わせて行動してんじゃねーか。
焦ることなく冷静に楽しんでるじゃねーか。
『そっちはどうですか?』
「…ちょっと、整理したい。こうなること分かってたの?なんで俺がニノになってんの?そっちは一体誰…」
『こんな機会滅多にないじゃないですか。楽しみません?』
「滅多に、じゃねぇ。絶対有り得ない」
電話の向こうで少し笑った声がして。
『あ。誰か来たみたい。じゃあまた』
「!」
そうだ。
今日は。
今日は昼から───
ブブ、と携帯が震えた。
───潤くん来たよ。そっちも楽しんで。
潤。が……来るんだった。