日付の変わる前に打合せを終えて長い廊下を歩く。
本来翔くんに充てられたはずの部屋を通り過ぎて自分の部屋の前でカードキーをかざした。

───ホテルで翔くんはいつも自分の部屋にはいない。
じゃあどこ、ってそれはもちろん俺の部屋。

昔はわざわざ内線でモーニングコール頼んだり呼び出したり。
なんか理由つけて翔くんの部屋に遊びに行ったりそのまま朝まで居座ったり。
迷惑そうに俺の相手をする翔くんを思い出してふっと笑った。

「ただいまー」
入ってすぐのリビング的な部屋に翔くんはいなかったから寝室へ向かう。
ほんとに寝たのかな?

「おお潤。早かったじゃん」
翔くんは普通に爪切ってた。
普通にベッドの上で、普通にパンイチで。

「…ふっつー……」
「え何が?あ、もしかして誕生日?えっ改めてやるっつったよね!?」
そのまんまるな目をさらにまんまるにしてアワアワし出すから翔くんて面白い。
あんなに自信満々に司会したりキャスターしてるのにこんなことで動じすぎ。

「ふははっいーの別に。改めてやんなくてもいいの」
久しぶりに翔くんの髪を撫でる。
セットしてない分、さらにふわふわでさらさらで。
「…なんで。やるよ」
からかわれたのがイヤなのかちょっと拗ねちゃってる。
「いいの。サプライズとかやだし。普通がいい」

普通ってなんだよってブツブツ言う翔くんを残してシャワールームに向かった。



普通がいいよ。
特別なことなんて望む歳でもない。
欲しいものは自分で買えるし盛大にやってくれる友達もいる。

だからあなたとは普通でいいよ。
普通がいい。

普通にあなたがいて、約束なんてしなくても普通にあなたがいるこの関係がいい。


「日付変わるから早く出てきなよ」
ドアの向こうから急かされて。

タオルを肩にひっかけてまだ半分濡れたままで出てった俺を、翔くんは両手広げて待っていた。