その日は、潤くんはいないって分かってた。

………多分、この人も。


「…お疲れ」
自分ちのようにソファで寛ぐ彼を一瞥して、キャップをテーブルに置いた。

「ビールとかって勝手にもらっていいの?」
「…いいんじゃない?」
「アナタも飲んでるもんね」

潤くんらしく、きちんとラベルがこっちに向いた状態で冷えてるビールをひとつ取り出す。
少し距離を置いて隣に座った俺を大野さんはちらりと見た。
意識、してんのかな。

「……アナタさ、ほんとに俺のこと好きなの?」
「何、急に」

考えてみなくてもこんなのは単純な話で。
潤くんは大野さんとの関係を続けるために俺を必要としてる。
てことは潤くんとの関係を続けたいならこの人に好かれてないといけないってこと。
この人が他の人を好きになったら俺は完全に用無しなんだ。

「好きなんじゃないの?嫌いにならないでよ」
「んふふなんで?俺のこと好きになったの?」

潤くんがいるときはいつもよりポーカーフェイスで全然喋んないのに今日はちゃんと会話出来てる。
この笑い方とか久しぶりに見たよ。

「…なってないよ、なるわけないじゃない」
「それは良かった」
「え、…っ」
大野さんの即答にビールが変なとこに入りそうになって小さくむせた。

「………どういう…」
「俺ニノのこと好きかどうかわかんなくなってたんだよね」

最中の俺への扱いと、俺を見る目が確かにそうだよなって妙に納得してしまう俺と
それじゃ困ると焦る俺が2人居て、うまく返事が出来ずにいた。

「なんでだろね?ほんとに好きだったんだよ?」
「そんなの…」

合鍵を返さなきゃいけなくなるのかな。
俺やっぱ潤くんが好きなのかな。
それならこの人を上手く言いくるめて思い通りにしなきゃ。
この関係を、少しでも長く続けるにはどうしたら───
バラエティの収録以上に頭をフル回転させる。


「………好きでいて、ほしいよね?」
無理に冷静さを装う俺に大野さんは余裕の笑みで。
「ならそれ相応の態度でいてもらわないと」