いつまでも涙が止まらない俺を見て、雅紀が言った。
「潤くん、席代わって。俺が運転する」
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案の定、車が停まったのは翔のマンションの駐車場だった。
「・・・行きなよ。ちゃんと話してきて」
ハンドルを握ったまま、雅紀は俯く。
「雅紀・・・」
「俺は朝のドライブでもしてるよ。車貸してよね」
顔を上げると雅紀はいつもの笑顔だったけど、無理してるのがわかる。
「翔ちゃんを選んでくれていいから。・・・それがいちばんいいから」
ドアを閉める瞬間、雅紀はそうつぶやいた。
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玄関を開けてもらうと、翔は笑顔で立っていた。
「はは、なんて顔してんだよ」
泣きはらした俺を見てやさしく笑う。
「・・・相葉ちゃんは?一緒じゃなかったの?」
コーヒーを置くと、翔はそう切り出した。
俺は何て言っていいのかわからなかった。
「・・・意地悪な質問だったかな」
翔は俺の横に座ったけど、その距離は微妙に遠かった。
思えば翔はいつも俺にくっついてた。
家でも、楽屋でも、店でも。
『潤に触れていたいの』
―――いつか、翔が俺に言った言葉だ。
「・・知ってたよ、全部」
ちら、と俺を見たあとゆっくり遠くを見る。
「・・・え・・・?」
「知ってたよ。潤の気持ち。俺のこと好きじゃないのも、他に好きな人ができたことも」
「どうし・・・」
「ほんとはね、昨日、潤に会って別れ話するつもりだったんだ」
視線を手元に戻し、言いづらそうにゆっくり話し出す。
「潤の気持ち取り戻そうと必死でさ・・・かっこ悪くて・・・疲れちゃった」
悲しそうに俯いて笑う翔が涙でにじんだ。
「だから潤から言ってもらってよかった。自分から言ったら毎日後悔しそうで」
「翔・・・」
ぽたぽたと涙が頬に、服に、床に落ちる。
「なんでお前が泣くんだよ。振られたの俺だよ?」
そう言って俺の顔を覗き込む翔はいつものように眉をハの字にして笑った。
「翔・・・ごめん・・・ほんとに・・・ごめん・・・」
言いたいことがありすぎて、言わなきゃいけないことがありすぎて、
本当は感謝でいっぱいなのにこんな言葉しか出てこなくて。
「潤、今までありがとうな」
「・・・先に言うなよ・・・」
ごめん、翔。
最後まで、かわいくない態度しかできなかったな。
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『もしもし!?潤くん!?ちゃんと翔ちゃんに言った!?今お台場まで来ちゃったからすぐ戻るよ!!』
駐車場で雅紀に電話をするとものすごい勢いでまくし立てられた。
(お台場て・・・普通にドライブ満喫してんじゃねーよ)
と、言いたいのは我慢して素直にマンションの住人に見つからないように隠れて待った。
「・・・で・・・、ちゃんと翔ちゃんにごかいだって言った?」
とりあえず雅紀の家まで送ろうと車を走らせる。
「いや・・・やっぱあの人すごいよ。なんで俺あんな人に好きでいてもらえたんだろう」
「え?わか・・・わかれちゃったの・・・??」
複雑な顔で雅紀が聞く。
「うん。・・・ふふ。たぶん俺、振られたんだな」
「え!?どういうこと!?」
「どういうことだろ。俺にもわかんないや」
「えーーー!?」
翔。
いつか俺もあんたみたく人を愛せるかな。
今この助手席で落ち着きなくころころと表情を変えるこの人を。
あんたみたく大きく、深く、静かに愛せるかな。
そしてあんたも同じように愛される誰かに出逢えるように