・・・どうしよう。
携帯・・・ないと智困るよな。
きっと仕事が終わったらうちに取りに来るだろう。
いや、ニノと一緒にいたら携帯なんか、俺なんかどうでもよくなるかな?
タクシーを降りて部屋に戻る。
寝室の籐のかごには智の脱いだ部屋着が入っている。
それを取り出し、抱きしめてみる。
「智・・・」
思えば付き合い始めてからずっと不安だった。
最初から無理があったのかもな。
もっと自分に自信があれば。
あんたがどう思っていようと、関係ないって言えるくらい自信があれば。
あんたを想う気持ちは誰よりも負けないって自信があれば。
「ニノは・・・強いな」
一人つぶやく。
智と俺が付き合っても、ニノはずっと智を想い続けて、本人にぶつけることができる。
俺は・・・怖くてしょうがない。
拒絶されるのが。
一度手に入れた幸せを手放すのが。
━─━─━─━─━─
突然、部屋のインターホンが鳴った。
気付くともう外は暗くなっていた。
慌てて電気を点け、通話ボタンを押す。
画面に映し出されたのは智だった。
「あの・・・携帯忘れたよね?入れてもらっていい?」
「あ・・・うん」
エントランスを解錠する。
智は、何を話すだろう?
別れ話になるのかな?
ニノと・・・何を話したんだろう。
玄関のチャイムが鳴る。
俺は重い足取りで玄関に向かい、ドアを開けた。
「ごめんね。携帯ないのさっき気付いて」
「そっか。はい」
携帯を渡すと、智は居心地悪そうに立っている。
「あの・・・上がっっちゃだめかな・・・?」
言われてはっとした。このまま帰すのはおかしいよな。一応恋人なんだし。
「そう・・・だよね。ごめんごめん。どうぞ」
ソファに座っても変な沈黙が続く。
「あの・・・なんか潤くん今日変じゃない?」
「え、そんなことないよ」
「潤くんさ・・・なんか、悩み事とかあるの?」
「え」
「ちゃんと話してほしいよ。俺潤くんの恋人だよ?」
隣に座ってる智が俺の顔を覗き込む。
俺は目を見れなかった。
「今日・・・聞いちゃった?」
智の発言にびっくりして思わず顔を見る。
「・・・メイクさんが、潤くんが来たって言ってた。ニノといたから入れなかったんでしょ?」
俺は、まだ何も言えずにいた。
「ふふ、潤くんはまっすぐだよねぇ。すごく人の気持ちを考えて、自分ばっか我慢しちゃう」
智は視線を落とした。
「俺・・・潤くんが好きだよ」
「えっニノは!?」
やっと出た言葉がこれだった。
「なんでニノなの?なんでそこでニノが出てくるの?」
・・・なんで?なんでだろう。
だって智は俺といるよりニノといるときの方が楽しそうだったから。
嬉しそうだったから。
頭の中で自問自答を繰り返す。
「最初から、俺は潤くんが好きだよ。他の誰でもない、潤くんが好きなんだよ」
じわり。
心があったかくなるような気がした。
俺はいつもいつも不安で、素直にこの人の気持ちを受け止められなかった。
信じて裏切られるのが怖かったから。
傷つかないように自分でバリアを張っていた。
―――心の底の、あの声は俺が創り出したものだったんだ。
「さとし・・・」
「ニノのこと遠慮して、しなかったんでしょ」
ちょっと怒ったように智が言った。
「遠慮じゃなくて・・・」
怖かったんだよ。なんだかすごく。智とこんな風になれるなんて信じられなくて。
「じゃぁなに!?俺のこと、信じられなかったの?」
「そういうわけじゃないけどそういうことなのかな・・・」
しどろもどろに答える。
「中途半端な気持ちで体の関係になんないでしょー!?」
「イヤなんていうかごめんなさい!」
やっと、心が軽くなった。
「じゃぁお詫びに・・・今日からいっぱいしよ♪」
勢いよく智に抱きつき、そのままソファに押し倒した。
「えっ今日は俺が挿れる番だよね!?」
「知らなーい♪」
それ以上智が何も言わないように、キスで口をふさいだ。
「智・・・だいすき」
「俺も潤くんがだいすきだよ」
もう、あの声は聞こえない。