今、大野さんは一人だ。

一人でパイプ椅子に座ってる。


・・・話しかけようか?

いや、なんとなく気まずい。


潤くんの目を気にして。

二人の関係に嫉妬して。

選ばれたのが俺じゃなかった寂しさと、悔しさと。


いろんな感情が渦巻いて大野さんと俺の関係は最悪になっている。

自分がどうしたいのかも正直わからない・・・。


「にーのっ!急なんだけどさぁ、明日野球あんだけど。朝の5時!」

相葉さんに話しかけられ、俺ははっとした。

「えーいやですよそんな朝早く。第一ユニフォームなくしちゃった」

「だいじょーぶ!俺がよういするから!」

「そういうことじゃないんだよなぁ・・・」


あ。

潤くん戻ってきちゃった。


・・・今日も何も変わらなかった。



俺はどうしたいのかな。


あれから落ち着いて考えたけど・・・

このまま大野さんを好きでいるのか、諦めた方がいいのか、わからないまま。

ただただ毎日貴方を想ってる。

ただただ貴方を好きでいる。




「ニノ・・・今日ちょっと時間ある?」

「翔ちゃん」


怒鳴りつけて帰って以来、こっちとも関係が悪化したままだった。


「あぁ・・・大丈夫ですけど」

仕事終わり、いつもの店で会うことになった。



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「この前はごめん!!!」

席について開口一番、翔ちゃんは大きく頭を下げた。

「えっやめてよ翔ちゃん。俺別に」

「ほんっとーにごめん!!謝る!俺無神経で・・・その・・・ちょっと浮かれてて」


浮かれてて?


「ニノの気持ち考えないで踏み込んでって最低だよな。ごめん」


俺の気持ち??


「翔ちゃん俺の・・・気持ちって」

「・・・知ってるよ。ニノが誰を好きなのか・・・でもほんと面白がってとかじゃなくて・・・」


翔ちゃんはこっちがかわいそうになるくらい申し訳なさそうに続けた。


「もういいよ、それ以上言ったら俺がほんとにみじめな奴みたいじゃん」

「みじめなんてそんな!・・・そんなこと・・・ないよ」

「まぁいいよ俺の問題だから。オーダーしよ?」


この話をやめたくて、俺は翔ちゃんを見ないようにわざとメニューに集中した。


「そんな・・・一人で抱え込むなよ」


翔ちゃんを見ると、泣きそうな、でもまっすぐな目で俺を見てる。

「たまには俺を頼ってよ。俺・・・ニノの支えになりたいんだよ」


俺は人に悩みを相談したりしない。

人に入り込むのはうまい方だと自負はあるものの、人が俺に干渉してくるのは好きじゃない。


「・・・ありがたいけど・・・もうこの話は」

「お前のこと、守りたいんだ。お前を傷つける奴らから」

「翔ちゃん何少女漫画みたいなこと言ってるんですか」

笑ってはぐらかそうとした。

けど。翔ちゃんは俺から目をそらさなかった。



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明日。

明日からは普通に話しかけよう。


翔ちゃんも気遣うほど、俺らはギクシャクしてるんだ。

戻らなきゃ。


戻らなきゃ戻らなきゃ戻らなきゃ。


俺らはあの日出会って、最高の仲間として過ごしてきたんだ。


この気持ちは閉じ込めておかなくちゃいけない・・・



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「おはよ~」

「はよー」

大野さんと潤くんの声がして、俺は楽屋のドアに目を向けた。



・・・直感でわかった。


俺は昨日決めたことも出来ずに、そのまま二人の横を通り過ぎて外に出た。


「ニノ?」

遠くで、翔ちゃんの声がした。


俺は無視してできるだけ人のいないところまで走った。


閉じ込められなかった気持ちが、涙となって溢れてくる。


二人は。

大野さんと潤くんは。


―――したんだ。



「ニノ!」


振り返ると息を切らした翔ちゃんがいた。

「翔ちゃ・・・」


翔ちゃんは何も言わずに、俺の頭をなでてくれた。

「翔ちゃん・・・」



忘れなきゃ。

戻らなきゃ。


そう思っていたのに。


「大野さんは・・・本当に潤くんのものになっちゃったんですね・・・」


翔ちゃんは、いつまでも俺の頭をなでていた。


いつまでも、いつまでも。