ゆっくり滞在してくれる女性グループ数組と、
小さい赤ちゃん連れの親子などなど穏やかな
午後のティータイム。

 数時間しか営業していないこのカフェは
今日も恙無く閉店の時間になり、後片付けに
入る。 


 「あ、そうだ。」


 閉店時間までもう少しあるかな、という頃
カップを下げてきてくれた櫻井さんを、
飲みに誘おうかと思って口を開きかけると。
声を発するより早く、 


 「松本くんさ、カフェ閉店してからでいい
   から事務所来てくれない?」 


 そう切り出され。
返事をするだけでタイミングを逃した事を
思い出し、 なんだろう?と疑問はあれど、
まだ誘うチャンスはありそうだし…、と
ちょっと急いで閉店作業に取り掛かった。 




 簡単な清掃と日報を作成して、レジ金庫を
持ってカフェを後にする。

 外に出ると気持ちのいい風が過ぎ、挙式の
日のバイトとはまた違う、のんびりとした
仕事も悪くないよな…。と周りを見ながら
改めて思ったり。 

カフェのある建物から事務所のある別棟
までの短い距離にも、手入れの行き届いた
植栽に季節問わず花や緑が溢れていて。
 海外風建物の外観と相まって、現実と少し
離れた特別な空間に感じられ、またひとつ
気分が和らいだ。 



 「あ!松本君、終わった?」

 事務所のある棟に入ろうとしたところで、
プランナーの女性社員に声を掛けられ、 

 「あぁ、はい。今閉めてきましたけど……。
櫻井さんまだ事務所いらっしゃいました?」

 よく話す人だからそう返すと。

 「今まだ支配人と話してたけど居たよ~。」

と 笑顔で教えてくれたから軽くお礼を言って
中に入り、足早に事務所を目指した。







 「お、松本くんお疲れ。今日人入った?」 


 ノックをして入ってすぐ、上司と話してた
櫻井さんが振り向き、声を掛けてくれる。 


 「お疲れ様です。まあまあ……ですかね。
季節のタルトが好評でしたよ。」

 「そ。俺試食ん時以来食べてないな~。」

 「お持ち帰りします?包みますよ。」 

 「いや今日食わねぇから。あははっ」

 「いつでもお待ちしてまーす。」 


 だからそうやって受け答えしながら笑みを
向け、デスクで事務仕事をしてた会計担当
の社員に金庫と日報を渡し、確認をお願い
した。 

チェックのOKをもらい時計を見れば、もう
すぐ上がるのにはキリのいい時間。


 「あ、そういえば話…」 

 「ん!そうそう!待ってたよ。」 


 言いかけただけで櫻井さんは笑みを浮かべ、
こちらを向くから。 
その何となくの圧を感じて一歩後退すると、
櫻井さんの奥から支配人がニッコリ笑って
口を開いた。 


 「松本くんさ、今度インスタに上げる写真
   の撮影やるんだけど、ビジターモデルやら
   ない?」 

 「─────え?」 

 「ぶっちゃけ社内モデルやって欲しいの。
あんまハッキリ顔とか写さない予定だけど
全く写んないワケにもいかないから多少は
載るけど。メインは花嫁だから、その点を
了承してもらえれば、なんだけど。会場の
下見っつかイベントの流れを、写真付きで
上げたいんだよね。その方がイメージわく
じゃん?」

「そ…うですね……?……ぇえ?」


ちょっと予想外過ぎて理解出来なかった
俺に、仕事中の顔で櫻井さんが補足説明
してくれるけど。


「……なんで、オレ?」


その意味が分からない。
だから戸惑うまま、思ったまま質問が声に
出ていた。


「いや松本くん、イケメンだからさ。」


そんな俺に。
散々俺が言うから仕返しなのかと思った
けれど、そんな感じでもなく。

櫻井さんはマジなトーン言って、柔らかく
微笑んでみせた。



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