これは悲しく散ったもう一人の人魚姫のお話です
あるところに美しい人魚姫がいました
人魚姫はある王子に恋をしてしまいました
人魚姫はどうしても人間になって王子と一緒に暮したかったのです
ついに『死の海』と言われるところに居る魔女に会いに行きました
そこへ行く途中、人魚姫はサメに襲われて顔に大きな傷を負いました
ボロボロの体で魔女のところへ行くと魔女は薬のビンを差し出しこう言いました
「声を渡せば美しい足を、髪を渡せば醜い足を渡してやろう、」と・・・・・
人魚姫は髪と引き換えに醜い足をもらいました
人魚姫はどうしても声は渡せなかったのです
「人魚姫、いつまでもその美しい声で歌っておくれ」
それが王子の口癖だったのです
薬を飲もうとした時、魔女は笑いながらこう言いました
「人魚に戻るには、愛する王子を殺す事になるぞ」と・・・・・・
そしてその晩、人魚姫は陸へ上がり王子に会いに行きました
ですが王子は、他の女を抱きこう言い放ったのです
「近寄るな!!化け物!!!」
サメに襲われつぶれた顔
引きちぎられたような髪の毛
ぼこぼことして汚い足
彼は美しくない人魚姫は
化け物にしか見えなかったのです
人魚姫は女と王子を短剣で突き刺しました
そしてこう言ったのです
「二度と恋などするものか」
海の底のような、暗く、冷たい声でした
そして人魚姫は魔女になりました
何年かの月日がたちました
「その美しい顔があれば、王子も虜になるよ」
こう言って、薬を渡し
絶望していくのを楽しんでいました
ある時の事
薬を作っていたときでした
「うわーーーー!」
と言う叫び声を聞き外を見ると
ある男がサメに襲われていたのです
「サメめ、どこかへお行き!!私はサメは大嫌いなんだ」
そう魔女が言うと、サメは魔女を恐れどこかへ逃げていきました
「すごいおばあさん!ありがとう」
その顔は彼に似ていた
こんな男は大嫌いなはずなのに
どうしても、「おまえは嫌いだ」の一言が出てこなかった
「いてて、おばあさん薬もってない?」
何でこんなに
「あれ?おばあさん顔赤いよ」
顔が熱いんだ
「近づくんじゃない!さっさとどこかへお行き!!」
と薬を投げつけました
ビックリしながらも彼は薬をつけた
「すごいや!治ったよ」
そう言って泳いでいきました
魔女は彼のことが気になり水晶に映しては一日中眺めてました
数ヶ月が過ぎた頃
彼が魔女のところへもう一度来たときのことです
その日は流れが激しく、魔女のかぶっていたマントがめくれ
傷が見られてしまったとき
彼は優しくその傷にキスをしました
「おばあさんって照れ屋さんだよね」
魔女の頬は赤く熟れていました
おばあさんは本当に彼に恋をしたのです
また会いたいと強く思うようになりました
そしてまた会うときはそう遠くはありませんでした
ですが、衝撃的な一言を言われたのです
「陸に居る美しい姫と暮したい」
魔女は必死で彼を説得しました
「やめろ!そんな陸に行ったって辛いだけだ」
ですが彼は首を横に振り
「でも好きなんだ」
そして魔女はカッとなってこう言いました
「人間は醜い!すぐにお前なんか捨てられる!!!」
その時
聞いた事も無いような大声を出して
「ばあさんの方が醜い!!彼女を悪く言うな!!!」
魔女はビックリして、こう漏らしました
「そんな、お前はいつだって私に優しくしてくれたじゃないか」
ですが彼は顔を背け
「だっておばあさんが可哀想だったから」
といったっきりでした
おばあさんはその人魚の綺麗な鱗を剥ぎ取り、薬を投げつけました
「いった!何するんだよ!」
彼は冷たい目で魔女をみました
「それを飲めば、人間になれるよ」
魔女は彼に背を向けたまま言いました
「だからさっさと私の前から消えるんだよ!!!!」
絶望と裏切りがこもった鈍く、暗い叫びでした
「ありがとう・・・・・・・・・」
これだけを残すと、海面へと上がっていきました
魔女はそのまま深い悲しみに包まれ延々と泣き続けました
彼は人間になりました
そして姫のもとへとたどり着きました
しかし、姫に捨てられ召使として働かされ、奴隷のようになった彼を
魔女は見続けました
海の一年は陸の十年
ボロボロになった彼は砂浜に横たわっていました
その死に目を見ようと魔女は陸へと上がりました
「おぉ、臭い。汚いね。誰にも見取られず死ぬのは辛いか?」
その声を聞いたのかおじいさんのようになった彼は魔女を見ました
「あぁ、まだ生きていたのか」
魔女が足でつつくと彼は口を少しづつ動かしました
「なんだい!!私が憎いか?恨めしいか?望んだのはお前だろう!!」
そう魔女は笑いながら言いました
ですが彼は首を横に振り、かすれた声でいいました
「ありがとう。ばあさん。」
そうハッキリと
その途端、魔女は彼を抱き寄せ泣きじゃくりながら叫びました
「あぁ、好きだよう!!死なないでおくれ!!好きだよう」と・・・・・
そして二人は波に飲まれ
海の泡となって消えました
おしまい