妄想のお話です。
吉田さんはしばらくタブレットを操作して、メニューを吟味していた。
弁当屋で見るのと、少し表情が違う気がするな。
あぁ、化粧か。
さすがにすっぴんは嫌なのか、いつもより薄く化粧をしてる。
ベースメイクと眉、口紅だけかな。
「注文終わった?」
「はい。はごろも御膳にしました。」
「豪華で美味しそうだよね。
あっ、こんな事言うの失礼かも知れないけど、眉はもう少し丸く描いた方が似合うよ。
あと、今は簡単にしてるだけだと思うけど、デートの時は、リップの上にグロスを重ねるといいよ。
もう少し、明るい色でもいいね。」
吉田さんは、俺の顔をジッと見てる。
「あの、もしかして、男性化粧品のコマーシャルに出てました?」
「あのコマーシャル、知ってる?
俺さ、あそこの社員だったの。
出演料は、特別ボーナス5万円だったんだよ。
もう、転職しちゃったけどね。」
色仕掛けは失敗したから、何か聞き出したいなぁ。
料理が来てから、彼について、ゆっくり聞いてみた。
優しい、素敵な彼氏で、結婚を考えてるって。
惚気は聞かされたけど、母親については何も言ってくれなかった。
悪口を言う人は、相手を構わず言うから、吉田さんの性格が良いんだろう。
それぞれ別に支払いをして、その場で別れた。
翔さんは、同じ店で食べてたらしくて、合流してから会社に戻った。
大野さんに詳しく報告をした。
「うう~ん、じゃあ、母親の方かなぁ。
どうして反対の理由を言わないんだろ。
適当な理由を付けてもいいはずなんだよな。
相葉ちゃん、母親に接触してきて。」
「え?俺?わかった。ニノ、母親はどこ?」
相葉くんは、コートを手に会社を出ようとしてる。
「待ってください。
母親の情報は無いですよ。
まあ、依頼者に聞くわけにいかないから、ちょっと待ってくださいね。」
「じゃ、待つ。」
相葉くんは自席に戻らず、大野さんの机に行って、2人で謎のオブジェを見始めた。