後ろ髪を引かれる思い、って、こんなことを言うんだろうな。
僕は、懸命に翔ちゃんのほうを見ながら病室を後にする彼女を見送っていた。
翔ちゃんに再び視線を移すと、僕を見ていた翔ちゃん。

「櫻井くん、本当に彼女と結婚を決めて付き合っているの?」
早速だ。
副社長の尋問が始まった。

僕は、翔ちゃんみたいに、誰かと本当に真剣なお付き合いをしたことがないかもしれない。
10代、20代の頃は、もちろん女の子とお付き合いしたし、楽しかったし。
だけど、ここ数年はないかな?
仕事や、嵐でいることの大切さが先で。
それはもちろん、メンバー皆んながそうだと思ってるけど。

「彼女とは、別れるつもりで話したばかりです。」
翔ちゃんの声が渇いて聞こえたから。
「僕、飲み物買ってきます。」
そう言って、僕は一度病室を出た。

そして隣の病室にいる、リーダーとニノのところに帰ると、やっぱり2人心配そうに待ってた。
「翔ちゃん、大丈夫か?」
リーダーに聞かれて、僕は頷いた。
「ちょっと元気ないけど、これからのほうが大変かも。」
「でも、相葉さんと翔さんの気持ちは、繋がったんだよね?」
ニノがそう言った。
僕は、さっきの翔ちゃんの力強い瞳を思い出して、頷いた。
「なら、きっと翔さんは彼女を説得するよ。時間がかかったとしても、相葉さんを離すことはないから。」
「でも、彼女だって被害者だよね。」
僕は、ずっと引っかかってることを口にした。
口にしたら、やっぱり罪悪感が溢れた。
「恋に犠牲は、つきものだから。」
リーダーがぽつんとそう言った。
「時には、誰かを傷つけても、悪者になっても、突き通さなきゃならないこと、あると思う。」
「リーダー…。」
リーダーの声には、頑張れ!って気持ちがたくさんこもってる気がした。
「おいらたちも、その覚悟で生きてるからさ。1人じゃないからさ。」
「うん…うん……!」
リーダーの言葉に感動して、僕はまた涙を溢した。
ニノが僕の肩を叩く。
「後は、元気になって、翔さんも元気になって、翔さんを信じて、それでいいから。」
「ニノ…リーダーも…ありがとう。」
手で涙を拭いながら、僕はお礼を言った。
「素晴らしい未来へ、愛を叫べ、ですよ。」
愛を叫べ、の歌詞をニノが言って、ふふふって笑った。

もう、泣かなくていいよ、これからは。

リーダーのその一言が、僕と翔ちゃんを救ってくれる気がした。
大事なのは、僕の気持ち。
大事なのは、翔ちゃんの気持ち。
もちろん、彼女の気持ちだって大事なんだけど……。

「彼女さんには、彼女さんの運命の人がいますから。」
見透かしたように、困った顔になった僕をニノが見つめた。
ホント、ニノには敵わない。
「……くふふふ。」
「…はあ。やっと笑顔になりましたね。」
ニノが呆れたように言うんだけどね。
もはや、それが愛情にしか聞こえないよ。
「もう少し頑張ろうね、相葉ちゃん。」
リーダーもニコニコ笑顔になった。
やっと、皆んなの顔に笑顔が戻ってきた。
翔ちゃんの越える壁はきっと、すごく高くて。
それを、これからは僕が支えて行くんだ、きっと、ずっと。

「おいら、松潤にLINEしよ。心配してるからね。」
んふふ、って笑いながら携帯の画面をいじり出すリーダー。
やっぱり、嵐は笑顔だね。
どんな苦境に立っても。
こうして助け合えるメンバーに、心から感謝だし、僕も誰か大変な時は助けたい。


そうして、僕と翔ちゃんは、無事に仕事復帰するまでになった。
僕は毎日が50時間くらいあるんじゃないかってくらい、忙しくて。
翔ちゃんも、10月からのドラマ主演が決まって、早くも撮影が始まるみたいで。
5人の収録の時間だけが、唯一顔を合わせることのできる時間だった。
たとえそれが、ものの数時間でも。
側にいられて嬉しかった。