これから、何がどうなるのか、僕にはわからなかった。
翔ちゃんは、僕が天使になっていなくなったら、って言ってた。
今は、僕が思う。
天使を失うのは、僕なのかも知れない、と。

「小川さん、とにかくあなたもプロでしょう。落ち着いてください。マネージャーに連絡取れますか?」
淡々とした副社長の声。
「くるまに…。」
泣きながら、小さくそう答える彼女に、副社長はすぐに記者を連れ出したマネージャーに電話をした。
「…そう、そう。うまくいったのね。写真は?カメラごと?看護師が拾ったみたいだけど、他になかった?……そう、そう。」
マネージャーと話してる副社長を見ながら、翔ちゃんの頭元で跪くように、翔ちゃんの手を握る彼女を見ていた。
ただただ、彼女を見つめてた。

「駐車場に小川さんのマネがいるらしいから、連れてきて。」
そう言うと、副社長は電話を終えた。
先生に深々と一礼した。
「先生、この度は本当にご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。」
「櫻井さんのほうは、大丈夫かと思いますが。今後はこのようなことのないようにお願いします。」
先生の言葉に、
「もちろんです。どこにも漏れないようにしていたのですが、小川さん、あなたどうやってここを?」
副社長の鋭い目が、彼女を捉えた。
「翔さんの、御家族から…。」
「あなた、櫻井の御家族と交流があるの?」
副社長が問い詰める。
彼女は、ふと我に返ったように、立ち上がった。
「はい。お互いの両親には紹介済みで、何度かお邪魔したことがあります。お母様から聞いて、まさか付けられてるとは思わなかったし、なんで先に記者が到着してるのかも、わかりません。」
「あなた、櫻井と本気で結婚するの?」
副社長は容赦なく尋問する。
その声は、冷たく鋭い。
いくつもの、ジャニーズのスキャンダルをもみ消し別れさせてきた手腕が、余すところなく発揮されてるな、と思った。
「私は、櫻井さんと結婚します。」
彼女は、そんな副社長に怯まずにそう言った。

───ああ、この人は、本気だ。

まるで人事みたいに、僕は2人のやりとりを見つめていた。
そしてきっと、僕が翔ちゃんに告白するまでは、翔ちゃんもそのつもりで付き合ってたことも、わかる気がした。
まっすぐで、清楚で、儚げで。
僕も、女の子だったらよかった。
だったら、彼女と正面から戦えたのに。
──いや、違う。
僕は、翔ちゃんが好きだから、翔ちゃんの困ることになる前に諦めたかもしれない。
それとも……。

目の前の彼女が、僕だったかも、しれない。

運命なんて、わからない。
決まってても、神様は教えてくれない。
正解はこうだったんだ、って、気づくのはきっともっとずっと先のことで。

ただね、1つだけなんだ。
僕は、翔ちゃんに、幸せになってもらいたい、ただ、それだけ。