「はい、それでは収録に入ります!よろしくお願い致します!」
スタジオに入り、台本を読み、共演者の方たちと挨拶をしながら、スタッフの声に皆がスタンバイする。
「始めます!3、2……。」

カメラワークがぐるっと共演者を捉えた。
収録が始まった。

さっきの、ぴんと背筋の伸びた雅紀に、今日は本当に支えられていると思った。
会った時は、ただただびっくりしたけど、楽屋に入り、新聞や雑誌にたくさん載ってる雅紀を見て、本当に寝る間もないなか、俺と一夜を過ごした雅紀を思うと、頑張らないといけない気持ちになった。
雅紀の笑顔。
どんなに大変でも、死ぬほど忙しくても、絶対に絶やさない雅紀の笑顔。
そんな笑顔が曇ることがあるとすれば、俺たち嵐しかいない楽屋だったり、コンサート中だったり。

素、の雅紀は、神経質なところや、時に鋭い顔をしている時もある。
あまりしゃべるほうでもなかったりする。
誰か、メンバーが話してるのを、興味深く聞いてたり、歌やダンスの振りを1人、黙々としていたり。
腹筋数100回とか、やってた時期も。

「櫻井さーん?」
ハッとして、呼ばれたほうを振り向いた。
「休憩入りましたよ?大丈夫ですか?」

……えっ?

俺、何にも考えずに仕事してた?
共演者の方に肩を叩かれて我に返った。
気づけば、雅紀のことばかり考えていた。
「あ、ありがとうございます。少し席外していいですか?」
舞台裏で次の舞台準備をしているスタッフが、
「すみません、1時間ほど延びそうです。どうぞ、楽屋でお待ちください。」
と言ってくれた。
俺は、教えてくれた共演者の方にお礼を言って、楽屋に戻った。
1人の楽屋は、やっぱり淋しい気がする。
逆に、ホッとするところもある。

靴を脱いで畳に上がる。
日常化してる、新聞や雑誌のバラバラ。
その1つ1つに、雅紀が載ってて、雅紀のインタビューをチェックしてる。
何を思い、考えながら、いま仕事してるのか?とか。

備え付けのコーヒーを紙コップに淹れて、口に含んだ。
雅紀の家とも、ニノんち、いや智くんちで出たのとも違う味がする。
さっき、彼女とすれ違った。
メールの返事をどうしようか、悩んでもいる。
「ふー。」
1つ、息をついて。
どうしようか、悩んでも考えても、今の俺の中途半端な気持ちに答えがない。
雅紀はずっと側にいた、言わば家族より長く一緒にいるかもしれない仲間で。
彼女は、俺のことをきちんと理解してくれる素敵な女性だ。

なんだこれ。
この言葉を何度呟くのか。
こんなどっちつかず、そのうち両方に見放されるな、なんて思う。
そのとき、見ていた雑誌の見出しになってた、雅紀のコメントに目が止まった。


〝 どんな仕事もいいことだけじゃない。辛いときもある。でも、そんなときこそ笑っていたい。ハッピーは伝染するものだから。〟


雅紀の、雅紀らしいコメントだ。
こんな、寝る間もない毎日の中で、それでもブレないようになった。
俺たちは、確実に成長した。
若い頃はやりたい放題、ワガママもやった。
俺はとにかく、大学との両立に追われて、正直、学校のほうに必死だった。
松潤は遅れてきた反抗期で、ニノがちょっと困った顔してたな、とか。
リーダーは、やる気があるのかないのか、のらりくらりとかわしながら仕事してて。
そんななか、雅紀だけは、今と変わらない。
もちろん、10代の頃はそれなりに遊んだりしてたみたいだけど。
雅紀は体が弱くて、気胸あるし熱出しやすいし、体は細いし。

……と、そこまで考えたら、昨夜の雅紀が再び蘇った。
薄明かりに浮かび上がる、雅紀の細い体。
肩に残る紅い痣。
愛しくて撫でた、俺の手。
雅紀が掴む、俺の肩。

無性に、恋しいと、思っていた。