昔むかし、片田舎に、金むらや金兵衛という者がいた。

生まれつき、心が優しく、風流の解る男である。

人生を大いに享楽しようと思っていたのだが

とても貧しく、思う通りにはならなかった。

その為、繁華の都へ行き、奉公口を見つけて稼ぎ、

世に出て、思うまま浮世を楽しもうと思ったそうだ。

まず、「江戸の方へ」、と決めたが、

運の神で名高い*目黒不動尊に寄り、幸運を祈ることにした。

その内、夕方になり、腹もぺこぺこになったので、

名物の粟餅を食おうと、店に立ち寄った。

そもそも目黒不動尊は、ご利益があると、多くの人に知れ渡っている処である。

本尊は、最澄の弟子である慈覚大師の作で、寺号を竜泉寺と云った。

最近の名産に、粟餅と餅花というものがある。

竹を割って、*花のように結び、これに赤・白・黄の餅を、

これまた花のようにつけたものなので、"餅花"というそうだ。

金兵衛「江戸へ出て、*番頭の地位になんとか昇進して

     臨時収入や、へそくりをしこたま貯め、

     贅沢の限りを尽くしてやろうではないか。」

金兵衛「もしもし、今は何時位なのだ。粟餅を一人前、急いで頼むよ。」

女「はいはい、大方昼過ぎで御座いましょう。奥へどうぞ。」



*目黒不動尊

現・東京都目黒区下目黒三丁目にある寺。

毎月二十八日の縁日には、ピクニックがてらの参詣人が多かったらしい。

私も"ピクニックがてら"参詣に行こうかしら。


*花

原文では、「華まん(変換出来ない・・・・!」)となっています。

仏像や寺院内部を飾る為の、金属製の花。


*番頭

下級荘官や武家の警護役。

又商家の雇人の頭で、店の万事を預かる者も指す。

どちらの意味なのかは、ちょっとワカラナイデスネー。



※お世話になった御本※
「日本古典文学全集(黄表紙・川柳・狂歌)」浜田義一郎、他/小学館
「広辞苑 第六版」/岩波書店
「明鏡国語辞典」/大修館書店
「全訳古語辞典 第三版」/旺文社






餅花を食べてみたい。それだけです。

今もあるんでしょうかねえ?

あるのでしたら、ご縁ということで食ってやる!

あ、でも甘いのかなあ?

金兵衛さんがお昼に食べる位だから、塩味かも。

台本書きなのは、仕様です。

原文がこのような書き方なので。

黄表紙は全部台本書きなのか・・・と思いきや、

校注者が読みやすくするために付けたのですね。

個人的に、「寺号」という言い方が好きです。

「屋号」とか「寺号」とか、時代があって良い。